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NSP奨学生執筆記事

音大か一般大か(前編)僕が進学する前に知っておきたかったこと

 

こんにちは、第2期NSP奨学生の村松海渡です。

あなたはこれまでに、進学に際して一般大と音大とで迷われたり、音大に進みたいのに親に「一般大の方が“つぶし”がきくんじゃない?」などと言われたことなどはありますでしょうか。もちろん人生の数だけ、答えは多様にあるかと思います。その上で、より納得のいく答えに辿り着くために、「音大か一般大か」と悩んだ末に一般大に進んだ側としての経験を、具体的な一例としてお話出来たらいいなと思っています。

分量が多いので次回と併せた2本立てでお送りすることになりましたが、今回は特に一般大で音楽を志す上で乗り越えなければいけない“ハードル”について取り上げます。

初めに強調したいのは、進路や所属は、夢を実現するための手段に過ぎないということです。逆に言えば、あなたはなぜ、そこに進学したいのか、なぜ所属したいのか、をできる限り具体的にしておけるとよいのではないでしょうか。僕自身は人生の目標にある程度科学が絡んでおり、より目指す目標の解像度を上げる(=具体的にする)ためにも一般大を選んだことは良い手段だったと考えています。

一方で、音大と一般大と、どちらの選択をしたからうまくいく/いかない、という視点でのお話はしません。これは自分自身が未だ目標のために模索しながら進行形で歩んでいることや、そもそも何を成功とするかは人によるという考えに基づいています。また、そもそも選択肢はその二択とも限りませんね(僕自身の具体的な活動の紹介は第1回のブログに記載しております。そちらもよろしければ併せてご覧ください)。

その上で、今までの自分の内面的な歩みを主観的に振り返り、一般化できずとも、そこから何か参考になるポイントを拾ってもらえるようにお話しをしたいと思います。

悩みながらも一般大へ

高校時代、音楽を学ぶことに強い関心があり、音楽大学に進学したいと何度も考えました。一方で、音楽家といっても「どのような」音楽家になりたいのか、といった視点で将来像を考えると、一般大で学べる学問も自分の活動に生きるのではないかと思うようになりました。また、音楽は自分自身でアレンジして学ぼうと考えて、結局私は一般大学へと進学しました。

人によっては「どんな音楽家になりたいか」を考えたときに、一般には音楽以外に分類される学問も修めたいと考えることもあると思います。また、興味の赴くままに、音楽以外の学問を学ぶことも、大切だと思います。一般大ではこれを深いレベルで実現するのに適していて、これをざっくりと「音楽家としての可能性を拡げる」というメリットとして挙げることができると考えています(この点については、後半の回でじっくり取り上げます)。一方で、それに伴った“ハードル”もあるんだということを、実経験から学びました。

よく考えれば、今回紹介する内容はごくごく当たり前に思えるかもしれません。しかしながら、例えば進学を控えている方にとって、さまざまな選択肢の解像度を上げておくことは進路の決定にプラスに働くかもしれません。あるいは音大などにいる方ならば、異なるバックグランドの人間の理解を深め、今後の多様な繋がりを広げることに貢献できるかもしれません。そんなことを信じて、今回この文章を書いています。

音楽だけをやっても許されるという環境ではない

一般大で他の専門を学んでいても、音楽を学ぶこと自体は十分に可能です。自分自身で師を見つけ出したり、諸々のチャレンジをしたり、また音大や演奏を営む人たちと知り合って、共に力を併せて何かを成し遂げることだって、できるはずです。

 


<友人と初めて挑戦したコンサートでの一枚>

ただし、演奏家としてのレパートリーの開拓や、演奏の研鑽、コンクールへの挑戦など、直感的に音楽演奏に関連すると考えられるポイント“だけ”に全ての時間や労力を注力し続けることはできない、のです。

