音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive

A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道(全6回)

『アルバイトをする? or しない?』A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道 Vol.2

皆さんの多くは学生時代や卒業後にしばらくの間、アルバイトの経験をする事になりますよね?

海外旅行に行きたいからお金を貯めるとか、就職が決まるまでの間、繋ぎで働くというのはそんなに難しくないですが、フリーランスの音楽家の場合、音楽の仕事で自立するまでの当分の期間、アルバイトを並行する必要があるかもしれません。

どんな仕事を選択するかは意外に重要ではないでしょうか。

在学中からアルバイトをやるべきか?

まずは、そもそもやるか、やらないかの話です。

昨年音大に入学したAさんは、親御さんから学生時代のアルバイトを禁止されていました。

僕のように、絶対にアルバイトをするしかない状況にあった人間からすると、援助があり、練習に専念出来るのはうらやましい限りなんですが、たったこれだけの事にもメリット、デメリットがあると思います。

メリット デメリット
アルバイトをしない
  • 練習や勉強など、学業に専念出来る
  • 社会経験が少ないまま(年齢的に)大人になってしまう
  • 結果、自立が遅れる

こんな可能性がありますね(あくまで「可能性」です。絶対にこうなると断言しているわけではありません)。

学生時代にアルバイトをしないデメリットとは

メリットに関しては説明するまでもないので省略させていただき、デメリットのほうを解説していきます。

「社会経験が少ないまま大人になってしまう」とはどういう事でしょうか。

皆さんのほとんどは「音楽を職業にするために」音大に進学するんですよね。

専門性の高い仕事において、そのスキルが高いのは当然ですが、もう一つ大切な事は「社会性」であり、「どうやってお金を稼ぐか」や、「どうやって周囲とコミュニケーションを取るか」といったノウハウを学ぶ事です。

音大では楽器などの技術は教えてくれますが、社会勉強は社会に出て学ぶほうが効率的です。その最も簡単な方法がアルバイトではないでしょうか。

僕は高校生のころから写真屋さん、スーパーの早朝の品出し、コンビニ、飲食店などを経験しましたが、楽だなぁと思ったアルバイトは一つもありません。そこでの一番の学びは、

「たった1000円を稼ぐのがどれだけ大変なのか」

という事(2018年6月現在、東京都の最低賃金は時給958円ですが、僕が学生のころはもっと安くて、初めてやった仕事は時給680円でした)。

あえて音楽に関わるアルバイトはせず、「早くここから抜け出したい!」と思って仕事も練習も頑張りました。

でも、嫌々働いた事はなく、学びを楽しんでいたし(感謝していたし)、「自分の夢に向かって一歩一歩前進している」という希望や実感もありましたね。

稼いだお金でCDや楽譜を買ったり、ライブやコンサートにも通ったので、その価値は親に援助してもらうよりはるかに高いものだったと思っています。

何かのサービスを提供し、お客様からお金をいただくというのはどういう事なのか(どれだけありがたい事なのか)や、時給1000円の仕事というのは世間的にどの程度の地位にあり、どんな人がやっているのかなど、学んだ事はキリがありません。

「コミュニケーションスキル」も重要な要素です。先ほども書いたとおり、僕は音楽関係のアルバイトはしなかったので、主婦や司法浪人生など、いろいろな人と仕事をしました。雑談から学んだ事もたくさんあります。

上司に言われた仕事を的確にこなしたり、後から入って来た人に仕事を教えたりする能力も(当然年上の後輩が出来る事もあります)、学生ではなく、社会の一員としてやる事で「学びの質」が変わってきます。

ハングリー精神を強くもつ

前述のAさんの親御さんを否定するつもりはもちろんないのですが、僕個人の考えとしては、

「早く社会に出て金銭感覚や社会性を学んだ人のほうが、練習やスキルアップへのモチベーションが高く(ハングリー精神が強く)、将来的には成功している人が多い」

と思います。

親御さんは、「子どものために」と思ってやった事が、結果、自立を遅らせたり、妨げてしまう可能性がある事も知っておくべきだと感じますね。

アルバイトで学業に充てるべき時間が削られるというのは半分正解だと思いますが、それ以前に時間を無駄にしている学生さんはたくさんいます。

人は本当に時間がない状況のほうが、「自分の生活のどこかに無駄はないか、もっと効率良く時間を使う方法はないか」を考えるものです。

フリーランスの仕事は演奏以外にも想像以上にやる事が多いので、時間の使い方を考える能力はスキルアップのための必須条件ではないでしょうか。

法律的、年齢的な大人になっても、本質的に大人になっていなければ一人前の音楽家(社会人)になる事は出来ません。

自分が少々親御さんに甘えすぎだと感じる人は、週1回、数時間でも良いので、アルバイトをしてみる事をオススメします。

もちろん、それでもアルバイトはしないという選択肢もあると思いますが、その人は、ここに書いたようなリスクを知り、親御さんに感謝をし、ハングリー精神をもって学業に専念すると良いですね。

音楽関係のアルバイトは役に立つのか?

