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吉田佐和子執筆記事

演奏家と音楽療法士の仕事を両立!ークラリネット奏者・天木瑠里子さん

皆さんこんにちは、クラリネット奏者の吉田佐和子です。

今回は名古屋を拠点にクラリネット奏者と音楽療法士として働いている天木瑠里子さんにインタビューをしました。

今から5年前、わたしに演奏活動と音楽療法士としての活動を両立していくことについて相談するために、わざわざ名古屋から大阪まで来てくれた瑠里子ちゃん。

とても行動的な彼女ですが、卒業後すぐに大学時代に学んだ音楽療法を活かすために就職した場所で起こったある出来事がきっかけで演奏活動を続けていきたいという想いをより一層強く持つようになり、今は実際に2つ仕事を両立しながら働いています。

多くの人が経験するであろう大学時代の葛藤や、大学卒業後も演奏活動を続けていくために大学生の頃から出来ることなど、共感できる部分やすぐに参考に出来るお話を沢山聞くことが出来ました。


天木瑠里子
愛知県名古屋市出身。幼少期からピアノを学び、12歳からクラリネットを始める。
高校は吹奏楽の名門、愛知工業大学名電高等学校に入学。多数の大会に出場し、優秀な成績を残している。
大学は名古屋音楽大学音楽療法コースに入学し、音楽療法を学びつつジャズに興味を持つ。
卒業後はライブハウスでの演奏や名古屋ジャズストリートなどの多数のイベントに出演。
2019年からヴォーカリストとしての活動も開始。声とクラリネットのあたたかなサウンドを大切にし、名古屋を中心に活動の幅を広げている。ジャズを日景修氏、岡崎正典氏に師事。
現在は演奏活動や音楽療法活動、吹奏楽のレッスンなどを行っている。

大学卒業後の進路を決めた時に重要視したことは?

吉田:今日はよろしくお願いします!まず、大学卒業後の進路を決めた時に重要視したことは何だったのかな?

天木:わたしは、大学の専攻が音楽療法学科ということもあったので、そこで身につけた知識が活かせるところを一番重要視しました。

吉田:そうなんだね。ちなみに就活はどれくらいから始めたの?

天木:就活が始まる時期から企業説明会などには足を運んでましたね。

吉田:実際にそういう場に足を運んでみてどうだった?実際に行ってみて、音楽療法を活かせそうな会社には出会えたのかな?

天木:いえ、もう見に行っているところがほとんど一般企業だったので、色んな会社を見てみて『一般企業は音楽療法をあまり求めてないんだな』ということを目の当たりにしました。それで、介護系や福祉系に絞って、何か自分が学んできたことを活かせる進路はないかなと考えていました。

吉田:なるほど。介護系や福祉系の進路に絞って、具体的にはどんなことをやっていたのかな?

天木:その頃は、音楽療法士として働きたいという気持ちと、演奏活動を続けていきたいという気持ちが凄くぶつかっていて、自分でどうしていいか分からなかったんです。

それに、フリーで音楽療法士としてやっていくような経験もないし、ツテもなかったので、厳しいなと思っていたんですが、4年生の7月頃に大学の音楽療法の先生に相談した時に『こんな求人もあるよ』と就職先を紹介してもらったんです。

その頃、ちょうど祖父が倒れたこともあって、自分の将来を考えて「就職しなきゃ」という気持ちが強くなっていたこともあって 、そのお話をお受けすることにしたんです。

でも、今振り返ると自分の意思を持って進路を決めたというよりは、焦りや環境の変化に流されてしまった部分もあったかもしれません。

吉田:なるほど。わたしは4年生の夏休みの頃に見つけた私立高校の非常勤講師の求人を見て申し込んだんだけど、あの時のわたしも今振り返ると卒業後の進路を決めなきゃ!って凄く焦っていたと思う。

4年生になるとどうしても冷静に物事を判断できないような状況になりやすいから、出来るだけ早い段階で何かアクションを起こしていけるといいのかもしれないね。

ちなみに、演奏活動を続けていくために何か大学生の時に起こしたアクションはあったのかな?

天木:将来のために、というのは特に意識してなかったんですが、大学生の時から仲間とライブをやってましたね。

吉田:今はジャズシーンでの演奏がメインだと思うんだけど、ジャズにはいつ出会ったの?

大学2・3年生くらいの時にジャズのサークルに入って、それでジャズをもっとやっていきたいと思ったんです。大学のカリキュラムでは好きな授業が沢山とれたので、ジャズ科の授業は全部とってましたね。

吉田:すごい!自分の興味を持ったことを深く学べるのは嬉しいね。

ちなみに同じ学科にはたくさん同級生がいたの?その子たちはどんな感じで進路を考えていたのかな?

天木:同級生は2人いたんですけど、1人は音楽療法を続けずに一般企業に勤めると決めていましたし、もう1人は音楽療法を施設でやりたいので放課後デイサービスに勤めるという感じでした。

吉田:なるほど。じゃあ同じような進路を考えている人は身近にいなかったんだね。るりこちゃんが将来について悩んでいた学生当時、例えば自分が叶えたい将来像に近い活動をしている人はいたのかな?