この点は、僕が大学1~2年の間、頭では分かったようでいて、実際腑に落ちていない点でした。

要するに、自分はサイエンスを含め、音楽のためにいろいろなことを吸収したくてこの大学に来たはずなのに、かたや自分の身近な音大生は日々音楽演奏に没頭して楽しそうにしてい(るように少なくとも見え)たり、コンクールのために四六時中練習だけに没頭したりしている人を見ては羨ましくてたまらなくなってしまったのです。

私は、目標の達成の仕方は、全てのリソースを一点のみへ向けること「だけではない」と信じています。また、与えられたレースに「勝つ」ことだけが目標達成の手段ではない、とも信じています。このことについて、音楽を志しながらも特に多様な在り方を求めて一般大という選択を考えている方々にはぜひ考えてみて欲しいなと思います。目標への辿り着き方は様々であると弁えておかないと、どうも隣の芝が青く見えてしまうように思います。

実の所、このことをきちんと納得するのに、僕はかなりの時間を使いました。余談ですが、先輩のピアニストである角野隼斗さん(youtuber としてcateen名義でも活動されています)が一時期、研究7時間、ピアノ7時間を日々やってのけていると聞いた時には物理的にひっくり返りました。

コミュニティに無条件には属せない

大学のサークルなども含めて、一般大にも多くの音楽のコミュニティがありますが、演奏家を目指している人々や音楽家の方々のコミュニティ、というのは基本的には一般大から見ると離れたところにあるように思います。

音楽大学に所属すると、多くの音楽家を先輩に持つことになったり、また、志を同じくする仲間との繋がりを、大学という環境を通じて得ることができます(もちろん、そのチャンスを活かせるかどうかは、個人にかかっていると感じています)。

しかしながら、一般大にいると、往々にして音楽を志す人間はマイノリティになりがちです。実際、大学1~2年の頃の僕は、音楽のコミュニティに十分に属せていないことに悶々としていました。そこで僕は3~4年の後期課程(専門)に進む前に、一度、海外のコンクールやマスタークラスへ参加してみることにしました。

 


<ドイツでの初めての演奏会より>

詳細は本題から逸れるのでお話ししませんが、1ヶ月ほど、国内外のピアニスト30人ほどと共同生活を送り、その中で音楽に明け暮れる日々を過ごしました。互いに様々な学びや模倣を重ねたり、著名な音楽家の指導を受けたりした現地での経験はシンプルに愉しいものでした。

暖かな仲間に恵まれ、音楽家のコミュニティの一員として過ごしたことにより、私は自身がその集団の中で「どのような」音楽家になりたいのか、という視点で自分を改めて見つめることができました。これは普段音楽家に囲まれていないと(そのようなコミュニティにいないと)しばしば忘れがちになるように思います。元々その初心があったからこそ自分は一般大にあえて進学したんだと、そこで思い直すことが出来ました。今でも、彼らには感謝の想いで一杯です。

つまり、コミュニティに無条件には属せないハードルは、「どんな音楽家になりたいのか」という初心を忘れかねないというリスクを孕んでいるのです。それを乗り越えるためにも、音楽を志しながら一般大に進まれる方には、ぜひコミュニティになんとかして飛び込んで欲しいと思います。

 


<大学進学後に飛び込んだ金子勝子先生門下の方達と>

後半に向けて

今回は、以上のように一般大に進学したことによる副作用や、その処方箋についてお話ししました。これだけを読むと魅力的でない選択にも思えるかもしれませんが、ぜひ、次回はそんな独特な選択ならではの面白みを存分にご紹介します。

p.s.ちなみに今回挙げた困難も、次回述べようと思っているこの選択のメリットについても、海外の総合大学ならばいいとこ取りできるんじゃないの、、と思ったりもします。例えば米国イェール大には音楽院と自分で選んだ専攻との5ヵ年コースなどもありますが、中高時代にそのようなシステムを知っていたら、そちらを選んでいたかもしれません。

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