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吉田佐和子執筆記事

自分を知れば働き方と発信方法は見えてくるーピアニスト・崔 理英さん

みなさんこんにちは、クラリネット奏者の吉田佐和子です。

今回はご自身の性格をしっかりと分析され、たくさんのコンテンツを明確な目的を持って発信されているピアニストの崔理英さんにインタビューさせていただきました。

わたしが理英さんを知ったのは3年ほど前、ツイッターがきっかけでした。

その間わたしはパリに住んでいたこともあり直接お会いする機会がなかったのですが、今回初めてお会いすることができました。

理英さんが大学院を卒業して就職を決めたとき、退職し演奏家として歩み始めたとき、そして結婚してお子さんが生まれた今に至るまで、どんなことを大切にして音楽と生きてこられたのかお伺いしました。

この記事を読んでくださっている読者の皆さんにもきっと参考になることがあるはずです。

崔理英プロフィール
京都市立音楽高等学校(現 京都市立京都堀川音楽高等学校)、東京藝術大学音楽学部器楽科を経て、同大学院修士課程を修了。現在は関西を中心に演奏活動と指導活動を行いながら、オンラインによる仕事や発信も行っている。

大学卒業後の進路を決めたポイントは?

吉田:今日は宜しくお願いします。ではまず、理英さんが大学卒業後の進路を決めたときに重要視されたことやポイントについて教えていただけますか?

崔:わたしは大学院を修了して1年だけ就職して、そのあとフリーになったんです。そこで意識や気持ちも変わっていったんですけど、ひとまず卒業後の進路を決めたときのポイントは、まずちゃんと働きたいなぁと。安定した収入がほしいなっていうことと、今までやってきた音楽を活かせる仕事をしたい。この2点を考えていました。

吉田:なるほど。そこがクリアになっていると自然と候補も絞られて行きますよね。

崔:ピアノの演奏に限るとなかなか仕事がないので、大学院を卒業する1年前くらいにパソコンでいろいろ調べて探しました。わたしはソルフェージュとか楽譜の分析や採譜など、演奏以外のことも好きだったので、そういうことを活かせるものはないかな?と思っていたところ『ヤマハ音楽振興会』の音楽専門スタッフの募集を見つけたんです。

音楽専門スタッフは、総合職の中でも音楽の技能を持つ人ということで募集されていて、ここだったらこれまでやってきたことを活かせてやりがいがありそうと思ったのと、大企業なので安定してるかなと思って決めました。

吉田:安定!大事ですよね。

崔:そうですよね。わたしは中学生のとき音高に行くのを決めたんですけど、そのときから将来は絶対安定した仕事に就くぞって思ってたんです。

吉田:なるほど。進路を決めるときにやっぱりご自身が何が好きとか得意だとかしっかり認識しておられたんですね。

実際に働いてみて感じたこと

吉田:1年間働かれて、やめようと考えられるようになったのは何がきっかけだったんでしょうか?

崔:一番の理由は、自分が扱っている音楽との距離感や、主体性の所在の問題ですね。音楽関係の仕事ができたのは嬉しかったのですが、日々さまざまな音楽に触れて働いていく中で、まだもっと自分の音楽をしたい、深めたいという気持ちのほうが強くなってきたんです。

吉田:なるほど。ご自身は音楽とは少し離れたところにいらっしゃったんですね。

崔:そうですね。その音楽との距離に自分の中で違和感を感じるようになっていって、それが20代後半くらいだったんですけど、まだ自分自身がやってもいんじゃないかなと。

吉田:そのあと、フリーになられて・・

崔:そう言うとちょっとカッコいいですけど、実際は職がなくなっただけですけどね(笑)

吉田:なんかフリーランスって肩書きありますけど、ほぼほぼみんなそうやんって感じですよね(笑)

崔:そうですね。今でいうと「会社やめてフリーランスで起業します!」みたいな感じもあるかもしれないですけど、当時はそういう感じでもなかったですね。

吉田:ではヤマハ音楽振興会をやめられたあと、ご自身が思う形で働き始められたんでしょうか?

崔:そのときは働くというよりかは「弾こう」って思って。6月で勤務が終了したんですけど、それまでの数カ月間も、働きながらやれることをやってみようと思って準備して、同じ6月にコンクールを受けたら、今までにとったことのない1位をとれて、幸先の良い門出になりました。

吉田:お~!素晴らしい!

