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吉田佐和子執筆記事

信念と情熱を持って、自分軸の人生を生きるーコントラバス奏者・井口信之輔さん【後編】

コントラバス奏者で吹奏楽やオーケストラまで多くの団体の指揮・指導にあたる井口信之輔さん。

インタビュー前半ではご自身が卒業後の進路を決めたきっかけや、音楽だけで生活していけるようになった理由についてお話していただきました。

信念と情熱を持って、自分軸の人生を生きるーコントラバス奏者・井口信之輔さん【前半】

後半では、仕事を広げていく際に役立ったウェブでの発信についてお伺いします。

ウェブで発信を始めたきっかけ

吉田:大学を卒業された後、ウェブで発信をしてみようと思われたきっかけは何だったんでしょうか?

井口:ウェブで発信してみようと思ったきっかけは2つあって、1つ目はある演奏会で初めて司会のMC原稿を作る仕事を頼まれたことなんです。

そのとき僕はMC原稿を作ったことはなかったんですけど、頼まれたのでぜひやらせてくださいと引き受けたんです。

とにかくたくさん自分なりに考えて、ディズニーランドに行ったりしたときに面白いなと感じたキャストさんの言葉や、自分がほっこりした車掌さんのアナウンスなど、日々の中で見つけたいいね!と言いたくなる要素とかも取り入れたりして作ったところ、それが「面白かった!」とすごく喜んでもらえて。

じゃあこの力を伸ばした方がいいなって思って、文章を書く練習をしようと思い、ブログを始めたんです。

文章力を伸ばそうと、自分の活動日記や考えを書くようになって、それからずっとMC原稿は僕が担当させてもらってます。

吉田:じゃあMC原稿を頼まれてなかったら、発信は始めてなかったかもしれないってことですか?

井口:そうですね。なんか文章を書く仕事はいつかしてみたいなって思ってたんですけど、全然具体的じゃなくて。でもMC原稿がきっかけで、お客さんや読んでくれた人に喜んでもらえたのが嬉しくて始めました。

2週間で500ダウンロードを突破した教本が生まれたきっかけ

井口:あともう1つ、今のような発信を始めたのは、ツイッターのDMがきっかけになっています。大学を卒業して7年目くらいから、吹奏楽のコントラバスのことについて呟き始めたりしていたんですけど、翌年の春に地方に住む高校2年生の女の子からDMがきたんです。

吹奏楽コンクールに向けて課題曲のオーディションがあるんだけど、周りに教えてくれる人がいなくてどうしていいか分からないので教えてください、という内容でした。

やっぱり地方だとコントラバス奏者がいなかったり、顧問の先生がコントラバスのこと分からなかったり、楽器の状態が悪くてもそもそも楽器屋さんも近くにないと。そんな中で、連絡をくれた子は「自己流で練習するしかなくて辛いけど、コンクールには出たい」と思っていたんです。

で、その子の話を聞いて思ったのが『これって同じような悩みを抱えてる子いるんじゃないのかな』ってことだったんです。そこで、連絡をもらったのが4月頃だったので、夏の吹奏楽コンクールに向けて課題曲のコントラバスパートの分析をブログで書くことを決めました。

吉田:なるほどなるほど。

井口:そういうことをしている中で、吹奏楽の雑誌にレッスンの記事を寄稿してほしいとか、ライターとして仕事をやってもらえませんか?っていう仕事が来るようになったんです。

その頃から中高生からくるDMに本気で返事を返して、そこからヒントを得てブログの記事を書くようになりました。少し前に流行った質問箱にも本気で質問に答えていました。届いた質問には全部答えていたので、数は100件以上だったかと思います。

やっぱり生の声って大切で、ここで集めた声は吹奏楽指導の現場で確実に役に立っています。

【参考】コントラバス奏者×吹奏楽指導者 井口信之輔/オフィシャルブログ

井口:あと、自分がすごく知られるようになったきっかけだと感じているのは、2017年の秋に始めた『明日のためのレッスンノート』という7ヶ月連続で毎週記事を更新する企画です。

当時、いつか教本をつくって出版したいという思いを持っていたので、自作の教本を作り、最初は自分の指導校に配ってたんです。

でも、それを2年間くらい続けて中高生の声を聞くうちに、出版するよりも全部無料で公開しようと思うようになって、そこから毎週記事を更新するようになりました。

吉田:毎週更新するのって大変じゃなかったですか?

