音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
時間、期限を守る/電話、メールなどできちんと連絡が取れる『フリーランスで成功するための“10の秘訣”』 Vol.3
前回は主に「健康管理」について書きました。
今回は、
3. 時間、期限を守る
4. 電話、メールなどできちんと連絡が取れる
の部分。スケジュールや、それを管理するための(演奏以外の)事務処理のお話です。
3. 時間、期限を守る
時間を管理する(守る)というのは、健康管理並みに当たり前だし、ここでミスると必ず損をします。
日本は時間に厳しい社会
ご存じのとおり、日本の鉄道は世界から見ても時間に正確なのは有名な話ですよね。
良くも悪くもですが、それだけ日本は時間に厳しい社会なんです。
僕は、アメリカの田舎では、鉄道が2時間遅れて来て、さらに到着も数時間遅れるとか、年越しライブが何となく始まり、ステージ上でカウントダウンが始まった時にはもう0時を過ぎていたなんて経験もしましたが(笑)、日本ではまず考えられません。
やはり遅刻の印象は悪いです。
演奏以前に損をする典型ではないでしょうか。
演奏以外でも仕事は評価される
仕事というのは、「労働の対価として金銭をいただく」行為です。
音楽家はここが曖昧になりやすいのですが、決して音を出している時だけ金銭が発生しているのではなく、拘束されている時間のすべてが仕事だという意識をもたなくてはいけません。
僕が過去に経験した年間契約のレギュラーの仕事でも、本番に穴を空けていなくても、入り時間に何度も遅刻している人は、翌年解雇になりました。
あとは、拘束時間うんぬん以前に、印象の問題ですね。
とあるツアーの仕事で、早朝の新幹線や飛行機の待ち合わせで、2度ほど乗り遅れた奏者がいましたが、僕の中では演奏より、「遅刻をする人」という印象が強く残っています(仮にこのツアーが15本あったとして、残り13本は遅刻していなくても、周囲には遅刻の印象が強く残ります)。
地方に行くと、メンバーで美味しい物を食べに行ったり、お酒を飲む機会も増えますが、この奏者は夜遅くまで盛り上がり、翌朝のホテルのロビー集合にもよく遅れていました。
地方公演の際の東京駅や羽田空港の集合時刻や、終演後の飲み会が拘束時間の中かと言われると微妙なところではありますし、演奏以外を楽しむなと言っているつもりはありませんが、最低限のプロ意識は必要ですよね。
ちなみに、前回の記事に書いたインフルエンザの人は同一人物です。
僕は今、一応プロデューサー、ディレクターという立場で奏者を仕事に呼ぶ側のポジションでもありますが、演奏がうまくても、こういう人に声をかけるのはためらいますよね。
病気で休むかもしれない、遅刻するかもしれない人より、そうでない(普通の)人を呼ぼうと思うのは、ごく自然な心理だと思います。
期限については自分の能力相応の判断を
自分は遅刻なんてしない、大丈夫だという方も多いでしょうけど、たとえば奏者に慣れないアレンジ(PCでの譜面作成を含む)の仕事を頼んで期限に間に合わなかったとか、もっと現実的な話では、スケジュール調整のメールなどですぐに返信がこない事は、若い音楽家だけでなく、30代前半くらいで比較的経験豊富な人たちと仕事をしていても、よくあるなという印象です。
クライアントさんなど、相手が締め切りを指定してきた場合、
①自分がその範囲で出来ると思ったら引き受ける
②無理だと思ったら、「その仕事量をこの期間でやるのは無理です、納期を延ばしてください」と打診する
③絶対に無理、迷惑をかける可能性があるならお断りする
基本はこの三択だと思います。
僕の過去の経験では、自分の能力、キャパシティーを理解せず、割と簡単に①の条件で受けてしまい、結果、間に合わなくて墓穴を掘っている人を多く見かけました。
状況に応じて、②③のように、出来ませんと伝える事はとても大切なんですよね。
ただ、若手の場合、大きなチャンスが巡ってくる機会はそんなに多くないし、いわゆる無茶振りをされて、それを乗り切る事で評価される可能性も高いので、この①②③、どれを選択するかはある意味運命のわかれ道かも分かりません。
どれが正解かはケースバイケースですが、一つ確実に言えるのは、自分が約束した納期、締め切りを守らないのは、非常に印象が悪い、これは間違いないでしょう。受けたなら、何が何でもやりきる事!(守っていてもクオリティーが低い仕事はダメですよ!)
4. 電話、メールなどできちんと連絡が取れる
もちろんこれはアレンジなどの制作の仕事だけでなく、「いついつ返信をします」と先方に伝えたメールなども同じ事です。
メールの返事が遅い人はなぜダメなのか?
