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テレワークと演奏活動を両立!ークラリネット奏者・髙嶋友実さん
こんにちは、クラリネット奏者の吉田佐和子です。
今回は大阪音楽大学の同級生で、同じ門下で学んだクラリネット奏者の髙嶋友実さんにインタビューをしました。
現在、IT企業で正社員として働きながら、演奏活動も行っている髙嶋さん。
音大時代、演奏活動を続けやすい仕事について試行錯誤したことや、音大で学んだことが会社での仕事に、そして会社で学んだことが演奏活動にも活かせると感じておられる点など、参考にしていただける部分も多いと思います。
髙嶋友実プロフィール
12歳よりクラリネットをはじめる。長門由華、ミケーレ・インチェンツォの各氏に師事。2009年大阪音楽大学器楽学科管楽器専攻卒業。在学中クラリネットアンサンブル「ロン・ポルタイユ」を結成。
2007年日本クラリネット協会主催「第4回クラリネットアンサンブルコンクールB部門一般」において第1位及びパルテノン多摩賞受賞。大学卒業後、郷の音・市民コンサート実行委員会主催「第20回シティ・フレッシュコンサート」出場。幼稚園、学校、福祉施設、などの数々のイベントへ出演。現在、三田市民オーケストラ団員。室内楽グループ「ウッデイ・ムジカ」所属。
「できること」と「求められる」ことを考えて決めた音大卒業後の進路
吉田:この連載で同級生にインタビューするのは初めてなので、どんな話を聞けるのか楽しみにしてたよ。今日はよろしくお願いします。
まず最初に、音大卒業後の進路を決めたときに重要視したことって何だったのかな?
髙嶋:わたしは「やりたいこと」「できること」「求められること」という3つを重視したよ。音大卒業後の仕事をどうしようかな?と考えた時に、卒業後すぐに演奏家としてお金を稼げるかという可能性は非常に低いと思っていたの。
髙嶋:プロの演奏家として活躍できる人は一握りだという厳しい世界であることを知っていたし、実際に超絶技巧を繰り出す人たちと戦って自分が世界一になれる自信もなかったから。
吉田:確かに、クラリネットを吹くことが「やりたいこと」で「できること」であっても、それが「求められること」でないと、仕事にならないよね。
髙嶋:そう。演奏を仕事にすることは一旦置いておいて、他の道を模索するためにとりあえず就職活動をしてみたの。
すると、一般大学の学生たちは、みんなやりたい仕事を選んでいるというよりは、自分が役に立てそうなジャンルを自分で見つけて「やれる仕事」をするために就職活動をしてるんだということに気づいて。
もちろん好きなことを仕事にできたらそれはとても幸せなことだと思うけれど、じゃあ好きなことを仕事にできなかったら不幸なのかというとそうではなくて、この3つを意識して、働く先を考えることで、幸せな社会人人生を送ることができると確信が持てたんだ。
そういう考えから、できるだけ好きなこと、できることで、求められることを重視して選んでいったって感じかな。
吉田:なるほど。ちなみに、就活はどんな風に始めたの?
髙嶋:当時、大阪音楽大学は主に演奏家を育てるカリキュラムだったこともあって、就職活動をする人も少ないし『就職活動をする=演奏家としての将来をあきらめた』と見られるような風潮があったから、就職活動していることを知られることが怖くて、こそこそと周りに知られないようにしていたことをすごくよく覚えてるよ。
わたしは卒業後は演奏家として仕事をするという気持ちに対して見切りが早かったから、4年生になったときに大学のカリキュラムをこなせば演奏家としてデビューできるだろうという安易な期待は早々に捨てて、就活サイトに登録して動いていたかな。
吉田:なるほど。冷静に自分の能力と社会の状況を認識して色々行動してるのが素晴らしいね!
わたしは音大時代、そんな風に考えられてなかったな・・・。
目の前のコンサートやコンクールに必死になって取り組んでたら、気が付いたら卒業しなきゃいけない時期が近づいてたし、同じ門下にいたから近い存在だったはずなのにそんな風に将来について考えてたのを知らなかったから、いま驚いてる。
仕事と演奏活動の両立を模索した音大卒業後
吉田:次に、大学進学後の進路について教えてもらえるかな?