井口:いや、もう本当に大変でした。日曜日の23:59までに記事を更新すると自分と約束してたんですが、最初は割とすぐかけるんですよ。

例えば、楽器の構え方、弓の持ち方、メンテナンス方法といったお話が多いんです。だけど、ポジションの話とか指の話になってくるとどうやって説明しようかなって考えたり、例えば自分で指の写真を撮影してコメント入れてってやってると、忙しくなってくると大変でしたね。

ただ、ある程度やっていると、そこでやめちゃうのが気持ち悪くなってくるんですね。ここでやめたくないなと。なので、ネタだけは作って絶対日曜日に更新するというのを7ヶ月続けました。

吉田:なるほど。『明日のためのレッスンノート』を7ヶ月書かれて、一番伝えたかった部分というのはどういうところなんでしょうか?

井口:そうですね。この記事を最後まで読んでくれたら、自信を持って先輩になれるよってところです。

コントラバスって人数の多い学校だと、1学年に1人か2人いるんですけど、少ない学校だと1年おきとかなんです。あとはしばらく誰もいなくて入った場合だったり、先輩がいない中で初めてコントラバスパートになる人っているんです。なので、教わる環境がなく、何も教わったことがなく練習しているという人が多いんです。

他にも、高校とかだと学区が広いので、自分は未経験で、後輩が経験者として入ってくるってこともあったりとか。そういう中高生の声が多かったんです。

なので、地方に住んでいてレッスンを受ける機会がない人でも、これを読んでくれれば吹奏楽でコントラバスを弾くための最低限の知識は伝えたから、自信をもって4月には先輩になれるよって伝えたかったんです。なので、そこまでは何とか走り切りたいなと。

吉田:最近リリースされた『明日のためのレッスンノート』はリリースからわずか2週間で500ダウンロードを超えていると伺いました。井口さんのつくられた教則本に取り組むことで不安が解消された生徒さんや指導者の方はたくさんおられるんでしょうね。

自分のステージを上げるためには覚悟が必要

吉田:井口さんはいつもゴールを決められたら、そこに向かってやりきっておられてるんですね。そういう姿勢、すごくかっこいいですね。

井口:あぁ~、そういうところってありますね。なんか、できなくてもやりますって言っちゃうんです。で、やりますって言ってお願いしますって言われて、家帰ってから青ざめることもあるんですけど。

やっぱり自分のステージを上げるにはやっぱりある程度覚悟って必要だと思うんです。例えば僕は幼少の頃から吃音持ちなのですが、改まった場所で台本のような決められた言葉を喋るのが苦手です。言葉が出てこなかったり「あー」とか「えーっと」と繋ぐので影アナウンスだったり演奏中のセリフなんかは断ります。

でも、自分が演奏中に喋るのは全てアドリブ、またはメモ書きを喋りやすい言葉に変換しながら自由に喋るのでこうした機会があればどんどん挑戦するようにしています。

他にも、例えば部活のレッスンに行った時に『すみません、合奏みてもらえますか?』と言われたときに、自分のチャンスだと考えてやった方が絶対自分の可能性は広がります。

ここは考え方が分かれるところですが、合奏指導分のお金は発生しないとしますよね。でも、ここで経験が稼げるわけです。そして良い仕事をすれば「この人は指導力がある」ってプレゼンをできる機会なんです。

そして、将来は合奏指導も仕事にしたいという夢があれば未来への導線を稼げるんですね。これは演奏の仕事もそうで「この現場で何を稼ぐか?」と考えていくのも大切だと思っています。

なので、本当に自分の苦手な分野であるとか、無理だって分かっているときは断ればいいと思うんですけど、やってみたいとか、やったことないけど何かできそうとか、似たようなことやったことあるぞっていう場合は出来ますやりますって言って、やりきることが大切ですね。

