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YUZU執筆記事

オーケストラ運営にみる自己管理の大切さ

こんにちは!NSPのオープンポジションスタッフとして活動しています、YUZUです。

現在は社会人ですが、大学院の時(2019年)に研究していたオーケストラ運営をテーマに、ブログを書かせていただいています。
前回のブログでは、複数のオーケストラ事務局の方にお話をお伺いした時の内容を取り上げました。質問の項目は全部で次の5つです。

1. 公演の状況
2. SNSの活用
3. 楽団員の人件費
4. オーケストラ外部からのサポート
5. ホールとの連携

前回は、「1. 公演の状況」のなかでも、依頼されて行う公演を中心としました。どのオーケストラも、新しいお客さんに営業を行う前に、まずは、今の依頼主から続けて依頼を受けるために努力している事がわかり、信頼関係を築く大切さを強く感じました。

今回は、「1. 公演の状況」のうち、オーケストラが主催して行う公演に焦点をあてたいと思います。なお、聞き取りのご回答内容には、複数のオーケストラで同じものもあったため、下図のようにオーケストラをA、B、Cの3つのグループに分けてご回答を整理する形にしています。

緑の丸印:オーケストラ(19団体)の位置
A枠のオーケストラ:全収入のうち演奏活動収入の占める割合がトップ
B枠のオーケストラ演奏による収入額がトップ
C枠のオーケストラ楽団員1人あたりの人件費がトップ
※それぞれの枠の説明について、詳しくはこちらのブログを見てみてください。

オーケストラは、外部から公演を依頼されるだけでなく、自分たちで公演を主催しています。オーケストラが主催する公演について、その目的、取り組みや課題など、早速みていきましょう〜。

オーケストラが主催する公演はどんな感じ?

1. 公演の状況
なぜ公演を主催するのか

公演を主催する目的をお伺いしたところ、それぞれご回答は次のようになりました。

  A枠 B枠 C枠
主催する公演の目的
  • 音楽を通して音楽を広めていく
  • 来場者が新しい楽曲に触れる機会を提供する
  • コンサートへの親しみをもってもらう
  • 積極的に若い世代へアプローチする
  • 地域の人たちに還元する
  • 青少年の健全育成を行う
  • さまざまな年代にアプローチする
  • コアな聴衆にアプローチする
  • 幅広い来場者を集める
  • 聴衆が自身の感想をもち、知的な楽しみを味わう機会を提供する
  • より多くの来場者に親しみをもってもらう
  • 演奏を聴きたいと思う聴衆を増やす
  • 名曲を聴きたい聴衆に機会を提供する
  • クラシック音楽に慣れ親しんだ聴衆から、入門の聴衆までさまざまな聴衆を取り込む
  • 広い層に音楽の魅力を伝えてファン層を広げる
  • 楽団の実力を伝える
  • 他分野とのコラボレーションで、さらに多くの人にクラシック音楽を身近に感じてもらう
  • コアなクラシック音楽ファンにも満足してもらう

 

主催する公演の目的については、音楽を通して若い世代やオーケストラになじみのない人を含め、もっと多くの人にオーケストラへの親しみをもってもらうという目的がすべての枠のオーケストラに共通してあるようです。一方で、クラシック音楽に慣れ親しんだ聴衆を取り込むという目的は、B枠とC枠のオーケストラでは話に出てきましたが、A枠ではそのような話は特にありませんでした。
まとめると、A枠のオーケストラは新しいお客さんの開拓が目的の中心にあるようですが、B枠とC枠のオーケストラでは、新しいお客さんの開拓だけではなく、定期的にコンサートへ足を運んでいる既存聴衆の維持を行う傾向がみられました。

②主催する公演への取り組み・課題

次に、主催する公演に対してどのような取り組みを行っているのか、また抱えている課題があるかどうかについて、お聞きしました。

  A枠 B枠 C枠
公演への取り組み
  • 定期演奏会の公演内容は、公演を行う場所により、難しい曲目にするか、やわらかい曲目にするかに変化をもたせている
  • 定期演奏会の内容に一貫性をもたせている
  • 名曲を積極的に取り上げている
  • 来場者に親しみやすいプログラミングを心掛けている
  • 他分野とのコラボレーションを行っている
  • 特徴的な企画を行う
  • 1公演の曲目に関連をもたせる
  • さまざまな分野とコラボレーションする
  • ポップスコンサートなど特徴的な企画を行う
  • 名曲を取り上げる公演を行う
  • 教育プログラムを行う
課題
  • お客さん/定期会員を増やすためのプログラミングのバランスが難しい

 

公演への取り組みでは、同じ枠のオーケストラであっても違いがあり、オーケストラごとの特徴が表れる結果となりました。定期演奏会では、会場ごとに曲目内容に違いをもたせるとしたオーケストラもあれば、まったく同じ曲目で演奏するオーケストラもあるようです。さらに、他分野とのコラボレーションやポップスコンサートなど、内容に特徴ある公演が積極的に行われているようです。
また課題面では、A枠でお客さんや定期会員を増やすためのプログラミングが難しいという話がありましたが、B枠とC枠では特に課題についての話はありませんでした。
まとめると、音楽を通してさまざまな年代の人に、またクラシック音楽になじみが薄い人にオーケストラへの親しみをもってもらうという目的をもって特徴的な企画を実施している傾向にあると思います。

