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ハードルは高くない!留学準備の全行程を一挙解説!
こんにちは。2020年の秋からパリにてクラリネットを勉強しております、鈴置 紘一朗(すずおき こういちろう)と申します。この4月から第1期NSP奨学生に選出していただき、また同時にこちらのウェブサイトにて私の留学経験を記事として発信する機会をいただきました。
第3回目、最終回となる今回は、留学の心理的ハードルを高くしている大きな要因の一つと考えられる留学にかかる準備過程について、その全貌をこの場で一気に明かしてしまおうと思います。
語学編
語学は渡仏する約2年前から独学で始めました。色々な勉強方法があると思いますが、私の場合はまず初めにNHKのラジオ講座を活用してフランス語の発音を学び、さらに初心者向けの簡単な文法書を購入して、基本的な文法事項の全体像をおぼろげながらに把握しました。その上で、使えそうな単語をノートに集めて自分専用の単語帳を作り、何度も何度も反復して少しずつ覚えていきました。
留学をより強く意識し始めた2年目からは、毎日2~3時間は勉強時間を確保し、主に日本語→フランス語の翻訳を延々とやり続けました。文法的に分からないことがあれば文法書に立ち返り、また単語についても「これは知らなかったな」とか「使えそうだな」と思ったものは例外なく前述の単語帳に収集。こうしたプロセスによって、学んだ知識に対する理解も深まりましたし、スピーキングにも大きく役立ちました。
ただ一つだけ、リスニング対策にあまり力を入れてこなかったため、渡仏後、自分の言いたいことは伝えることができても、相手の話している内容が聴きとれないというアンバランスな事態が起こりました。もっとも現地で暮らして半年もすればだんだん耳も慣れてはきたのですが、もし日本でもっと早くから聴き取りに慣れておけば、その半年でもっと多くの情報を理解することができたかもしれません。
一方語学学校に登録するというのも、限られた期間で確実に一定レベルの語学水準に到達することを考えると、良い選択肢の一つだと思います。
家探し編
僕は現地の住宅を紹介してくれる日本の不動産屋さんを利用しました。いくつもある候補の中から自分の希望に沿った物件を見つけられるのはメリットでしたが、注意点もあります。不動産屋さんや大家さんが「楽器可」を謳っていたとしても、実際はその音の届く範囲に住んでいる全ての住人の了解にかかっているためです。
僕はまさにこのパターンにハマってしまい、実際に入居して練習し始めた所すぐに同じフロアの住人の方々から「もう少し小さい音にしてもらえないか」や「今の時間はやめてもらえないか」などと次々相談を受ける始末に。
当然これでは落ち着いて練習などできませんから、すぐさま不動産屋さんにすぐ相談しました。すると返答は「弊社ができるのは契約の仲介のみで、契約そのものは借主と大家さんとの間に成立している。直接大家さんと話し合ってほしい」とのこと。一方大家さんは大家さんで、「私が許可しているのだからクレームは無視してもらって構わない」の一点張り。これでは埒が明きません。
結局、入居して3週間足らずでしたが、その部屋を出ることになってしまったのです。もちろん不動産屋さんの仲介手数料や日本でいうところの敷金礼金の類いは返ってはきませんでしたが、「せっかく留学に来ても肝心の練習が思うようにできないならば本末転倒」と考えての苦渋の決断でした。
ちなみに2回目の部屋探しでは、再び日本のサイトを辿りながら、良さそうだなと思った物件に直接足を運んで大家さんからお話を聞き、ここなら間違いないと確認した上で個人契約にもっていくことができ、無事今日まで至っています。(改行)一つ教訓を挙げるとするならば、契約書にサインする前に、そこに「近隣からのクレームもなく練習に専念できる環境であることを保証する」旨の一文をきちんと入れてもらうことが後のトラブル防止に繋がると思います。
あるいは、もっと別の探し方もあるようです。周りの留学生からお話を聞くと、留学支援を行っているエージェントに依頼して確実性の高い部屋を手配してもらったり、完全帰国する先輩から部屋を紹介してもらったりという人もたくさんいます。