できなくても、まずはやってみること。そして、ゴールを決めて自分でやるという2つのことを意識して取り組んでいました。

吉田:お~なるほど。それは音大生はぜひそういう経験を参考にして色々やってみてほしいですね。

井口:やっぱり続けるっていうのが一番大事だと思うんですよね。なんかこう、仕事につながるとかは思わないんですよ。

僕が発信を始めたのは、自分の幅を広げて仕事を増やすためじゃなくて、自分のMCを作る練習とか、中高生のメッセージを見て『あぁこういう人がいるんだったら、こういう記事を読んでもらえるんじゃないかなぁ』とか思ってブログを書いてました。

自分を知ってもらった上で仕事があるはずですから、いきなり仕事を獲得しようと思って発信をせずに、まずは自分を知ってもらおうとするのが大切ですよね。その上で、自分に依頼をしてくれてはじめて仕事が生まれるので、そんな風に考えて発信していました。

やっぱり自分の手の内をどんどん明かしていくことによって、自分を知ってもらったことで、そのあとの仕事に繋がっていきました。

吉田:なるほど。確かに最初から仕事につなげようとして発信を始めるとうまくいかないかもしれないですね。

自分の持っている知識や経験を求めている人に向けて発信し、自分を知ってもらい、信用を得たあとに、はじめてお仕事に繋がっていくんですね。

回数自由のオンラインレッスンを始められたきっかけとは?

吉田:わたしが最近面白いなって思ってみさせてもらっていたのが、月額制で回数自由のオンラインレッスンなんですけど、これはどんな発想で始められたんでしょうか?

井口:実は、僕は1年前くらいにオンラインレッスンをやってるんですが、それで人が全然来なかったんです。

なので、コロナのことでみんなオンラインレッスンを始めたとき、僕は全然乗り気になれなかったんです。もう1回失敗してるからいいやって思ってたんですね。

でも、そうしたときに公式LINE(旧LINE@)に登録してくれてるメンバーとオンライン雑談会をやってたんです。そこでは僕がひたすら話していて、他のみんなは顔出しをせずにやってたんですけど、それが結構面白かったって言ってもらって、オンラインのコミュニケーションって良いのかな?って思ったんです。

それで、オンラインレッスンをもう1回やってみようかなと思ってみたんですけど、もう無茶苦茶考えたんです。

【参考】僕がオンラインレッスンを「回数自由」にした理由

ざっくり言うと、オフラインでやってたことをただオンラインでやってもうまくいかないんです。

オフラインでやっていて喜ばれていたことで、オンラインに転用できるものはやっぱり『コミュニケーションと会話』なので、そう考えると、1回のレッスンでは解決できないんです。

そして、皆さんとコミュニケーションしていくなかで、教える・教わるというレッスンではダメだなって思ったんです。

じゃあ何だろう?ってなったときに、オンライン雑談会とかで盛り上がったのって「お話が楽しかったです」という声が多かったので、音楽を通したコミュニケーションツールとしてオンラインレッスンをやってみることにしました。

吉田:すごい、その視点素敵ですね!

井口:リアルレッスンの魅力って何かと考えた時にたどり着く答えは、生きた音と生きた言葉を交わす時間なんです。先生の音と自分の音、その違いは何か?とか、部屋にいると響きの部分とか。

あと先生の体の使い方やフォームとか、弓の毛の部分の使い方とか、それがどんな音になるのかとか。

他にも、弦楽器だと1つの楽器を2人で使うことも多いので、同じ楽器でも先生と生徒の弾いた音が違います。そういうのはやっぱりオンラインで機械を通すとそれが全部カットされちゃうんです。

ちゃんと機材を揃えてレッスンを受ければそういう問題点は解決されるみたいなんですが、それを用意してもらうのも大変だし、技術的な話が中心になってしまって教える・教わるが難しいと思ったんですよね。

あとツイッターでオンラインレッスンについて調べていると『オンラインレッスン 微妙』って出てきたんですね。やっぱり音のこととか、通信環境のこととか、接続してみないと分からないっていうのがありますよね。

しかも今コロナ禍の自粛期間の中でみんなストレス溜まるじゃないですか。

ストレス溜まる中で接続テストやって、接続できなかったり、例えばオンラインレッスンを1レッスンいくらというスタイルでやって、通信環境が微妙だったけどオンラインだから仕方ないかなって思わせちゃったり、家族が家にいて音出しできる環境じゃなくなった人もいたりして。

