音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
生き残る人と消えゆく人の音大時代の違いとは?
前回の記事、『“音大に行きたい”と“プロになりたい”は違う』はいかがでしたか?
前回は、将来音楽の道に進みたい方が、中学高校時代にすべき事のアドバイスでした。
今回はその続編として、大学時代のお話をしましょう。
入学がゴールの場合、プロがゴールの場合
まず次の2名の生徒さんを仮定して、より具体的に見ていきましょう。
Aさん:「音大に行きたい」と思い音大に入学した。
Bさん:どんなプロになりたいか、具体的な目標をもって音大に入学した。
この両者の学生生活がどれだけ違ってくるか、シミュレーションしてみたいと思います。
まずは物語にリアリティーをもたせるため、もう少し詳細な人物設定をしてみたいと思います。
入学がゴールのAさん
中学1年生の吹奏楽部でトロンボーンを始め、高校では全国レベルの吹奏楽部に所属。
高校時代は部活一色で、勉強もあまりしなかったので、ほぼ楽器だけで受かりそうな私立の音楽大学へ進学。
ただ、その先の事は特に考えていない。
プロがゴールのBさん
同じく中学1年生の吹奏楽部でトロンボーンを始めた。
ハリウッドの映画音楽が好きで、ふだんから本編をそっちのけに、BGMに耳を傾けていた。
ジャズも好きで、高校生のころからライブハウス通い。
将来はジャズ、スタジオミュージシャンになろうと思い、私立の音楽大学に入学。
映画音楽の興味を生かし、作編曲の勉強もしたいと考えている。
※現在はジャズ科のある学校も増えましたが、スタジオミュージシャンという仕事はジャズだけでなく、クラシカルなフルオーケストラでの仕事も珍しくはないので、あえて一般の(クラシック系の)音楽大学に進学した設定にしてみました。
両者に生じる音大生時代の差
それでは、音大に進学した両者がどんな4年間を過ごすか見ていきましょう。
Aさんの音大生時代
高校時代には吹奏楽で全国大会に出場し、「華」のある舞台を経験したAさん。
大きな挫折もなかったせいか、プライドが高いようです。
ただ、将来の具体的な目標はないため、先生に言われた課題をこなすだけの毎日。
出された課題をそつなくこなし、技術的にはそれなりに上達しました。
クラシック以外には特に興味ももたず、他校の生徒たちとの交流もほとんどしませんでした。
Bさんの音大生時代
幅広いジャンルの音楽を仕事にするスタジオミュージシャンになるためには、クラシックの勉強も大切なので、何より専任の先生からのレッスンを誰よりも一生懸命受講しました。
トロンボーンの場合、ソロ楽器と言うよりはハーモニー楽器なので、学友とのアンサンブルやオーケストラなどにも積極的に取り組み、コミュニケーションを大切にしました。
残念ながらBさんの音大にはジャズ科はありません。
でも、ビッグバンドなどで、ジャズのアンサンブルを学ぶ重要性、必要性は理解していたので、一般大学(早稲田や明治etc.)のビッグバンドサークルにも参加。
音大の教授はクラシック専門でしたが、Bさんの将来を理解し、アドリブ(即興演奏)の指導が出来る、第一線で活躍するプレイヤーを紹介し、レッスンに通う事を薦めてくれました。
作編曲にも興味があったBさんは、ほとんどの生徒が「トロンボーンには関係ない」と思って寝ている和声の授業などもしっかりと受講しました。
現在では、パソコンで楽譜を書くのも当たり前。
そういったソフトウェアの技術も自分で勉強し、学校のトロンボーンアンサンブルのコンサートのために、積極的に作曲や編曲の実践を行いました。
さらに、卒業後の事も考え、ジャズ科のある学校の生徒との交流をもったり、ライブハウスにも通い、第一線で活躍するプレイヤーの音を聴いたり、直接その方々からアドバイスを受けたりもしました。
4年間で学びの量が大きく変わる
いかがでしょう?
AさんとBさんが、音大卒業後、どれだけ差がついているかは一目瞭然ですよね?
4年間同じ環境にいても、全く「学び」の量が違います。
技術「だけは」あるAさんは、運が良ければオケに受かったりする可能性もないとは言えません。
ですが、高校での全国レベルなんて、プロを目指す人たちの間では大した事ないんですよね。
実際、「甲子園の優勝投手がプロになって活躍出来ない」という話、よくありますよね?
おそらくAさんタイプのほとんどは、卒業後すぐに現実を思い知らされます。
指導者の観点
では逆に、彼らを指導する先生(教授)の立場でも考えてみましょう。
先生に出来る事
あなただったらどちらの生徒さんを熱心に指導しますか?
もちろん先生である以上、「あなたは将来どうしたいの?」とていねいに聞いてくださる場合もあるでしょう。
平等に接する義務もあるでしょう。
でも、Bさんくらい具体的な目標をもっていれば、先生もアドバイスしやすいわけです。
「僕はジャズは出来ないから、友人の良いジャズプレイヤーを紹介するよ。
だけど、スタジオの仕事をしたいなら、在学中にクラシックの奏法をきちんと身に付けなさい。
そのためには、僕のレッスンや、アンサンブルの授業は大切だよ!」
などとアドバイスしてくれるはずです。
ですが、Aさんの場合、
「じゃあ、次回までにエチュードの何ページを出来るようにしておいてね。」
程度のアドバイスしか出来ませんよね?
あなただったら、どちらのタイプのレッスンを受けたいですか?
教えてくれない先生が悪い?
実際、卒業後に
「ウチの大学の○○先生は、何も教えてくれませんでした。」
などと愚痴っている人、僕の周りにもいます。
でもそれは、 本人の学ぶ姿勢に問題があった可能性も高いと思います。
音大の先生方も、長年その現場で仕事をされているので、人を見極める能力は超一流です。
あなたがAさんタイプかBさんタイプかは、ほんの一瞬接したらわかるんですよね。
その時点であなたに対する対応の仕方を変えていると言っても過言ではありません。
僕はすべての学校のすべての専任教科の先生を把握しているわけではないので、先生方の善し悪しは何とも言えませんが、あなた自身に問題がある可能性も十分にあります。
それでも「この先生は違う、自分は精一杯やっているのに先生は答えてくれない」と思ったら、それは相性など、別の問題かもしれないので、違う道を考えるべきでしょう。
生き残る人、消えゆく人
2回にわたってさまざまなお話をしてきました。
あなたが今どのステージにいるとしても、とにかく大切な事、それは、
あなたが将来を見据えて、自発的に学ぼうとしているか?!
です。
ちなみにBさんですが、音大に行ってそれをやったか、高卒で自力でやったかの違いはあるものの、ほぼ僕が実践した事そのものです。
逆に、Aさんタイプの友人は音大にたくさんいましたが、現在きちんと音楽だけで生計が立てられている人は一人もいません。
あなたはどちらのタイプの生徒さんになりたいですか?
次回はいよいよ、音大卒業後に演奏家が仕事を得るために大事な事を、7回に分けて語っていきます!
次回記事:『音大卒の演奏家が仕事を得る方法』 Vol.1 音楽業界の現状
前回記事:『“音大に行きたい”と“プロになりたい”は違う』