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オーケストラの人件費から学ぶ!
こんにちは!NSPのオープンポジションスタッフとして活動しています、YUZUです。
現在は社会人ですが、大学院の時(2019年)に研究していたオーケストラ運営をテーマに、ブログを書かせていただいています。前回のブログでは、オーケストラが運営に必要な収入をまかなうために、外部のサポートが大きな役割を果たしている事、そして個人で活動する演奏家の方が活用出来る外部サポート(文化庁補助金・クラウドファンディングなど)についてお話しました。
今回は、オーケストラの収入の中で、人件費に焦点を当てていきたいと思います〜!
なぜ人件費を取り上げる必要があるのかと疑問に思う方もいると思いますが、楽団員給与の低さは、日本のオーケストラが抱える主な課題の一つです。実際に、研究の一貫でオーケストラへの聞き取りを行う中、楽団員の方が副収入に頼らざるを得ない場合があるというお話がありました。
「芸術家の地位に関する勧告」(日本国際連合教育科学文化機関が1980年に採択)では、芸術家の文化発展への貢献を考慮して、芸術家の社会保障、労働条件や税制を改善する必要性が示されています。
オーケストラだけではなく、演奏家が抱えるかもしれない根本的な課題に向き合うためにも、人件費について見ていきたいと思います。
オーケストラの人件費はどうなってるの?
とはいえ、オーケストラの人件費と言われてもピンとこない方もいるのではないでしょうか…。オーケストラに入団すると、楽団員として仕事とし、仕事に対して給与や手当などが支払われます。これが人件費で、オーケストラが稼いだお金から支払われます。
オーケストラは、演奏活動を行ったり、外部から金銭面の支援を受けたりとさまざまな方法で稼いでいますが、その稼ぎが最終的に楽団員の人件費に影響してくるのです。そこで、全収入のうちどれだけを演奏活動によって稼いでいるのかという視点から、楽団員の人件費を見ていきたいと思います。
前回、国内のオーケストラが次の2つに分けられる話をしました。(国内オーケストラの中でも公益社団法人日本オーケストラ連盟に加入している正会員楽団25団体に絞っています。)
①特定支援型:特定の企業や自治体によって設立されたオーケストラ
→特定の企業・自治体などの母体から、収入の多くを得ています。
②自主運営型:立ち上げの意思をもった人たちにより発足したオーケストラ/特定の母体の意向で設立されたものの、途中で母体からの支援が無くなったり大幅に減少したりしたオーケストラ
→演奏活動であったり、複数の支援主からのサポートによって、収入の大部分をまかなっています。
今回は、この2つのうち②自主運営型のオーケストラにフォーカスして、楽団員の人件費を見ていきます。自主運営型で、特定の企業や自治体に頼る事が難しいオーケストラが、収入を得るためにどのような取り組みや工夫をしているのかを知る事で、個人の演奏家にも参考になる場面があるのではないかな…と思うからです。
さっそく②自主運営型のオーケストラである19団体の情報をピックアップして、下の散布図を作ってみました。
↑縦軸:全収入のうち、年間でオーケストラがどれだけ演奏活動によって収入を得ているかの割合(年間演奏収入率)を表しています。
→横軸:年間で1人の楽団員に支払うお金はどれぐらい必要か(1人あたりの年間人件費)を表しています。
●緑の丸印:オーケストラ19団体の位置をそれぞれ示しています。
パッと見て、いろんなところに緑の丸印が散らばっているのがわかるでしょうか?これだけ広い範囲に散らばっているのですから、演奏活動による収入率も、人件費の高さも本当にさまざまです。19団体だけをピックアップしても、どれだけ演奏活動で稼ぐのか、人件費にかけるのかと言う点で違いが見られるのですから、ほかの国内オーケストラを含めるともっとバラバラになるのではないでしょうか。
ところで、なぜオーケストラごとに、このような違いが出てくるのか気になりませんか…?
オーケストラによって、1年の間に実施する公演回数はまちまちです。さらに、依頼されて公演を行うのか、また自分たちで企画して公演を行うのかによっても収入は変わってきます。また、オーケストラメンバーの数にも影響されます。オーケストラ外部から金銭面での支援を定期的に受けられるかどうかも重要な問題です。そして、このような収入面での違いが人件費にも影響してきます。
(次回、この散布図をもとに、オーケストラをグループ分けして、オーケストラごとの運営の特徴を掘り下げていきたいと思います。)
将来の見通しを考える
このように、オーケストラによって人件費には大きな幅があります。そのため、オーケストラや事務所に所属して演奏活動を行う場合であっても、個人の収入に差が出る可能性は否定出来ません。個人で演奏活動を行う場合であれば、より一層、収入を得るために必要な選択を重ねる事が求められるのではないかなと思います。いろんな選択肢を知るための時間、また将来、報酬を得るためにどうすれば良いのか、その見通しについて考える時間も大切なのではないでしょうか。
過去のNSPインタビュー記事では、さまざまな演奏活動を行っている方が取り上げられています!すでに、いろんな場面で活躍されている先輩方からのアドバイスがたくさん詰まっていますので、ぜひ、一読してみてください。
- 音楽に没頭出来る環境で4年間やりきる、それが財産になる!| クラリネット奏者・太田友香さん
- 可能性が無限大の“フリーランス”という生き方 | トランペット奏者・佐藤秀徳さん
- 信念と情熱を持って、自分軸の人生を生きるーコントラバス奏者・井口信之輔さん【前編】
ほかにも、自分で素敵だなと思った人にコンタクトを取って話を聞いてみると、どのような選択肢があるのか、またその中で自分にとって魅力的な選択肢は何なのかを知る事が出来るのではないかと思います。
また、音楽家がどのようにお金と向き合ったら良いのか、以下の記事でも取り上げられているので、将来の見通しについて考える時には、ぜひ参考にしてみてください!
今回の記事が、より視野を広げ「自分なりの生き方」を見つける手助けになれば幸いです。次回は、オーケストラをグループ分けして、それぞれの特徴にフォーカスしていきたいと思います。運営への取り組み方にはどんな違いがあるのでしょうか?ぜひお楽しみに。