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吉田佐和子執筆記事

進路に悩む前にまずは自己理解を深めよう

こんにちは、クラリネット奏者の吉田佐和子です。

最近NPO法人ネクストステージ・プランニングで会議に参加したりしていて現役音大生の声をよく聞くようになったのですが、そこでは『まだやりたいことが分からない』という声をよく聞きます。

やりたいことってどうして見つけたらいいんでしょうか?

もちろん、その答えは、他の誰でもないあなたが持っています。

ただ、わたしたちは小学校から大学まで学ぶと16年間という長い時間があるのに、自分と向き合い、自分を知る時間があまりにも少ないのです。

音大卒業後の進路を考える際に自己理解を深め、「得意なこと」と「好きなこと」を把握すると共に、これまで生きてきた人生の中で、自分がどんなことを大切にしてきたのか?どんなときにやりがいを感じたのかを可視化してみましょう。

音大卒業後、非常勤講師になったときのこと

まず始めに、自己理解を深める大切さを知らないまま音大を卒業したわたしの体験談をご紹介します。

わたしは、音大卒業後の春から私立の高校で非常勤講師として働いていました。

中学1年生の頃からずっとクラリネット奏者になりたい!と思い音大に入学したわたしにとって『楽器を吹き続ける』ということは人生の中でも大切にしたい1つの大きな軸でした。

ただ、それをしっかり認識しないまま就職してしまったこともあり、1年間でその勤務を終えることになったのです。

また、授業をするための準備を常に続けなければならず、まさに朝から晩まで働く状態が続いていました。こういうライフスタイルはわたしには合っていないということを当時は気づいていませんでした。

ちなみに、音大を卒業する前は『音大を卒業するまでたくさん親にお金を出してもらったのだから、音大を卒業したらきちんと自立したい』と思っていたのですが、非常勤講師のお仕事でいただいていた月給は12万円ほど。この金額はアルバイトとして働いても得られる金額です。

フリーランスとして活動する人の多くが音大を卒業後は演奏活動とアルバイトを両立させていますが、アルバイトの方が自分のライフスタイルに合わせてシフトを組めるので、わたしには合っていたのです。

結局、フリーランスとしてやっていくことに対する不安と向き合うのではなく、不安を紛らわすように周りの目を気にして就職したんだと気付いたのは、非常勤講師としての仕事をやめてから何年もたった後でした。

このときのわたしの失敗は次の3点です。

①卒業後何年かかけてキャリアを築いていくという視点がなかった

→どうしたら演奏者として活動できるのか道筋が見えなかったことから不安な気持ちに飲まれてしまい、とにかく音楽でお金を稼がなきゃ!と短絡的な思考に陥ってしまっていました。

②非常勤講師をしながら楽器を続ける難しさを知ろうとしなかった

→今考えると、事前に経験者にヒアリングすることができたはずなのに、その思考がありませんでした。また、楽器を演奏することが自分にとってどれだけ大切なことなのか理解できていませんでした。

③自分に合った進路を探すことよりも、親や周りの知人からどう思われるだろう?ということを気にしすぎていた

→周りの目を気にしすぎてしまうことに気づいておらず、親や周りの人に肯定してもらえる職業につこうとしていました。自分のことをもっと理解していれば、思考のクセや自分の得意なことを生かせる進路を選ぶことも出来たはず。

当時のことを振り返ってみると、卒業後の不安を少しでも解消することばかり考えて、卒業時期がどんどん迫っているのに、4年生になってどんどん増える学内のオーディションなどを理由に、自分と向き合う時間を作ろうとしなかったのです。

当時のわたしは、それまで生きてきた自分の価値観を知ろうとすることや、得意なことや強みをいかそうとする思考はほとんどありませんでした。

わたしが「好き」と「得意」を間違えて失敗したお仕事

また、「好き」と「得意」を間違えて始めてしまった仕事もありました。

わたしはこうして文章を書くことが好きです。ブログに音楽活動のことや考えていることを書くこともありますし、ウェブメディアからの依頼を受けて文章を書くこともあります。

こんな風に「書くこと」がとても身近だったこともあり、以前ライターとしての仕事を増やしたときがあったんです。ただ、その仕事は今読んでいただいているこの記事のようにわたしの思っていることを書くのではなく、あらかじめ記事の内容や文字数が決まっていて、Googleなどの検索ツールで調べた時になるべく上位表示されるように記事を執筆する仕事でした。

そういう仕事は名前が表に出ないので、自分の実績には書けません。ただ、1本ごとに原稿料が決まっていて何本か執筆すれば、少しまとまったお金が入ってくるのです。

わたしがこのお仕事をしたいと思ったときに大事にした価値観は『お金があった方が安心できて、本当にやりたいことに投資も出来る』ということでした。

【参考】音楽家としての将来を考えるなら『価値観』を大切にしよう

そして面接を経てその仕事をすることになったのですが、わたしには向いていないのでは…?と感じることがいくつかありました。

①編集者さんからのフィードバックが訂正が必要な箇所だけで、原稿の内容が良かったかどうかや独自に用意した画像などについても何もコメントがなかった

→自分の出来る仕事をきちんと評価してくださる方と働きたいということが分かっていなかった。

②自分がよく知らない内容について書くこと、書いた記事が公開されたときの反応が分からないことから、いつも感じている喜びを感じられなかった

→お金がもらえることで充実感が得られると思っていたけれど、お金をもらうことよりも記事をチェックしてくれる編集者さんからの言葉や、記事を見てくれた方からの声に充実感を感じていたことをしっかり認識できていなかった。