崔:それからは、最初は留学を考えていたりして、外国語を習いにいったり、コンチェルトのオーディションを受けたり、大きなホールを借りてリサイタルも行いました。1年間しっかり働いたので当面の貯金はあったので、しばらくはお金のことはとりあえず考えずに演奏に集中できる環境ではありましたね。

吉田:そうなんですね。では退職されてから幸先の良い出来事もあったし、精神的にも良い感じで過ごされたんでしょうか?

崔:そうですね。好きなだけ弾けるって幸せだなっていうのもありました。でも、わたし的に就職したことは全然後悔してなくて。わたしの性格的に、もし就職してなかったらいつまでもどっかで「安定した職の方がいいんじゃないか」とかずーっと思ってたと思うんですよね。

吉田:あ~なるほどなるほど。

崔:一度社会に飛び込んで「こういう生き方の方が良い」って自分で選んだことで、それ以来はどっか就職したいなとは一度も思わなくなりました。ご迷惑をかけてしまったなとは、今でも思うんですけど、いまは違う形でヤマハともお仕事させていただくことがあって、とても感謝しています。

その後いろんなご縁や事情が重なって大学院を修了して3年目に音楽高校の講師になりました。

その頃からまた、「形は変わったけど、しっかり音楽で収入を得たい」という気持ちもふたたび固まってきました。

音楽で収入が安定するまで

吉田:ヤマハ音楽振興会を辞められてから音楽の仕事で収入が安定するまでのエピソード、精神的な面や金銭面で壁を感じたことなどがあれば教えてください。

崔:はじめは講師の仕事のほかに、不定期のコンサートの仕事とほんの少しレッスン、というところからのスタートでした。それだけでは収入が少ないので、派遣のバイトをかけもちでやっていました。音楽だけで安定するまでに3~4年くらいかかったかなと思います。

そのあたりのことはブログでも書いていますね。
▷外部リンク(崔理英さんのHPへ)→https://sairie.com/life-work/

それからはずっと音楽関係の仕事だけで安定して収入を得ていますが、「いつどうなるかわからない」という不安は常にあります。また出産のときも、会社員ではないので産休制度のようなものはなく、休んだぶんだけ収入がなくなりますので不安やストレスはありましたね。ウェブでの仕事や発信にも力を入れていこうと考えたのは、そのあたりの経験からでもあります。

吉田:たしかに、ウェブの仕事は時間や場所を選ばずに出来ることも多いですし、自分が休んでいる間でも利用する人がいれば収入につながることもありますよね。

崔:そうですね。夜中やちょっとした空き時間など、時間を選ばずにできる点は子育てしていて大きい点です。また、ブログやnote販売による収入は、仮に自分が動けなくなったときに、少しでも助けてくれるんじゃないかなと思います。人のため、自分のため、そして未来のためにもやっている感じですね。

ウェブでの発信を始めたきっかけ

吉田:そうやってウェブでの発信やお仕事にも精力的になっていかれたわけですね。もともと、ウェブでの発信を始められたきっかけは何だったんですか?

崔:2010年にコンサートの案内やお客様からのお問い合わせメッセージを受けるために自分のHPを作ったのがきっかけです。

崔理英さんのHP

そのときは本当に、ただの情報サイトというつくりでした。ブログなどはしていなかったんですけど、数年後、別業種の友人たちに練習のことやピアノに関する小話をしていたときに『そういう話をそのままブログにしたら面白いんじゃない?』と言われたことがきっかけで2015年の末にブログも始めました。

それこそ最初はコンサートのご報告とか曲目紹介とか、単発レッスンに行ったときに、そこで話したことを箇条書きで書いたりしていました。

吉田:そうなんですね。理英さんのブログを拝見していると、昔と今の記事はぜんぜん違うというか・・

崔理英さんのブログ記事

崔:そうですね。やっぱりブログも長く運営していると読み手の顔が見えてくるというか、だんだん「こういう人に向けて」っていうのがハッキリしてきますし、記事の感想をもらうと次はその人の顔が思い浮かんだりして、その人に向けて書いたりしてますね。

吉田:なるほど。理英さんは演奏活動を本格的に始められたときにHPを作られたようですが、昔はそれが普通だったのが、今は少し変わってきているというか、SNSがあればいいような感じになってきていますよね。

崔:そうですね。SNSの方が先だったりしますよね。

吉田:わたしもHP制作サービスをしているとわたしより上の世代としてはHPがあるとしっかりして見えるという印象があると思うんですが、20代の音楽家の子と話しているとHPまで作らなくても・・という感じがありますね。

崔:とくに最近はSNSのパワーや影響はすごいですし、SNS中心の運用も良いと思います。ただわたしはHPやブログには、SNSとはまた違った強みや利点があると思っているので、これからも続けていくつもりです。

ウェブ発信をしていて良かったことは?