天木:いなかったんですよね。

吉田:今はいるのかな?

天木:うーん。音楽療法科を卒業して、音楽療法士として働きながら演奏活動をしている人は今もいないですね。

吉田:そうなんだね。じゃあ同じように音楽療法のお仕事と演奏活動を両立したいと思っている子から見ると、るりこちゃんの生き方は希望を持てるだろうし、憧れのような存在だね!

天木:なるほど、そうなるんですね。そんな風に考えたことはなかったです。

大学卒業後の進路

吉田:次に、大学進学後の進路について詳しく教えてもらえるかな?

天木:大学卒業後は大学の先生に薦めていただいた重度知的障害のある人が入る支援施設に就職することになったんですが、音楽療法士としてではなく介護士として働きながら音楽療法をしていました。

当時は音楽療法が出来ることに対して喜びがありましたし、折角掴んだチャンスだったので、その働き方には納得していたんですが・・・

ただ、最初は施設で対応するのは知的障害の寝たきりの方だと聞いてたんですが、実際に働きだすと最重度レベルの知的障害の方に対応しなければならなかったんです。

その施設で対応しなきゃいけない対象者さんは、普通に動けるし、物を投げたり、蹴ったり、引っ掻いたり、噛まれることも日常的にあるんです。それに加えて自傷行為もあったりして。

私は学生の時に実習には行っていたんですが、そこまで重度の障害を持った方を相手にしたことがなかったので、凄く畑違いだと感じてはいたんですね。

そんな中で、ある日施設の利用者さんと一緒にお散歩していた時に、すごい勢いで手を噛まれてしまって、手が痺れて動かないくらいの大きな傷ができてしまったんです。

その時に『このまま働いていて怪我をして手が上手く動かなくなったらピアノも弾けないし、クラリネットも吹けない』って凄く思って。それで音楽を続けたいということを凄く感じました。

吉田:それは本当に大変だったね。でも実際に働いてみないと分からないことってあるよね。

天木:そうですね。そこでは、施設の雰囲気やスタッフさんの様子が分かるので、働く前に必ず事前に職場を見学する大切さを学びました。

その後は少し引き籠ったりしたのですが、ジャズの先生に凄く励ましてもらってライブをするように薦めていただいて、少しずつライブをやり始めたり、知人の方を通じて重度心身障害のある大人の子どもの放課後デイサービスを提供している法人で未就学児から40代の人たちを対象に音楽療法をすることになりました。

吉田:音楽療法士としてのお仕事と演奏活動が軌道に乗ってきたのは、卒業して何年目くらいだったのかな?

天木:卒業して2年目の頃から、今も続けている音楽療法のお仕事が始まったり、同級生が地元の中学校の先生になって吹奏楽部の顧問になったことで、部活のクラリネットパートの指導を頼まれたりするようになりましたし、少しずつ色んなイベントでも演奏させてもらえるようにもなりました。

吉田:なるほど。やっぱりお仕事は突然降ってくるものではなくて、人とのご縁が大切だね。

2つの仕事を両立する上で大変だったこと

吉田:じゃあ次に、お仕事をしながら演奏活動をする上で大変だったことを教えてもらってもいいかな?

天木:音楽療法と中学校のレッスンは月に回数が決まっているので、毎月仕事量は変わらないんですが、演奏の仕事が繁忙期などで入ってくると結構大変です。

忙しくて、練習する時間はないけど、本番がやってくるというか(苦笑)

吉田:そういう時はどんな工夫をして乗り切ってるの?

天木:もう自分が慣れた曲で乗り切っています。

吉田:なるほど。自分が自信をもってお届けできるレパートリーをある程度持っておくのは凄く大事だよね。

天木:そうですね。卒業して2.3年はレパートリーの少なさには苦戦しました。最初は譜面が沢山入るファイルに半分くらいの量しかレパートリーがなかったんですが、今は2冊半くらいはありますね。

吉田:お〜すごいね!じゃあジャズの演奏活動と何か別の仕事を両立していきたいと思っている人は、大学生のうちからしっかりとレパートリーを持っておくのがおすすめだね。

天木:そうですね。沢山持っておくといいと思います。あと、ジャズのスタンダードナンバーを演奏できるのももちろんですが、誰でも聞いたことのあるようなポップスや昔の曲を演奏できるようになっていた方がいいですね。

吉田:確かに・・!

天木:自分のライブだったら好きな曲をやればいいと思うんですけど、ホテルや街中のイベントで演奏する場合、スタンダードナンバーだけやってもつまらないんですよね。

吉田:その通りだね。タイプの違う曲を自分のレパートリーとして演奏できるようにしておくのは大事だね!

ちなみに音楽療法で大変だったことはあるかな?

