音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
音楽以外の能力を持ち合わせている/音楽が好きである、信念がある 『フリーランスで成功するための”10の秘訣”』Vol.7
これまでも「音楽以外」の能力について書いてきましたが、それらは主にマナーや考え方、意識の面でした。
僕はこの音楽家のサバイバル術を通して演奏技術だけでプロとしてやっていくのは難しいと訴え続けています。
とくにシリーズ「音大卒の音楽家が仕事を得る方法(全7回)」ではその点に具体的に触れているので、まずはそちらを読んでください。
- デジタル技術を利用する
- クラシックの人はジャズやポップスを勉強する
- 教えるスキルを身につける
このような内容について書きましたが、今回は、音楽+アルファであるといいよといったお話です。
『音楽は”ビジネス”だ!』にも書きましたが、フリーランスというのは自分が社長であり、マネージャーであり、営業であり、広報でもあります。
人を雇う経済力のないかたは、当然これらをすべて自分でやらなくてはいけません。
演奏のスキル以外に、事務的なスキルが必要なのは改めて言うまでもありませんよね。
今後日本はどうなっていくか
以前の日本は、新卒で会社に就職し、定年まで働き続けるのが正しい生き方のような社会でした。
ですが現在では、絶対安泰だと思っていた一流の会社が倒産したり、海外の会社に買収されたりする時代で「終身雇用」などという言葉はすでに死語になりつつあります。
転職する人に対してや、副業へのイメージも随分良くなりましたよね。
何が言いたいかというと、
ひとつの事を極めて、それだけで生きていける時代は終わりかけている
という事です。
音楽家にとっても他人事ではなく、デジタルテクノロジーの進歩などにより、生演奏の需要は確実に狭まっています。
参考:音大卒の演奏家が仕事を得る方法①~音楽業界の現状
そんな中でどうやって生き残っていけば良いのでしょうか?僕はそのひとつの方法が、
何か別のスキルを掛け合わせる事
ではないかと考えています。
「音楽 × カメラ」という掛け合わせ
例を挙げると、現在ネクストステージ・プロジェクトに、三田千晶さんという「サックス奏者兼カメラマン」のスタッフがいます。
もともと一眼レフカメラが趣味で、友人のプロフィール写真や、コンサートの写真を撮ったりしていたようです。
彼女は自分自身がプロのサックス奏者なので、音楽家をどのように撮影したら見映えが良いかを熟知しています。
昨年僕は、何人かのプロのカメラマンとお仕事をさせていただきましたが、カメラそのものの技術は高くても、コンサートの写真が平面的だったり、奏者を(楽器の構えなどの)良い角度から撮れていなかったりという人が正直多かったんですよね。
彼女の写真のほうが音楽家に喜ばれるし、一般の人が見てもその良さを引き出せていると感じました。
テクノロジーの進歩は決してマイナスではなく、デジカメやスマホの進歩は、カメラマンのプロとアマの差をなくしてしまいました。つまり、
「音楽 × カメラ」という2つのスキルを掛け合わせれば、(特定の分野では)カメラしか出来ないプロにでも勝てる時代になったのです!
レアな人材になれ!
世の中で必要とされる人材は「便利な人」と「レアな人」です。
Vol.5にも書いたように、前者はコンビニエンスストア、後者は専門店のようなものですね。
当然ですが、高い報酬を得られるのは後者です。
仮に音大を卒業したクラシックのサックス奏者がプロになれる確率が1/100だとします。
その中でプロ並みの写真を撮れる人が100人に1人だったら、1/10000のレアな人になれます。
前述の三田さんは、ネクストステージ・プロジェクトで企画をしたジャズ&ポップスセミナーに参加した事でうちと関わり始め、いま、マネージメントも勉強しているのですが、1/10000の人がさらにマネージメントを勉強し、クラシック奏者が苦手なジャズなども勉強すれば、10万人に1人とか、100万人に1人のレアな人材になれるかもしれないですよね。
もちろん、ひとつの事を極めるというスタンスを否定するつもりはないですし、その能力がある人はやれば良いと思います。
ですが、あまりに演奏だけにとらわれ過ぎて、自分の可能性を狭めてしまっている人が多いのもまた事実です。
写真のような技術がなくても、誰でも音楽以外にもうひとつくらい好きな事、打ち込める事がありますよね。
文章を書くのが得意なら、ブログをたくさん書いて仕事に繋げる事も出来ます。
人と話すのが得意なら、音楽教室の先生に向いているかもわかりません。
演奏(練習)以外に時間を取られる事が苦にならなければ、気分転換にもなるうえに、自分の仕事の幅を広げられる可能性が高くなります。
また、違う世界で生きている人と接する機会が増えると、音大や音楽業界がいかに閉鎖的で、その中の狭い常識の範囲でどうにかなっているかに気付くでしょう。
ひとつにこだわり、狭い世界で生きるのか、いろいろな要素を掛け合わせて広い世界で生きるのか。
あなたの人生がどちらのほうが幸せかをイメージしてみてください!(正解はあなたの中にあります)
参考:このブログに『正解』は書いていません!