髙嶋:最初は自分の演奏活動に活かせるように音楽の業種にこだわっていたから、大学生の時にもやっていた音楽事務所で社会人アルバイトとして雇ってもらったんだけど、時給もあまりよくなかったから、収入を求めて別の会社で契約社員として挙式の音楽プランナーとして働いたよ。
でもそこでも、朝から晩までフルタイムで働いたにも関わらず自分が欲しい収入額には満たなくて、やっぱり音楽の世界ってわたしたちプレイヤーだけじゃなくて、事務所とかホールとか、そういうところもお金がないんだなって思って。
吉田:あ~なるほどなぁ。
髙嶋:収入面が確保できないと、演奏活動をする上で、楽器を買ったりとかメンテナンスにもお金がかかるのに、なかなか思うような活動ができない。そうすると、親に支援してもらっていた音大生のときよりも自分のできるクオリティーが下がってくるんだよね。
吉田:わかる。わたしも「大学時代より苦しい」って思ったことは何度もあったなぁ。
髙嶋:で、だんだん「これって本末転倒なんじゃない?」って思ってきて。次に、お給料につられて地元で大人気だったケーキやさんに就職するのよね。
吉田:あ、あの住宅街に突如大行列ができることで有名なケーキ屋さんね!
髙嶋:そうそう。そこでは派遣から契約社員になれたこともあって、収入面は希望額を確保することができたのだけど、次は忙しすぎて「時間」がなくなってしまったの。
ケーキ屋さんはお正月、ハロウィン、クリスマスなどイベントごとに繁忙期があるし、さらにそのお店がまた“超”がつくほどの有名店だったから、そりゃもう演奏活動のためお休みしますなんて言ってられないくらいの忙しさだったんだ。
このときに、演奏活動と繁忙期が被る仕事をすると、両立することが難しいってことに気づいたんだよね。
演奏活動も季節ごとにイベントがある時期にコンサートをしたりするから、その時期に演奏活動をすることは体力的にもきつかったし、本番のためにお休みするとなると会社にも迷惑がかかるので、季節的なイベントに左右されないジャンルの市場にいこうと思って、次は事務職に就職することにしたの。
髙嶋:そうすることで、やっと「お金」と「時間」が確保できるようになった。
だから、演奏活動を続けて行きたい人が就職先を選ぶときは、契約社員や社員などの雇用形態で選ぶのではなく、業種で選んだ方がいいなって思ったんだ。
例えば、決算期だけは残業はあるけど、基本的には残業はない。月初は忙しいけど、あとは普通とか。時間的にも安定した職種を選んだ方がいいってことに気付いたのが27歳くらいのときかな。
吉田:なるほど。わたしが私立高校の音楽科非常勤講師の募集要項を見て応募した時は、勤務時間と給料だけを見ていたけど、音楽活動と両立して働きたい場合は業種や繁忙期を考慮するといいね。
髙嶋:そうなの。だから、卒業後は演奏活動と仕事のバランスを模索して転職を繰り返しながら、やっと演奏活動と両立できる仕事に辿り着いたって感じかな。
そして、仕事をするために必要な資格があるんだったらとっておいた方がいいと思う。
人前で演奏するためにより高い技術力、より豊かな表現力を身につけるのと同じで、仕事においても活躍するためにそういった準備が必要だよね。
わたしたちがレッスンで演奏技術を磨いている間に、一般大学生は就職するための準備を入念にしているし、就職活動ではそういう人たちと競り合うということになるので、有利な状態で正社員になれるように取れる資格は取得しておくに越したことはないから。
吉田:たしかに。それで、事務職を経て、現在働いてるIT企業で正社員として働くようになったんだよね?