天木:大学時代に授業内で音楽療法のデモンストレーションをしていたときの話なんですけど、私がメインで進行をしていたんです。
そのときは、ピアノ伴奏や、進行をサポートしてくれる同じ学科の仲間がいたんですが、実際に施設で音楽療法を行ったときには、全部一人でやらなければいけなかったので、それが大変でした。

伴奏して、歌って、指示して、利用者さん全員のことを見て。ずっと伴奏をしていると、利用者さんのそばに行けないので、どうしよう!となってました。

吉田:実際にそれはどうやって対処したの?

天木:ピアノを弾くことを諦めて、スマホで音源を流したり、アカペラで歌いながら利用者さんのそばに行ったりしてましたね。

吉田:へぇ〜!色んな工夫をしてるんだね。

天木:そうですね。最初は大変でしたけど、今は施設の方々がすごく協力的なので、利用者1人1人に施設のスタッフさんがついてくれるなどして、良い雰囲気で音楽療法が出来ています。

吉田:それは素晴らしいね。やっぱり大学時代に経験できることってそんなに多くないから、実際社会に出ると色々戸惑うこともあるけど、周りの方々がサポートしてくださるのは有難いよね。

私は音大ではほとんどの時間を演奏力を向上させる為に使っていて、指導するという経験が少ない状態で非常勤講師として働き始めたので、例えば同じ内容の授業をしても、あるクラスでは大成功、別のクラスではシーンとなったことがあった時など、どう対処するのが良いのか?なかなか掴めないことが多かったなぁ。

2つの仕事を両立するための秘訣とは?

吉田:最近は音楽に関係のない会社で働きながら演奏活動をしたいと思う人も増えてきてるんだけど、瑠里子ちゃんはどうして音楽療法士としての仕事とクラリネット奏者としての活動を両立させることが出来たのかな?

天木:働く時間帯が違うからですね。音楽療法は14〜15時の時間帯のことが多いですし、ジャズのライブのリハーサルは夕方からなので、両立しやすいんです。

吉田:確かに!そういう意味では両立しやすいね。

天木:土曜日とかだと、午前中は吹奏楽部のクラリネットパートを指導して、お昼から音楽療法をして、夜はライブ!っていう時もありますね。

吉田:すごい!パワフルに働いているんだね。沢山の人が瑠里子ちゃんの活動を通して笑顔になっている様子が思い浮かんだよ。

音大生や若い音楽家へのメッセージ

吉田:最後に、将来について考えている音大生やフリーランスにひとことメッセージをお願いします。

天木:日々状況が変わってくるので、学び続けることが大事だと思います。

もっとクラリネットを上手く演奏できるようになりたいので、演奏活動をする上で学び続けるということは大事です。音楽療法をする上でも、流行りの曲をチェックして実践に活かしたり、音楽療法学会に行って最新の研究発表や実践報告を聞いたり、参考文献や音楽療法に使用できる最新の楽器をチェックしたりしています。

あと、私は大学3年生や4年生の時に、卒業するってことが不安で仕方なかったんです。音楽療法を活かして活躍できる場所がないという息苦しさを抱えながらも、演奏活動も続けていきたいっていう思いもあって、悩んでいました。

でも、今となっては悩んだことも無駄じゃなかったと思っていて。凄くどっちもやりたいっていう思いがあったから、今どっちもやれてるんだと思います。

そして、そのどっちもやれるんだっていうのは佐和子さんに教えてもらったんです。

吉田:え!私!?(笑)

天木:そうですそうです。佐和子さんが「どっちもやればいいやん」って言ってくださって。

やっぱり自分の本当の気持ちと向き合うのが凄く大事だと思いました。

私の場合、周りの雰囲気に流されて就職してしまったという気持ちがあって、そこで怪我をしてしまったこともあり、その体験があったからこそちゃんと考えるきっかけになったんです。

なので、自分とちゃんと向き合って欲しいですね。

吉田:『自分と向き合って欲しい』というキーワードは、これまでにインタビューしてきたピアニストの崔理英さんコントラバス奏者の井口信之輔さんとの会話でも仰ってたんだけど、わたしも本当に大事なことだと思ってるよ。

将来を考えて不安を感じた時や、周りの雰囲気に流されてしまいそうな時は、大学の同じ学科を卒業した先輩など、同じように悩まれた方にお話を聞けるOB訪問のようなシステムがあれば良いのにね。

自分が目指したい将来像に近い人に話を聞くことで、大学時代から出来ることについて情報が得られて、大学卒業後の選択肢も広がっていくからね。

この記事を見た人が瑠里子ちゃんに会って話を聞いたような気持ちで、何か参考になる部分を見つけて、行動を起こしてくれたら嬉しいな。

今回は色んなお話を聞かせてくれてありがとう!

<天木瑠里子さんのコンテンツ一覧>
オフィシャルサイト:https://ruricl.amebaownd.com/
Instagram:https://www.instagram.com/0orurico0/
Twitter:https://twitter.com/ruricocoo

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