もちろん、ここまでの文章を読んで「仕事があるだけマシじゃない?」「仕事にそこまで求めなくても割り切ったら良いのでは?」と思う人もいると思います。

ただ、わたしはそういう部分を割り切るのがとっても苦手で、2ヶ月程続けたとき、記事を執筆しているあいだは動悸が止まらず精神的に苦しくなってしまい、仕事をやめることにしました。

わたしは書くことが得意だと思っていたけれど、どんな内容でも書けるわけではないということをしっかり認識していなかった・・・つまり、この仕事を始めようと思った時の自己認識が間違っていたと感じたのです。

クラリネットを演奏出来ても全てのジャンルを吹きこなせるわけではないように、「演奏する」ということは同じでも、力を発揮できるジャンルを理解していないと、今回のような失敗が起こるのです。

こうして文章に起こしてみると、例えばタンゴを演奏して欲しいという依頼が来たとしても、本格的なタンゴの演奏は出来ないということを理解出来るのですが、なぜか音楽以外の場面になると判断が鈍ってしまう自分がいました。

でも、普段から自分の得意なこと、好きなことをしっかりと理解して、どんなスキルを高めていけばいいのか理解できていると、判断も素早く的確にできるはずです。

ちなみに、得意なことと好きなことの見つけたい方はこちらの動画が参考になるはずです。質問に答えることで簡単に見えてくるので、ぜひ気軽にやってみてくださいね。

自己理解を深めるためにおすすめの本

わたしが最近読んだ本の中で、自己理解を深めることができた2冊の本があります。

まず1冊目は、わたしが得意なことと好きなことの違いを明確にすることができた『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方 人生のモヤモヤから解放される自己理解メソッド』です。

世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方 人生のモヤモヤから解放される自己理解メソッド

巻末に自分の価値観・得意なこと・好きなことを見つけるための質問が掲載されているので、その質問に答えるだけでも今まで意識していなかった思いを発見することができるかもしれません。

2冊目は、自分の「軸」を理解し、自己分析を深めるだけでなく将来的なキャリアアップ設計にも役立つ『苦しかったときの話をしようか』です。

「将来、何をしたらいいのかわからない」と悩む娘さんにむけて書かれた本で、自分の特徴を理解し、それを磨く努力をする大切さ、その環境を選択することの重要性などが書かれているほか、自分の特徴を3つの方向性に分ける方法も紹介されています。

どちらも音大を卒業してからの進路を決める際に読みたかった!という内容だったのですが『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方 人生のモヤモヤから解放される自己理解メソッド』を読んでわたしが衝撃を受けたのは、得意なこととは『苦労せずとも先天的にできること』という定義でした。

それについて詳しくお話していきます。

わたしの得意なこと=クラリネットを演奏することではない?!

わたしの場合、先天的にできて周りに評価されたことは、クラリネットを演奏することではなく、リーダーシップを発揮することでした。

中学・高校と生徒会に所属し、その間生徒会長に4回なったことがあり、みんなの意見を聞いて様々な課題を解決したり、新しい企画を考えて取り組んだり、毎年やっていることでもやり方をより合理化することが好きでした。

自然とアイデアが浮かび、プロジェクトごとに最適なメンバーを構成したり、キーマンを把握して物事を動かしたりしたその力は必死で努力して身につけた力ではなく、わたしに備わっていた力でした。

クラリネットを吹くことはわたしの職業でもあるので、一見「得意なこと」と思いがちですが、楽器を演奏することは沢山練習して努力して身につけたスキルなので、先ほど紹介した本の定義でいうと「好きなこと」に分類されるのです。

もちろん職業にするまでやったことは、得意なことに近い好きなことではあると思うのですが、それでも先天的にできること、天才的な才能を発揮していることではないので、やはり好きなことの枠からは外れないでしょう。

好きなことは、このように何時間もかけて身につけた力で、努力を重ねているので達成感もあり「得意なこと」と間違う人もいるそうです。

「得意なこと」は先天的に持っている力なので、時間をかけずに出来てしまう…つまり、達成感が少ないときも多いため、本当は人とは違う能力を持っているのに得意なことと認識している場合もあるとか。

わたしはまさに後者のパターンで、例えば誰かに演奏力ではなく企画力やリーダーシップ力を褒められたときは「演奏が上手くないと意味がないよ…」と思っていたときもあったのです。

得意なことをもっと伸ばそう

こうして新たな視点で自分の強みを把握すると、例えば音大卒業後の進路を決める際にも得意なことを仕事にできないかな?と考えることができますよね。

そして、演奏家としてのスキルを磨くだけではなく、作編曲・コンサートの企画などの演奏以外のスキルや、チラシ制作・HP制作・写真撮影など、音楽に限らず仕事を広げていけるスキルをかけ合わせたいと考えている人もいるでしょう。

そんなあなたは、得意なことからスキルを伸ばしていけば良いのです。

『好きなことを仕事に』という言葉がありますが、好きなことや、やりたいことを明確にすることだけでなく、得意なこともしっかり認識しましょう。日本人は自己肯定感が低かったり、謙遜する文化が美徳とされる部分があるからか、人よりも優れている部分をしっかり認識できていない人も少なくありません。

実際に、過去のわたしがそうでした。

自分自身への理解を深めれば、それが将来の進路について考えるときのしっかりとした「軸」となり、既に得意なことがあるのに、それを生かせない仕事を選択してしまうことは避けられるはずです。

また、これからの時代を切り開き新しいスタンダードとなるであろう、演奏活動と音楽以外の仕事の両方を頑張る音楽家を目指したいあなたには、今ご覧いただいているNPO法人ネクストステージ・プランニングでの連載を分かりやすくまとめた、ディレクターの藤井裕樹さんが執筆された『音大生のための働き方エチュード』がオススメです。

ぜひチェックしてみてくださいね。

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