髙嶋:そうそう。この就職をきっかけに演奏活動を加速させることができたの。
一番大きかったのが通勤時間の削減だった!7年前の創業当時から社員全員がテレワークをしている会社で、PCとネット環境さえあればどこでも働くことができるよ。
髙嶋:例えば通勤時間が往復2時間かかっている人がいるとしたら、その時間を楽器の練習時間にあてることもできるよね?今でこそ「テレワーク」という言葉が身近だけど、その当時に巡り合えたことがとても幸運だった。
吉田:なるほど。演奏活動を続けていきたいと思っている人は、テレワークができる企業を中心に就活するのもいいかもしれないね。
髙嶋:そうだね。そして副業がOKだったことも演奏活動を続けやすい理由だね。
今や国が副業を推奨する時代になったけれど、実際には副業NGという会社はまだまだ多いし、演奏活動している=仕事を頑張る気がないと見られたことも何度もあって。
でも、今勤めているところはわたし以外にも自分の夢や目標のための活動をしている人がいて、演奏活動をしていることが特別ではなく悪目立ちすることがなかったんだ。
むしろ、『従業員がそういった活動をしていることは会社にとってもメリットだよ』と会社側も応援してくれている状況で、こういった環境に身を置くことで「時間」という物理的な効果だけでなく精神的にも救われたし、他ジャンルで活動する人達との交流もまた刺激となりより活動を加速させることができたよ。
吉田:すごい!演奏活動を応援してもらえる環境で働けるのってすごく嬉しいことだよね。
髙嶋:そうだね!就職活動時は自分の演奏活動に活かせるように音楽の業種にこだわっていたけれど、意外にも演奏活動に活かせる部分や共通点を感じているよ。
音大生の頃は、自分が舞台でより良い演奏が出来るように頑張っていればよかったけれど、卒業したらそれだけでは通用しなかった。イベントやコンサートを企画、創造するプロデューサーとしての能力も求められるよね。
企画からはじまり、予算等スケジュール管理、チラシ、プログラムの作成、お客様を呼ぶための広報活動、会場側との進行打ち合わせなど本番までにすることがたくさんあるし、このプロセスを1つ1つしっかりおさえていかないと舞台はとんでもないことになってしまう。
この大切な「創る」という能力を多くの音大生が習得せずに卒業してしまっていると思うんだ。
今の会社は音楽の業種でもないし、やっている業務も音楽と全く関係ない内容だけれど、お客様に商品やサービスを提供するためにはコンサートを開催することと同じように多くのプロセスを踏まなければならず、そこに音楽と共通するものを感じているよ。
わたしは、音楽業界で活かせるノウハウや知識を会社で磨いているんだ。
吉田:なるほどなぁ。一般企業で働くことは演奏活動にも活かせることを身に付けていけるということを、もっと沢山の人に知ってもらえたらいいね。
現在の音楽活動
吉田:現在どんな音楽活動をしてるのか教えてもらえるかな?
髙嶋:現在は、地元のオーケストラで演奏をしているのだけど、実行委員としてコンサート開催にあたって必要な会議に出席したりもしているよ。
あと、最近は異業種の方とオンラインコンサートを企画することにも挑戦していて、料理講師の方とコラボしてイベントを開催したよ。
料理講師の方が音楽家の愛した料理やスイーツを現代で美味しく食べられるように再現して、レシピの作り方を紹介し、わたしは音楽家の作品を演奏して当時の様子を紹介したのだけど、定員の100名を超えるお客様に全国から視聴して頂けてびっくり!
これからも『こことコラボするの?、無理じゃない?』と思われるようなところとコラボして、自分だからこそできるオリジナルの企画をやりたいなと思ってる。
吉田:イベントは大成功だったんだね!音楽以外のコラボイベントはこれからもっと広がっていきそうだね。
演奏活動の拠点は故郷の兵庫県三田市になるのかな?
髙嶋:うん、そうだね。活躍の場を求めて大阪や東京に拠点を移す人も多いと思うけれど、地元で活動を続けてるのは、やっぱり昔から応援してくれてる人たちがいて心強いから。
わたしが活躍している姿を見せることがその人たちに恩返しできることだと思うので、地元は大事にしてるよ。
もしこの先、地元を離れることになったとしても何らかのかたちでできるだけ貢献し続けたいな。
吉田:分かる。わたしも故郷での活動を大切にしてるけど、やっぱり特別な思いがあるなぁ。
髙嶋:何か始めたりするときにも、地元の人たちが協力してくれたりするし、自分の活動の幅を広げるためにもやっぱり地元の人たちとの繋がりは大切だよね。
地元を中心にリアルな演奏活動をしつつ、オンラインでの活動も展開をしながら普段はクラシックの演奏会に行くことがない人も開拓してるよ。またリアルでイベントするときに、オンラインで出会った人をお誘いしたら来てくれるかもしれないしね。
仕事と演奏活動の両立において、重要なことは時間確保
吉田:お仕事をしながら演奏活動をする上でどんなことが大変だった?
