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一般大か音大か(後編) 一般大という進路に感謝していること

 

こんにちは。NSP奨学生の村松海渡です。

今回は一般大か音大か、という進学時の迷いの末に私自身が“一般大を選んだこと”に感謝しているという個人的な内容をお話しします。

これは“音大を選ばなくてよかった”という意味ではありません。その点にご注意いただいた上で、お読みいただけますと嬉しいです。

前回のお話では音楽を志しながらも一般大に進学する前に私が知っておきたかったことをご紹介しました。よろしければそちらもぜひご参照ください。

学際的な学びは様々な気づきの源だった

総合大学の中でも、私が進んだ大学では大学1、2年の間は全ての学生が教養学部に所属します。教養学部とは、一つの専門性に囚われずに、専門の足掛かりになる学びや、はたまた興味の赴くままに教養を深めることのできる学部です。

私は、自然科学はもとより、人文科学や音楽の実技なども含め、自分が気になる科目のみならず、必修として受けざるを得ない科目を沢山修めることになりました。

前回のブログでご紹介したように、私は当初「自分の全ての労力を演奏にのみ割くことができない」ことへ焦りを抱いていました(じゃあなんで総合大学に行ったんだい!という話題については前編をご参照ください)。

しかし、それでも時にはやらねばならないものがある、という気持ちで様々な学問に触れるのが総合大学です。結果として私の中での学問や世界の諸分野への解像度は高校生の時に認識していたものの数百倍にもなりました。そして、修めた学問は、私自身が目指す専門への土台となったり、それそのものが教養として尊いものであるのと同時に、それらが思いがけない場面で役立ったり、アイディアの源になっていることに気がつきました。

例を挙げれば数え切れませんが、記号論理学や集合論が芸術を構造として議論するときに大いに役立ったり、計算科学によって自然界の諸現象が少しずつ予測可能になる視点だったりと、たくさんの方法論や価値観、そして面白さを学びました。現代の学問としては当たり前のことでも高校生の時はそれらをほとんど知らなかったのだな、と改めて感じます。

これは、身近な生活でモヤモヤしていた感情を突き止めて解決するだけではなく、音楽家としても、音楽上の目的さえ自分で見つかれば、それを実現するための強力な学術的な手段を“手に入れる方法を知る”ことができたのだと考えています。

音楽と科学、というキーワード一つをとってみても、高校生の時に感じた問題意識や課題設定は、今思えば荒削りなものだったと思います。様々な学問の学びを通じて多様な思考の手段や事例を知り、取り組みたい課題が少しずつ見えるようになってきたという実感があります。

何がしたくて、何者になりたいのかが前よりも見えてきた

音楽の外の学問に触れることや分野の外の人々と関わることが当たり前になったことで、自分の行為を色々な視点から見つめることも、比較的できるようになりました。

私はよく、学生という身分を使って、大学にいる様々な先生の授業を受けたり(これは当たり前ですが)、連絡を取って直接話をしに行ったりします。複雑系数理の教授に話を聞きに行った際には「科学は世界の福祉だと思う」と言われたり、パフォーマンスアートを専門とされる教授の方からは「研究も一つの作品だと思う」と言われたりしました。

色々な視点からの助言に育まれて、元々自分の中にあった“音楽家になりたいのか、それとも科学者になりたいのか”という葛藤が段々と、“音楽に資する人でありたい”という願望に変わっていきました。その願望を実現した時に、私は音楽家に見えたり、時には科学者として見えるのかもしれません。

しかし、それぞれのルールや環境の中でのこせた広い意味での“作品”が、音楽という共同体に少しでも新しい価値をもたらせたのなら、あまり外からの見え方は気にならないなと、そう思うようになったのです。

これは、私の個人的な意見ですが、結局のところ「〇〇になりたい」の〇〇に一般的な職業名を当てることは、自分の願望の入り口にすぎないと思います。その先、〇〇になって何がしたいのか、そもそもどうして〇〇になりたいのかを考えると、夢が解像度を増して実現に近づくかもしれませんし、私のように、二者択一な願望が溶け合うのかもしれません。

<高校生の時の二者択一と、その先のイメージ>

進学は人生の選択だけれど

私の場合、一般大を選択し、以上のように様々な学問や予想外の学びに遭遇した結果、今があります。そんな私が最後に進学の選択について一つ付け加えるとしたら、不確実性への“賭け”があると思います。

進路を考える際には、所属ごとに、そこで確実に提供してくれる環境や学びについて考えると思います。一方で、私自身は進学前には予想だにしなかった学問や言葉との出会いで人生が大きく前進したりもしているのです。だとすると、どのような不確実性に“賭けるか”といった視点も、人生の選択に際して大切にすることも面白いのではないかなと思います。

今回で第2期NSP奨学生としての3回の連載も締めくくりとなります。自身、この奨学コミュニティやアウトプットを通じて、多彩な人と新たに繋がったり、懐かしい再会にも恵まれました。ぜひそんな“巡り合わせ”を大切にしたり、自分の世界を大学の中だけに閉じ込めすぎない(前編より)という価値観もあるということを、私の個人的な体験談から感じ取っていただけましたら、とても嬉しいです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

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