③主催する公演と、依頼されて行う公演のバランス

最後に、主催する公演と、依頼されて行う公演について、今後、回数バランスをどのように取っていく予定なのかお伺いしました。あわせて、回数バランスを取るうえで課題と感じている点もお聞きしました。

  A枠 B枠 C枠
主催する公演の今後
  • 回数を増やし、聴衆に聞かせたい曲/挑戦したい曲に取り組みたい
  • 公演の質を高めたい
  • 回数を増やして、楽団の芸術性を大切にしていきたいし、演奏を安定させていきたい
  • 主催する公演を優先させていきたいし、一層力を入れていきたい
  • 回数を維持したい
依頼されて行う公演の今後
  • 積極的に回数を増やしていきたい
  • 費用をまかなうために必要な公演を引き受けていきたい
  • 公演の内容を吟味した上で引き受ける事はあっても、回数を増やす事はない
  • 回数を増やす必要がある
  • 主な収入源であるため、力を入れていく
  • 地域のために演奏していく
  • 回数は現状を維持する
  • 回数は限って受けていく
  • 回数を増やしていく予定
課題
  • 公演回数が多く、人員に負担がかかっている
  • 依頼されて行う公演では、定番の曲目の演奏会になりがち
  • 主催する公演は増やしにくい
  • 公演回数が非常に多く、人員に負担がかかっている
  • 依頼されて行う公演により、音楽の質が下がる恐れがある
  • 依頼されて行う公演を増やしたいが、難しい
  • 人員への負担
  • 楽団員の体への負担

 

自主公演の今後について、すべての枠で、少なくとも主催する公演の回数は保ち、出来れば増やしていきたいとおっしゃっていました。理由として、A枠とB枠では、オーケストラとして芸術性を大切にした曲に取り組む事が出来る点が挙げられました。
一方、依頼されて行う公演が収入源になっているオーケストラが多い印象でした。特にA枠とB枠では、依頼される公演を少なくして主催する公演を増やしていきたいが、今後も依頼される公演を引き受けていく必要性があると感じているオーケストラが多かったです。
課題は、どの枠のオーケストラでも、人員への負担がかかっている点が挙げられました。さらに、A枠とB枠では、依頼されて行う公演を増やす事で、音楽の質が下がってしまう不安を感じているオーケストラもありました。
今後、主催する公演、また依頼されて行う公演を増やしていきたいと考える一方で、人員への負担、音楽の質の低下への影響を不安に感じていらっしゃいました。そのため、今後、人員への負担も考慮していく必要があるといえそうです。

自己管理の大切さ

今回、聞き取りをとおして、オーケストラが主催する公演には、もっとたくさんの人に興味をもってもらい、公演に足を運んでもらうという大切な目的があるように思いました。その一方で、依頼されて行う公演がオーケストラの収入源になっているため、主催する公演と、依頼されて行う公演のバランスを取る事の難しさも感じました。特に人員への負担がかかっているという課題は重要だと思います。

フリーランスの音楽家もオーケストラと同じで、依頼される公演が多すぎると体への負担になってしまいます。ですから、忙しくても心身とも十分に休ませる時間づくりはとても大切です。一方で、主催する公演が多すぎると、練習時間の確保はもちろんの事、集客、演奏場所や人員の手配など準備に時間が必要になってきます。さらに、公演を行うたびにお金がかかるので、時間とお金の余裕がないと、ずっと主催する公演ばかりを行うのは難しいですよね…。

まずは収入の基盤をしっかりと作るために、公演を依頼されるようになる事も、また重要ではないかと思います。ぜひ依頼を引き受けてほしいと依頼主に思ってもらうためにも、体調をくずさないためにも必要な自己管理。高校生のうちから自己管理に気をつかう事で、将来にプラスになる事は間違いありません。

自己管理といっても、体調管理、身の回りの管理、そしてスケジュール管理など、いろんなタイプの管理があると思います。
今回は、特にフリーランス音楽家にとって自己管理に役立つ記事をピックアップしたので、ぜひ参考にしてみてください。これから音楽の質をさらに高めていくうえでも、公演を企画する時、依頼される時にも、きっと役に立つ内容です!

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ほかのお仕事をしながら演奏活動をする時には、時間の確保が一層大切になってきます。そんな時、どうやって時間を確保したら良いのかという事がインタビューをもとに書かれています。また、演奏活動に関係ないように見えるお仕事でも、自己管理を学んで演奏活動に活かせるようですよ!

一見すると、個人での演奏活動とまったく違うように見えるオーケストラ運営ですが、つながっている部分も実は多いと感じてもらえたら嬉しいです。次回は、オーケストラが運営のなかでSNSをどのように活用しているのか、そして活用の成果についても見ていきたいと思います。ぜひ、次回もお付き合いください。

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