このシリーズの1回目にも少し書きましたが、本番は事前におさえてあり、集まったメンバーで後日リハーサルの日程を調整するなんて事はよくありますよね。
自分がリーダーをやってみるとわかりますが、この状況でメールの返信がこない人が一人でもいると、日時を決定出来ないんです。
傾向としては、忙しい人ほど返信が早く、暇な人ほど遅いです。
前者をAさん、後者をBさんとした場合ですが、仮にBさんがAさんよりも3日遅く返信をしてきたとすると、忙しいAさんが出してくれた候補日を3日間ずっと仮でおさえてしまう事になるし、忙しい=売れっ子なので、3日前に出してくれた候補日にも新たに仕事が入り、結果、リハーサルに全員がそろわなくなる可能性もあります。
このBさんのようなタイプは、ほかの忙しいAさんのようなフリーランスの人や、スケジュール調整をしているリーダーやマネージャーの時間を奪っているという自覚がありません。
僕の感覚では、ビジネスの現場では、遅くても24時間以内の返信が一般的な気がしますね。
メールで損をする人のよくあるパターン
Bさんタイプの言い訳ベスト3は、
①迷惑メールのフォルダーに入ってしまった
②メインのアドレスでなかったのでチェックしていなかった
③候補日に別件が入っていて、調整中だった
です。
①迷惑メールとの兼ね合いをどうするか
迷惑メールは確かにわずらわしいですが、フリーランスの場合、大事なメールを見逃すリスクがあるなら、すべてを受信にし、いらないメールをマメに削除する、これしかないと思います。
②連絡手段は複数もつべきか
いまの時代、スマホのアドレス、PCのアドレス、LINE、Twitter、FacebookのMessengerなど、複数のアカウントを使っている人がほとんどだと思います。
一つしか見ていませんでした、は言い訳になりません。
わずらわしいなら、相手に一つしか教えないという手もありますが、フリーランスの場合、窓口がたくさんあるほうが有利なのもまた事実です。
実際、僕の世代だと、FacebookのMessengerでしか仕事の連絡がこないなんて人もいるし、僕自身、相手の連絡先をFacebookしか知らない(携帯の電話番号も知らない)なんて事もよくあります。
若い世代の方はLINEやTwitterがメインかもしれませんが、あなたに仕事をくれるのはFacebook世代の人かもしれません。
見ていませんでした、で損をするのはあなたのほうですよね。複数の連絡手段をもっている人は、毎日すべてをチェックする習慣を付けましょう!
③調整中なら調整中と返すこと
現在調整中の予定が入っているのなら、「ちょっと別件があって調整したいので、いついつまで待っていただけますか?」と、1本返信しておけば良いだけの話です。
それを受け入れるかどうかはあなたの事情ではなく、雇い主が判断する内容です。
調整してくれているなら少し待とうという場合もあるし、日程が迫っているので、すぐに予定を調整して参加を表明してくれる人に切り替える場合もあります。
「スケジュール管理」というスキル
こういったやりとりが、時間の管理だけでない、「スケジュール管理」というもので、いつどこに仕事が入るかわからないフリーランスにとって、とても大切なスキルなんです。
何ヶ月も先の安い仕事を受けるかどうか
前回シリーズの『輝く7人の音楽家たち』のインタビューで、ホルンの中澤さんもおっしゃっていましたが、後から良い仕事が入ったからと言って、前に受けた仕事をキャンセルすると、単発の仕事としては後から入ったほうがオイシイと思っても、信用を失い、その後の収入を減らしてしまう可能性もあります。
トランペットの佐藤君、ユーフォニアムの円能寺さんも、「自分の価値、相場を下げない」とおっしゃっていましたが、彼らとは逆に、ずいぶん先の安い仕事を受けてしまっているがために、後から良い仕事が入っても受けられなくて損をしている人もいます。
彼ら三人のような優秀なフリーランスは、決してお金を優先しているのではなく、時には安い仕事でも、人間関係ややりがい、将来への投資になるかを考え、的確にスケジュール調整をしています。楽器がうまい、そのうえこのようなマナーがきちんと出来ているからこそ、仕事がくる、続くんですよね。
電話の着信にはすぐ返信する
電話で仕事がくる事はずいぶん減りました。なので、あまり多くは書きませんが、先輩ミュージャンや事務所から着信があったら、留守電が入っていなくてもなるべく早く折り返すなど、自分がやりたいと思う人や事務所だったら、とにかく迅速に対応する事ですね。
若いうちは特に、あなたに声をかけているのではなく、あなたに「も」声をかけている場合が多いでしょう。
メールでも電話でも、連絡が早い人が有利なのは言うまでもありません。
何気ないやりとりに表れる「謙虚さや感謝」
最初は「いつでも空いています、何でもやります、たくさん経験させてください!」から始まり、スキルアップ出来た人は、同じ日に仕事が重なり、どちらかを選ばないといけない状況が必ず増えてきます。
クラリネットの太田さんも、同じ日に引き受けたい仕事が重なってしまった時は悔しい思いをするとおっしゃっていましたが、フリーランスには付き物だし、必要とされている証拠でもありますよね。
そんな時に、前々回にも触れた「謙虚さや感謝」があり、「お声がけくださってありがとうございます。今回は申し訳ありません、また次回よろしくお願いいたします」と言える人と、そうでない人では、その後の人生が変わってくるのではないでしょうか。
実際うちの事務所でも、緊急で人を集める必要があった案件で、やむを得ず複数の同じ楽器の奏者にメールをした事がありますが、返信が遅いうえに、こちらが「今回はすみません、決まってしまいました。またよろしくお願いします」とメールを返しているのに、それに対し「こちらこそ申し訳ありません、また次回よろしくお願いします」というような返信がなかった人は、おそらく次に声をかける事はないですね(このブログを読んでいたら、自分の事だと気付いてほしいのですが)。
やがて何かを手放す決断を迫られる段階が訪れる
駆け出しのころに何でも受けていた状態から、先ほども触れた人間関係、やりがい、将来への投資になるかどうか、報酬が適正かなどを考えた時に、不必要なものを手放す決断を迫られるのもまた、成長の証だと思います。
そうやって自分にスペースを作らないと、新たに何かを受け入れるキャパシティーは生まれず、スキルアップ出来ないですよね。
音大ではあまり教わらないかもしれない、このようなマナーを身に付け、若い皆さんには仕事の幅を広げていってほしいと思います。
次回記事:Vol.4 コミュニケーション能力がある
前回記事:Vol.2 自己管理が出来ている