10. 音楽が好きである、信念がある
最後になりますが、大切なのはやはり、音楽が好きだという事だと思います。
一見当たり前のような話ですが、世の中は自分のやりたい事を仕事に出来ていない人のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。
そういう意味では、早くから自分の好きな事、打ち込める事に出会えたのは素晴らしいですよね。
ですが、仕事としてやっていく以上は、すべてが思い通りにいくわけではありません。
このシリーズで書いてきたいろいろな事に気を配りながら、常に向上心をもち、フリーランスで仕事を継続させるというのは並大抵ではなく、強力なメンタルも必要です。
そのメンタルを保つためには、ただ好きというレベルではなく、信念、情熱をもっている事が不可欠ではないかと僕は考えています。
「輝く7人の音楽家たち」のシリーズを読んでみてください。
特集『輝く7人の音楽家たち』(全7回):Vol.1 可能性が無限大の “ フリーランス ” という生き方 / 佐藤秀徳さん(トランペット)
彼らにはみな、「自分の音楽を人に伝え、感動させ、それで(音楽で人の役に立って)お金をもらって生活するんだ!」という信念、情熱、もっと言えば、覚悟、決意があります。
結局はそれがあるから頑張れるんです。
逆に言えば、これまで辞めていった人もたくさん見ていますが、その人たちはそこまで音楽が好きではなかったり(打ち込めなかったり)、好きでも趣味のほうが良いと思ったりで、何がなんでもやり通すという、信念をもつレベルまではいかなかった人ではないでしょうか。
いろいろなノウハウを書いてきましたが、
- 演奏だけじゃ食えないからカメラをやろう、レッスンもやろう
- クラシックだけじゃ食えないからジャズやポップスもやろう
このような考えかたはネガティブで、絶対に良くないです。本当に好きで、信念をもって仕事にしている先生やジャズミュージシャンに失礼ですよね。
好きでやっていないのは生徒さんやお客さんには必ずバレます。結局は必要とされる人材にはなりません。
食わず嫌いはもったいないので、まずはいろいろな事に挑戦したら良いと思いますが、好きになれない、信念をもち続けられないと思ったらやめ、打ち込めるものを探すと良いでしょう。
若いうちならいくらでも挑戦出来るし、やり直しもききますよね。
音楽以外の能力を身に付ける努力
さて、最後にもう一度、10の秘訣をおさらいしてみましょう。
- 謙虚さ、感謝がある、謝罪ができる
- 自己管理が出来ている
- 時間、期限を守っている
- 電話、メールなどできちんと連絡が取れる
- コミュニケーション能力がある
- 自分の価値が分かっている
- お金の価値が分かっている
- 自己投資が出来る
- 音楽以外の能力を持ち合わせている
- 音楽が好きである、信念がある
ここに書いた内容のほとんどが、音楽の才能は関係ない事にお気付きでしょうか?
ほぼすべて努力でどうにかなります。
言い換えれば、フリーランスで生き残るためには、それくらい音楽以外の能力を身に付ける必要があるし、才能より努力が大切だという事ですね。
オーケストラに入団出来ていたり、大手の楽器店講師などをやっていると安泰のように感じ、そんな人たちを羨ましく思うかもしれませんが、これからの社会では、それらがずっと続く保証はありません。
あくまで僕個人の感覚としては、フリーランスで、ここに書いたような能力が高い人のほうが有利な時代が来るのではないかと思っています。
仮に音楽家としては成功出来なくても、社会人として自立出来る可能性は確実に上がるでしょう。
10の秘訣のすべてをいきなり完璧に実践するのは難しいと思います。僕自身も20年のプロ生活、社会生活で少しずつ出来るようになってきた事だし、今でも完璧ではないと思います。
皆さんもぜひ、少しずつで構わないので、自分のものにしていってください。
必ず可能性が広がっていくと信じています!
次回記事:『A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道』 Vol.1 実家に住む? or 一人暮らしをする?
前回記事:Vol.7 音楽以外の能力を持ち合わせている/音楽が好きである、信念がある
ネクストステージ・プロジェクトでは、「演奏家としての成功」という狭い視野ではなく、一人ひとりの個性を尊重し、若い音楽家の自立の支援を行っています。
音大では学ばなかった事をたくさん経験し、可能性を広げたいというかたは、マネージャーやスタッフも募集していますので、積極的に関わってきてください。