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プロの演奏家として知らないと恥ずかしい大事なことって?
こんにちは。この記事を読んでくださっている音楽家の中には、コロナ禍で演奏機会が失われた方も大勢いらっしゃるんじゃないでしょうか。私もその中の一人です。
そんな若い音楽家を支援したい!と、株式会社サンシャインシティ様が演奏の機会を提供してくださり、先日9/18(土)、池袋のサンシャインシティ・噴水広場で開催された、コンサートに出演させていただきました。
そこで本当に素敵な経験をさせていただき、自分だけのものにするのはもったいない!と思ったので…今日は、今回のコンサートを通して感じ、学んだ事について記事を書こうと思います。
申し遅れましたが、私はNSP第2期、第3期の奨学生の谷菜々子です(普段はYouTubeに奨学生の紹介動画をアップしています。こちらもよろしければぜひご覧ください!)。
この日共演したのは、同じくNSPの奨学生である郡司菜月さんと村松海渡さんです。沢山の方に聴いていただき、本当に幸せな時間でした。
事前準備
実は普段、郡司さんはドイツに、村松さんは東京、私は大阪に住んでいるため、お互いに顔を合わせたのは前日のリハーサルが初めてだったのです。
前日のリハーサルも時間は限られているので、前もってできることは詰めておこうと、チャットやZOOMを駆使して、曲目を考えたり、編成や衣装のことまで相談していました。
こんなことを離れた場所でもオンライン上でできると知れたのは、この辛いコロナ禍での思わぬ産物かもしれませんね。
さて、いつもとは違う手段で話し合ってきた今回のステージですが、最初は戸惑うことばかりでした。
普段とは違うステージ
最初に苦戦したのは曲目です。
通常のコンサートとは違い、今回演奏する噴水広場はクラシックに興味がない方ももちろんいらっしゃいます。
「その方たちに足を止めて聴いてもらえるようにするにはどんな曲目がいいのか」と、一方で、「クラシックを学んでいる私たちにしかできない曲を届けたい」という思いが結びつく点を探すことがとても難しかったです。
また、自分の中では有名だと思っていた曲が一般的にはあまり知られていなかったり、知らないうちに権利を侵害してしまわないように、著作権が切れている、いわゆる「パブリックドメイン」になっているものを選んだり、色々な曲をお互いに提案しながら、同時に音楽ディレクターの藤井さんにアドバイスをいただき、曲目を決定しました。
何を意識した?
この曲目を決定する過程でも痛感した、今回の公演で一番難しかった事は、通常のクラシックホールでの演奏会ではあまり意識してこなかった「エンターテイメント性」への向き合い方です。
例えば通常のコンサートでは、MCをする機会は少なく、したとしても曲目の説明だけなど、喋る事を苦手としている演奏家は多いのではないでしょうか。私達3人とも例にもれず、MCはあまり経験がなく、苦手意識を持っていました。
ですが、今回の公演では、MCの場面で、今まで観てくださってる方の関心を逸らしてはいけない!と3人で話し合い、前日のリハーサルから当日まで何度も確認しました(3人で一番話し合ったのはMCについて…かもしれません)。
こちらも藤井さんにアドバイスをたくさんいただき、「伝えたいことを簡潔にまとめる」「今回は3人いるので、1人だけで喋ってしまわず少しでも会話をする」「カンペを見る時は要点だけを書いて、そればっかり見てしまわない」などを学びました。その時に大事なのは、客観的に「どう見えるか」への意識なのだと思います。
いざ本番!ところが…
そんなこんなでお互いに準備を万全にして臨んだステージでしたが、いざ本番を迎えると、予想していなかったことが!