髙嶋:やっぱり時間の確保かな。収入を確保しても、時間を確保しないと練習も本番もできないから、それが一番大変だった。
あとは、将来を考えるときに「せっかくずっと音楽に関わってきたし、自分が演奏活動をする上で役に立つジャンルがいい」と思って、初めはすごく音楽関係の仕事につくことにこだわってしまったことで仕事と演奏活動の両立が難しくなったから、時間も収入も確保できる業種を見つける必要があるって気付くまでが大変だったかな。
吉田:確かに音楽に関わる仕事の値段って低いことも多いし、フリーランスの演奏家として音楽活動を始めたときも1件あたりの単価の低さを感じる場面はたくさんあったから分かるなぁ。
わたしがフリーランスになってすぐの頃は、アルバイトとかけもちをしながら演奏活動をしていたけど、1つ1つ音楽の仕事を重ねることは経験になるし、お仕事を紹介してくださった方からご縁をいただいて別の方に紹介していただけることもあったけど、拘束時間や準備時間など「時間」だけを見ると普通のアルバイトの方が稼げるように感じるときもあったのは確かにあった。
あと、仕事の大小はあっても「音楽活動を沢山してる」ように見えた方がもっとお仕事はくるのかな?と思っていたときもあったんだけど、単価の低い仕事でスケジュールが埋まっても、結局アルバイトの時間を増やして収入を確保しなきゃいけないから、しんどい部分はあるね。
吉田:ちなみに、お仕事と演奏活動を両立するために気をつけていることはある?
髙嶋:今も気をつけてることだけど、とにかく健康であることと体力の配分をすることだね。
【参考】自己管理が出来ている『フリーランスで成功するための“10の秘訣”』 Vol.2
http://nextstage-p.org/?member_contents=10-secrets-of-success_2
髙嶋:だって、お仕事もそれなりに大変じゃない?会社でそれなりに成果をあげないと楽しくないので一生懸命する必要があるよね。わたしは8時間働いているのだけれど、8時間働いてヘトヘトで、もう休憩します~ってタイプだと両立は厳しいかな。
8時間働いたあとに、さあこれから練習に行くぞ!ってことが必要だから、やっぱり体力は持っておかないといけないよね。
吉田:なるほどなるほど。
髙嶋:あとは、お仕事で精神的に大変なこともたくさんあるし、しっかり栄養をとっておかないとうつ病とかに直結してしまうこともあるから、精神面を安定させるためにも栄養バランスがとれた食事をすることが大事だね。
悩みやすい体質にならないためにも、タンパク質とアミノ酸は意識して摂取してるよ。自分をアスリートだと思って健康管理をしたほうが良いと思う。
吉田:素晴らしいね!本当に働きたくても体調が悪いと何もできないもんね。
髙嶋:そうそう。2つのことをするなら、馬力も2倍必要!
音大生や若い音楽家へのメッセージ
吉田:最後に、将来について考えている音大生や若い音楽家にメッセージをお願いします。
髙嶋:一般企業に就職することは、夢をあきらめることじゃない!と伝えたいな。
卒業すると、プレイヤーとしての演奏レベルはもちろん、イベントやコンサートを創造するプロデューサーとしての能力も求められるけど、大学時代にそんな準備はしてきてないから当然できないよね。
その現実を突きつけられて夢をあきらめてしまう人がいるけど、イベントを企画することと演奏をすることは異なる能力。
プレイヤーとしての技術を高め、プロデューサーとしての能力も磨くことができる環境に身をおくことが一番大事だから、就職先の候補に音楽業界だけでなくその他の業界にも目を向けて自分の理想のバランスを見つけてほしいな。
当初描いていた『演奏だけで仕事をする』という夢が叶わなかったとしても、わたしは、夢の近くにいる今のバランスが心地良く、これもまた音楽との関わり方の一つかなと感じてます。
吉田:音大卒業後の進路で悩む人も多いと思うけど、周りの声に振り回されず自分に合った音楽との関わり方を見つけていけるといいよね。
今日は色んな話を聞かせてくれてありがとう!
さいごに
髙嶋友実ちゃんとは高校生からの知り合いで、音大時代も同じ先生に師事していたんですが、音大生の頃は将来に関する話はあまりしていませんでした。
わたし自身、将来について抱えている悩みを話すことに抵抗があったり、周りの状況を聞くことで自分が音大卒業後の準備ができていないと認識するのが怖くて、あまり将来について話すことがなかったんです。
今回インタビューをしてみて、同じ門下にいて近くにいたはずなのに、音大卒業後の進路が決められない自分を知られたくないという一心で音大卒業後の進路について話さなかった当時の自分を悔やみました。
自分のやりたいこと、向いていること、社会から求められていることを考えた上で、演奏活動を続けていくために試行錯誤している友人がいるということ。そして彼女が今とても生き生きと仕事をしながら演奏活動をしている姿を見て、とても刺激を受けました。
1人でも多くの進路について悩んでいる音大生や若い音楽家の皆さんにこの記事が届けば嬉しいです。
髙嶋友実ホームページ
https://takashimatomomi.wixsite.com/clarinet