初めから楽器不可物件に入居してしまって、練習は学校やスタジオ、あるいはバイト先でスペースを借りられている人もいます。ただ、学校の練習室は安定的な確保が難しい場合が多いうえに、1年間に5回、通算で約4か月にも及ぶバカンス期間中は閉まってしまう所がほとんどなので、やはり安定的な練習場所の確保という点からすると難しいところもあると思います。そのため、中には防音室を買ったという人もいます(帰国時に売ればいいので必ずしも高い投資ではないかもしれません)。
音楽院出願編
ムードン音楽院。この地に没したオルガニストMarcel Dupréの名を冠する。
僕はまずエコール=ノルマル音楽院という私立の学校にオンラインで登録しました。ここは学校のサイトにある専用フォームに書類および演奏音源を送付するだけで、日本にいながらにして早くも合否が決まります。一校でも合格が決まっていれば渡仏前に長期学生ビザを取得することが可能(※1)ですし、万が一他の志望校が全て不合格になった場合の保険にもなります。
因みに出願の時期はは6~9月頃に行われる場合が多いですが、学校によっては大きく異なる場合もあるので要注意です。また留学生の多い大手の学校などはオンラインで出願することが可能でしたが、一方で現在の通っているムードン音楽院のような規模の小さい学校は、願書や受験料支払いの小切手(※2)などをまとめて郵送する必要がありました。
※1 学生ビザには、1年間有効の長期学生ビザと、有効期間90日と試験期間のみ滞在できるテスト生ビザの2つがあります。後者の場合は入試合格後に現地で長期学生ビザに切り替える手続きが必要になります。
※2 2021年現在多くの銀行で海外向けの小切手の発行業務が終了しています。そこで現地の先生や知人に受験料を立て替えてもらう人もいます。
ビザ取得編
ビザの取得にかかる流れに関しては大使館など多くのサイトで正確かつ詳細に記載されているのでここでは紙面の都合上割愛したいと思います。ただ個人的に大変だった点を挙げるとするならば、それは必要な書類の多さです。ビザの取得までの手続きは何段階かに分かれており、その都度異なる書類の提出を要求されます。特に大学の成績証明書や音楽院の入学許可証など、取得に日数がかかるものも多いため、飛行機の予約日までに全て完了させなければならないという時間的制約のある中、ある程度の根気強さも求められるかと思います。
現地での手続き編
日曜日になると街の至る所で音楽が聞こえてくる。
フランスに到着してからも学生ビザの有効化や健康保険への加入などいくつかの手続きが必要になりますが、これらは基本的にオンラインで比較的簡単に済ますことができます。詳しい流れにつきましてはこちらも大使館のサイトなどを参照されることをお勧めします。その代わり、そこに記載されていない携帯電話とお金に関する事項について、この場所でお話しておきたいと思います。
Q.携帯電話ってどうするの?
A.私が現在契約しているフランスの大手電話会社の場合、パリ市内の至る所にSIMカードの自動発券機があり、住所などの情報と日本から持ってきたクレジットカードの情報を入力すれば立ちどころにSIMカード(およびフランス国内で通用する新しい電話番号)を取得することができます。因みに日本での契約については、あらかじめ最も価格の低いSIM会社に乗り換え、現在も基本料のみを支払い続けています。少し勿体ない気もしますが、これならば日本で使用していた電話番号を保持できますし、一時帰国した際も通信に困りません。
Q.現地でのお金ってどうするの?
A.日本の銀行のクレジットカード(国際的に通用するものに限る)があれば、現地で買い物をしたり、学費を支払ったりすることができます。一方で家賃の口座自動引き落としを利用したり、現地通貨が必要になったりする場合は現地の口座が必要です。もっとも大手銀行の場合、邦人専用の窓口もあるので、言葉の面で特に苦労するということは無いと思います。
最後に
いかがでしたでしょうか?第一期NSP奨学生として私が執筆する記事は今回で一旦の締めくくりとなります。私自身の出自から現在フランスで勉強するに至る経緯をストーリー的展開をもってお話しした1回2回とは対照的に、最終回となる今回は個々の事柄をピックアップして掘り下げるという、いわば“留学準備のトリセツ的”な構成になりました。
些末ながらこれら一連の記事が、これから留学という山の頂を目指す全ての方々にとって、わずかにもその足元を照らす光とならんことを、心から願ってやみません。