ただでさえ人の気持ちが落ちているときに『ちょっとレッスンいけなくなっちゃってすみません』とか『今日レッスンだったんですけど、急に家族が家にいることになってレッスン受けられなくなってすみません』って言わせちゃだめだと思ったんです。

みんな自粛してストレスが溜まっているので、喋るのは楽しいですよね。しかもコントラバスっていう共通言語があれば盛り上がれるし、人は盛り上がると笑います。自粛には絶対笑いが大切なんです。やっぱりストレスの発散になるし、非日常的な世界になる。

オンラインで良いアドバイスが出来て演奏がうまくなれば、お互いハッピーだし、やっぱり音楽っていいな、楽器弾くのって楽しいなってなると思うんです。そこを重点にしようと思ったんです。

そしたら、回数は自由にしてみようかなと。今みんなお金がなくなってる時期だし、お金を使うのも大変な時期だったということもあるんですが、1レッスンいくらだとしんどいかなと。そこで月額制にして、受講回数は自由にしてみました。オンラインでレッスンを受けられるという権利を売る=月額5000円で僕と繋がれる権利を買うってことなんです。

例えば、レッスンしてもいいし、悩み相談してもいい。2つプランを考えて、zoomで繋がるレッスンと、演奏動画の録音を送ってもらって僕がコメントするレッスンと、それぞれのステイホームの生活スタイルに合わせて自由に組み合わせてもらえるように考えました。

【参考】井口さんの考えたオンラインレッスンプラン

無料体験レッスンも、接続チェックも全部入れて回数自由のレッスンにして、月額パッケージにしたんです。オンラインレッスンでは1対1の関わりを大切にしているので、受講生は少人数とし、僕たちは収入を一本化させず分散化させるのが大切なので、この仕事ではどれくらいの数字を稼ぐと決めていけば良いと考えていました。

メールで録音や動画のやりとりをするプランは空き時間にいつでもできるので無制限で募集して、こうした活動がオンライン上での収入になっていけばいいなと思っています。

吉田:本当にいろいろ考えておられるんですね。

井口:そうですね。1年前に失敗してるので、本当にたくさん考えて始めました。ちなみに、レッスン回数自由ではありますが、皆さん平均して月に2.3回受講される方が多いですね。

レッスンが終わったあとはレッスンノートっていうフィードバックをメールでお伝えしていて、そこにはお話と演奏の割合を書いているんですが、だいたい皆さんお話の方が多いですね。

レッスンの内容はこのノートにまとめられている。普段から色んなことをメモする習慣を持っておられるそう。

吉田:あ~、みんなやっぱり話したいんですね。

井口:そうなんです。あと、目のやり場が小さい画面なので、その分みんな真剣な話ができるんです。ちょっと周りに聞きにくいようなことを質問をいただくことも多いですし、初心者の方や現在レッスンを受けているけれど、他の先生のレッスンも受けてみたい、というようにセカンドピニオン的に受講される方もいらっしゃいました。

吉田:井口さんのブログを日頃見ておられる方は、丁寧な発信を見ておられている分、初めてでも安心して受講されたんでしょうね。

音大生へのメッセージ

吉田:最後に、将来について考えている音大生や若いフリーランスの音楽家のメッセージをお願いします。

井口:信念と情熱を持って、自分軸の人生を生きるということを伝えたいですね。やっぱり自分の価値観で、自分の言葉に魂を持って文章を書いて発信していれば、その熱量は伝わるんです。

やっぱり仕事の前には信頼があると思うし、そこを勝ち取る為には本気の言葉を伝えることが大切です。

吉田:そうですね。自分がこう在りたいということがはっきりしていると力強く歩んでいけますね。

井口:自分の軸・・・自分が好きなことや得意なことが分からない人は、このコロナ禍でチャレンジするハードルがすごく下がっているので、今だからこそチャレンジしてみてほしいですね。

吉田:確かに!この記事を読んでくれている読者の皆さんには、失敗することを恐れず、ぜひ色んなことにチャレンジしてみてほしいと伝えたいです。今回は色んなお話をきかせていただきありがとうございました!


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