吉田:ウェブで発信されていて良かったことを教えていただけますか?

崔:たくさんあるんですけど、とくに固定観念に縛られなくなったことと、いまの自分を自分で選べるということが大きいです。ウェブで発信をするまでは外へ出ていくタイプではなかったんですが、ご縁がつながって仕事につながったり、見聞が広くなったり、信用を得ることが出来たとかんじています。

吉田:逆に理英さんがウェブで発信していてしんどかったことってありますか?あれだけ丁寧に発信されているといわゆるアンチの人もいないと思うんですが・・・

崔:そうですね、わたしはそこまで尖ったことは言わないようにしているので、それはそうかもしれません。ただ、距離感が近くてしんどいな…と思うことはたまにありました。ぜんぜん気にしなかったら良いんでしょうけど、わたしは気にしちゃうんですよね。

吉田:分かります・・・!

崔:でも前よりもうまく対応することが出来るようになったと思います。ひっきりなしに質問メッセージがくることもありましたが、ブログの記事をご案内して、もしもっと詳しく知りたい場合は有料サービスをご利用いただくように案内するようにしたら、そういうメッセージも少なくなりました。

吉田:最近質問箱などで無料で質問できる機会が増えましたし、ユーザー側で線引きが出来ないというか「誰でも無料で教えてくれる」と思ってる人もいますよね。

崔:そうですね。わたしもそれで悩んだことがあるのですが、今は割り切れるようになりました。それから最近は、わたしの発信を見て丁寧に連絡してきてくださる人が増えてきました。だからストレスを感じることはあまりないですね。楽しいです。

吉田:たしかに、発信してて良かったなって思うときって、発信している内容を見て読者さんもわたしと合う、合わないを感じたり、理解した上で連絡してきてくださったりするので、お互い気持ちよくやりとり出来ることが多いですね。

崔:実際にコンサートやレッスンに来られるときも、ある程度「さいりえさんってこんな人・こんな音楽・こんな考え」ということを知ってくださってから申し込まれるので、大きなトラブルはあまりないですね。

数々のWEBツールを使いこなすポイント

吉田:理英さんはたくさんのツールを使いこなしておられますが、現在使っておられるツールと使い分けについて意識されていることはありますか?

崔:現在はHPと2つのブログをメインに、LINEnoteに登録してくださった方とコミュニケーションをとりながらピアノの専門的な内容を発信しています。そしてYouTubeでは、より広い範囲の方に向けて、わたし自身の演奏や練習の考え方を公開しています。

ツールの使い分けですが、2つの点でいつも考えています。ひとつはツールの特性を知ること。そしてもうひとつは、各ツールを使って何をするか?です。このとき、使う『目的』と『誰に向けて発信するか』を考えます。今の時期にやりたいことはこれだからこのツールを使おうっていうのはありますね。

吉田:目的とターゲットを明確にされているからこそ、あれだけたくさんのツールを使っておられてもごちゃごちゃした感じがなく、それぞれがしっかり機能してるんですね。

崔:そうですね。たとえばLINEや有料コミュニティなどのクローズドな場というのは意見を言いやすく、誤解が少ない、自分を出しやすいという強みがある反面、狭い世界になりやすい。逆にTwitterなどのオープンな場は、多くの人に知ってもらえるという可能性がある反面、意図せず伝わってしまう危険性があるなと感じています。

崔理英さんのnote:無料で読めるものと有料コンテンツのサークルがある

分かりやすく図にしてみるとこんな感じになりますね。

吉田:すごく分かりやすいですね!音楽家で『自分のことを知ってほしい』って思っている人は多いと思いますが、どのツールを選べばいいか分からないという人の参考になると思います。

崔:そうだと良いですね。それぞれのツールの適性もありますが、発信者のコンセプトによっても変わります。たとえばYouTubeはライトな内容をオープンに広く発信することもできますが、わたしの場合は比較的コアな内容を発信しています。わたしの場合、あまり『大勢の人に広く届ける』というのは向かないと思ってて。

崔理英さんのYouTube「ピアノ練習室」チャンネル:コアな内容を発信

吉田:そうなんですね。どうして向かないと思われたんですか?