まず、今回の本番は同じ曲目を3回演奏するというものでしたが、
1回目はいつもの本番と同じように、興奮と緊張のバランスを保つことを意識しました。しかし、2回目、3回目と集中力を切らさないようにすることがどれだけ難しいか、当日になって初めて気が付いたのです。オンとオフを切り替えるため、本番前はあえて一人で静かに過ごす時間を作って調整しました。
そして、このサンシャインさんの噴水広場は、写真の通り、吹き抜けになっていて、2階、3階…と上からや、前後左右360°見えるような構造です。
目の前だけでなく、上からも視線を感じるというのは初めての経験でしたが、そちらの方にも視線を向けて、一体感を出せるように工夫しました。
また、親子やカップル、学校帰りに遊びに来た方、通りすがりの方、開演前から一番前で待っていてくださったご年配の方…文字通り老若男女様々な方が演奏を聴いてくださったので、良い演奏をするのはもちろん、クラシックにどこかお堅いイメージを持っている方の考えを払拭しようと、柔らかく親しみやすい雰囲気を作るため表情や目線の使い方も意識したポイントです。
演奏者として大事なこと
今回のコンサートで気付いた、2つの演奏者として大事なことを紹介します。
まず1つ目は、準備の段階からたびたび必要だと感じた「エンターテイメント性」。
辞書でエンターテイメントを調べると、『人々を楽しませること』と書かれていました。
これは文字にすると大層で難しそうな感じがしますが、結局は相手の気持ちを想い、その人が一番喜ぶことは何かな?と想像するのが一番大事なのだと思います。
例えばクラシックを全く聴かない人にとっては、私達にとって馴染みがあり楽しい曲も、未知のよく分からない曲になるかもしれません。
世界には様々なバックグラウンドを持つ人がいます。相手の気持ちを想像する為には、色々な考えが存在するということを知っておく必要がある。そう気付けたコンサートでした。私ももっと音楽以外の経験をしようと思います。
そして2つ目が、「人と一緒に作り上げる意識」。
本番直前、ある関係者の方が、「音楽業界に限らず、仕事を頼むときは安心だから、やっぱり紹介で繋げてもらうことが多いかな。もちろん新しい出会いを募集するときもあるけどね。だから、一つ一つの機会を全力で挑戦すれば必ず誰かが見てくれているよ。でもそれは演奏が秀でているだけでは十分ではなくて、一緒に仕事をする上でチームワークや思いやりも絶対に必要なスキルだからね。」と仰ったのが非常に印象に残っています。
実際、私が次何かお仕事をする時や紹介を頼まれた時、郡司さんや村松さんは自信を持って紹介できます。それは2人の「思いやりのある言動」や、「準備を人任せにしない責任感」を感じられたからではないでしょうか。
演奏技術の向上は当たり前ですが、それと同じくらい大切な事だと思います。
知らないと恥ずかしい?
今回この様な素晴らしい機会をいただき、同時に、エンターテインメント性など「魅せ方」についても沢山のアドバイスをしていただき、無事たくさんの方に喜んでいただけるステージとなりました。
ですが、ふと思う事があります。
例えば、急にこの様な演奏依頼が自分の元に舞い込んできたら…その時は、お仕事なので上記に書いたことも含め、完璧に遂行する必要があります。誰もステージングのコツなど教えてくれません。
なかなか普段では気付けない(分からない)事ですが、プロとして仕事を受けた時に気付いても遅い…そんな恐ろしい現実を目の当たりにしました。
まだ学び途中の私たちにこれほど大きなステージに立つチャンスを与えてくださり、そして、音楽家の先輩としての様々な経験を惜しみなく教えてくれる。私はNSPの奨学生として奨学金よりもはるかに多くのものをいただいています。
最後に
今回の演奏会を通して、一つの演奏会のプログラムを組む過程を経験でき、また、コロナ禍で演奏機会が減っていたので、久しぶりに沢山の方に聴いていただけて、本当に幸せな時間でした。
これは間違いなく私の演奏家人生での宝物の一つになると確信しています。
そんな素敵な機会を与えてくださったサンシャインシティ様、ありがとうございました。
そして、リモートでの打ち合わせから始まり、リハーサルから本番まで、私たちがステージでのパフォーマンスに集中できるようなサポートや、演奏会がより良いものになるよう沢山アドバイスをくださったNSPの関係者様、そしていつもNSPを支援してくださっている皆様。本当にありがとうございました。
また皆様の前で演奏できるようにこれからも精進して参ります!
最後までお読み頂きありがとうございました。
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