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NSP奨学生執筆記事

音楽好きには天国のような環境

こんにちは。2020年の秋からパリにてクラリネットを勉強しております、鈴置 紘一朗(すずおき こういちろう)と申します。この4月から第1期のNSP奨学生に選出していただき、また同時にこちらのウェブサイトにて私の留学経験を記事として発信する機会をいただきました。 第2回目となる今回は、フランスで音楽を勉強することのメリットについて、ここまで私が感じた通りにお話ししたいと思います。

ドキドキの音楽院受験

ムードン音楽院

私は現在、パリ南郊に位置するムードン市にある公立の音楽院に通っています。この学校を選んだのは、ひとえに日本時代にお世話になっていた先生が勧めて下さったためです。ただ、はじめはどんな先生かも分からず、かといってコロナ禍にあって事前に渡仏してレッスンを体験するということも難しかったため、正直不安の気持ちが凄く強かったです。

入試の課題は、事前に通達されていた課題曲を1曲演奏するというもので、その他座学の知識を問う試験などはありませんでした。私が渡仏したのは試験の一週間前だったのですが、ほどなくして学校側が紹介する伴奏者の方との簡単なリハがあり、その数日後いよいよ、人生で初めてとなる楽器の試験を受けたのでした。

2人の恩師との出会い

結果は、幸いにして合格。これはその場にみえたクラリネット先生から直接伝えられました。さらに付け加えて「あなたは音色に少し課題があるようですね」とも。実はこれ、私が兼ねてから悩んでいたことだったのです。そして最後に「一緒に克服しましょう」と力強く言っていただいた瞬間、自分はこの先生について行って間違いないのだと強く確信しました。

また同日、私は自分で探した別の学校でも試験も受けました。そこで教鞭を執ってみえる先生は日本でも著名な方で、当初の第一志望は実はこちらの学校だったのです。しかし結果は不合格に。ただ、その先生にも指導を仰ぎたいという気持ちを諦められず、後で個別に講評を聞くことのできるタイミングを見計らって、「どうしても先生に習いたいのですが、何か方法はありませんか?」と藁にもすがる思いで直訴。すると「プライベートでも良かったらレッスンしましょう!」と快く受け容れて下さったのです。

さらに後で分かったことなのですが、奇しくも2人の先生は互いに生徒を紹介し合うほどの信頼関係にあり、私のレッスンに関しても双方での情報を共有しつつ進める運びになりました。これはまさに、幸運以外の何物でもありません。

幸せな学校生活、音楽漬けの毎日

学校の練習室。近年改装されたばかりで、清潔かつ機能的な内装

ムードン音楽院の授業は試験のあった翌週からスタートしました。私の履修は、クラリネットのレッスンの他に、アナリーゼ(厳格なフランス式音楽理論に基づく楽曲分析)、ソルフェージュ(聴音や歌など音感を磨くもの)、そして室内楽の4つで、それぞれが毎週1コマずつあります。そこへ、プライベートで習っている先生の所にも1ヵ月に2~3回の頻度で通っているのですが、それでも大方の時間は好きに使えるので、思う存分練習や勉強に没頭することができます。

因みに普段練習を行っている場所は基本的に自宅ですが、時に学校の練習室を借りることもあります。特にムードンのように生徒数の多くない音楽院では、基本的に時間の制約を受けることなく部屋を使用し続けることができるのです。

また学生同士の交流も盛んです。ムードン音楽院にはフランス人学生の他に、日本や韓国、中国、中南米などからの留学生がそれぞれ何名か在籍していて、普段の授業などを通じて交流を深めることができます。こうした経験ができるのも、世界中から学生の集まるフランスの音楽院の特色の一つだと思います。

学費についても、フランスの音楽院は概して日本の音大よりも桁違いに安いようで、ムードン音楽院の場合は年間で15万円ほど。とても経済的です。

パリそのものがクラシックの世界

パリ中心部マレ地区でのカット

ところで、私がパリに着いてすぐに驚いたのが、その街並みの美しさでした。地震の多い日本では考えられないことですが、パリの建物は基本的に石造り。またいずれも清潔感のある乳白色を基調としていることも、街全体の景観に統一感を与えています。さらに驚くことに、これらの建物の多くはなんと19世紀に建てられたもの。パリの人々は時代が変われど、古い建物を取り壊すことは無く、内装だけ改装して、ずっと使い続けているのです。

ここで一つの興味深い考察が生まれます。例えば東京ですと、私たち普段目にしている景色というのは、東京がまだ江戸と呼ばれていた頃の街並みとは全くの別物です。しかしパリの場合、街並み自体が昔から大きく変わっていないので、例えば今自分の借りているアパルトマンのすぐ目の前にある通りを、200年前にはあのショパンが日常的に散歩していたかもしれないのです。それこそ、フランス人作曲家は勿論のこと、他国の作曲家でさえ、皆その生涯の重要な時間をパリで過ごしています。その意味で、パリの街というのはクラシックの歴史そのもの。パリで暮らすということは、まさしくクラシックの世界に自分も飛び込んでしまうということにほかならないのです。

(続く)

最後までお読みいただきありがとうございました。次回の記事では少しテーマを変えて、私が体験した留学にまつわる苦労話を一挙まとめてお届けしたいと思います(6/24に更新予定)。どうぞお楽しみに!

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