崔:それは性質だと思いますね。自分がそこまで求めていないのと、いろいろオープンにしてたくさんの人に見てもらうことがそんなに好きと思ってなくて。

吉田:なるほど。では数は少なくても自分のことを信頼してくださったり演奏を良いと思ってくれる方がいてほしいってことなんですね。

崔:そうですね。人数は多くなくても濃い情報を届けて、お互いのためになる良い関係を築けたらいいなと。何でも初心者向けの方が入り口は広いですが、音楽を深くやりたいとなるとどうしても数が減ってきますし。

吉田:あ~、たしかにそうですね。

崔: 自分が求めている音楽への深さを、そのまま発信にも繋げることが最近のこだわりです。以前は、自分を研鑽する時間と人に還元する時間は別かなと思ってたんですけど、最近『時間が大事』だということを以前よりも更に考えるようになったことで、どっちも一緒にするようになりました。

やっぱり、自分自身と、発信を見てくださる方の両方の為になることをしようという気持ちになったんです。

吉田:なるほど。

崔:でも性格が一番大事かな。

吉田:あ~でもそれは今日お話をしていてすごく感じていて。理英さんは性格もご自身の好き嫌いをしっかり熟知されていますよね。

自分自身としっかり向き合っておられるし、自分の希望する生き方をしながら、お子さんや旦那さんとの時間も大事にしながら、音楽に向き合う時間も大切にしたいという価値観をビシビシ感じます。

例えば好き嫌いだけで判断して、自分の性格を度外視して取り組んでいると、やっぱり最終的にうまくいかなくなると思うんですが、ちゃんと理解しているとそういうことはなくなりますよね。

崔:そうですね。昔からすごく自己分析好きだったんです。高校生とか大学生のときから『自分とは』ということをよく考えていました。最近はある程度自分の嫌なことをやらなくてもすむんだなと思っています。やりたいこと、深めたいことのためだけに時間をつかえて、それが仕事になるなら幸せですよね。

将来について考えている音大生やフリーランスにメッセージ

吉田:今日はたくさん興味深いお話を聞かせていただきありがとうございました。最後に将来について考えている音大生やフリーランスにメッセージをお願いします。

崔:まずは『やらずに悩むよりはやってみること』、そして、やはり『コミュニケーションが大事』ということです。ウェブで発信というと顔が見えなくなりやすいですけど、いつも1人対1人という気持ちをもってほしいなと思っています。

最後は『答えや道は1つではない』ということは是非伝えたいです。

わたしもやっぱり縛られていた時期があって。

それこそ以前は、ピアノ科を卒業したら、理想とする道はコンクールで入賞して留学して演奏活動しながら音大の先生になって・・・そういうものなんだとずっと思っていた節があったというか、いつもどこかで気にしていた部分がありました。

履歴書を出して落ちて凹むことも何度もありましたし、留学経験がないことをコンプレックスに思う期間も長かったです。

最近はそういうこだわりは全然なくなりましたし、どんなこともご縁があればという感じで、絶対その道じゃなきゃダメだと自分を追い込むことはなくなりました。

そういうことを気にしてた時よりも、今の方が心から自分の音楽を深めたいな、とか人の役に立ちたいなと思えるようになっています。

だから、未来が広くひらかれている若い音楽家の方々には、自分にとって合っている道というのは人それぞれ違うということを伝えたいです。

吉田:本当にそのとおりですよね。わたしも長い間『こういう風に生きなければいけない』という概念に囚われて、選択肢を狭めてしまっていた時期がありました。

若い音楽家の人たちには、既成概念に囚われずに1人1人に合った未来を築いてほしいです。

今日は本当にたくさんお話を聞かせていただきありがとうございました!


崔理英さんのコンテンツ一覧
HP:https://sairie.com/
ピアノ練習の特化サイト「Piano Plus+」https://sairie.com/pianoplus/
Twitter:https://twitter.com/smomopiano
LINE:https://sairie.com/line-lessonroom2/
note:https://note.com/sairie_piano
YouTube:「さいりえのピアノ音楽教室」http://urx3.nu/sWJP
「崔理英ピアノ演奏チャンネル」 https://www.youtube.com/user/SMomo101

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