繰り返し書いていますが、僕はあえて音楽関係のアルバイトはしませんでした。その理由は、

「絶対楽器で食えるようになってやろう!」という欲求を高めるため

これが一番にあったと思います。それから、

音楽関係のアルバイトは、実はさほど音楽に関係がないし、時給が安くて、スケジュールの融通が利きにくい

という点です。

僕の周りにも、音楽スタジオ(リハーサルスタジオ)や教室の受付スタッフなどのアルバイトをしている人がけっこういますが、やっている事は普通の事務仕事とほとんど変わりません。

また、音楽業界は決して景気が良いとは言えないので、一般の職種と比べて時給が安かったり、人手不足で休めず、たまに入った楽器の仕事に影響が出たりするケースも考えられます。

そもそもスタッフ(裏方)志望で働いている人はそれで良いと思いますが、音楽家を目指して働いている人が集まっても、あまり良い事はありません。

この業界では30歳になっても自立出来ない人がたくさんいるので、周りがそういう人たちばっかりになっている場合もあります。その環境では、「30歳になっても食えていないのは仕方がない、あの人もあの人もそうだ、だから自分もまだ大丈夫」というようなネガティブな空気が蔓延しています。

さらに雇用する側も、「好きな業界で働いているんだから、時給が安いのやスケジュールの融通が利かないのは我慢しなさい」とか、「お前が音楽家として食えていないからうちで雇ってあげているんだよ」というような事を、実際には口に出して言わないまでも、そういう意識でいるところが少なからずあると感じます。

お互いに低め合っているという事ですよね。

「類は友を呼ぶ」や「朱に交われば赤くなる」ということわざがありますが、本当にそうなります。こういう人たちとは関わらないのが一番です。

仮に音楽関係のアルバイトをするにしても、経験として短期間やってみるか、意識の高い人ばかりが集まっている環境を選ぶ事ですね。

ただ僕は、「このアルバイトを経験した人は、かなり高い確率でプロとして成功している」というような音楽関係のアルバイトを一度も見た事がありませんが……。

アルバイトを選択するポイントは?

では実際に、どんな事に気をつけて選択すると良いのでしょうか。

①スケジュールの融通が利くか
②時給がいくらか
③どれだけ学びがあるか
④必要以上に体力、精神力を使わないか

こんなところではないかと思います。まず大前提として、

この4つがすべて完璧に揃っているアルバイトはありません。
これを実現出来ている人は「社会的に地位の高い人」です。

前回書いた「メリットとデメリットを書き出す」、「デメリットを補う方法を考える」を実践し、なるべく自分自身の目的達成の手段として適しているものを選択しましょう。

アルバイトで音楽の仕事を断るのは本末転倒

今度は友人の若手フリーランスB君の話です。

僕のところにポップス(歌モノ)の作曲家さんからブラスアレンジとレコーディングの依頼があったのですが、納期が5日程度しかない急な案件でした。

依頼された翌日しか僕のスケジュールが空いていなくて、いつもお願いしている経験値が豊富な奏者たちがなかなかつかまらず、「じゃあ今回はこのB君に経験の機会を作ろう」と思って声をかけたのですが、アルバイトを理由に断ってしまいました。

B君が何の仕事をしていたかは忘れましたが、時給は1300円くらいで、比較的高額なアルバイトだったと思います。この彼は②を優先し、①を犠牲にしていますよね。

音楽の仕事を断ったら本末転倒です。そして実は、

1本の仕事を断るという事は、その1本分の報酬よりもはるかに高い損をしている事に気付く必要があります。

もしもB君がこの仕事を受けて結果を出せば、「ギリギリでもスケジュールの融通が利いて頼みやすいし、プレイも良かったのでまた呼ぼう」となりますが、やる前に、しかもアルバイトで断っていては当然、次はないですよね。

こういうタイプはほかの人に対しても同じ事をやっているので、自分を気にかけてくれている先輩の期待に応えられず、チャンスを得る機会のないまま自滅していきます。

自立したら数百万稼げるようになるかもしれない、その第一歩なのに、それを無駄にしているという事に気付かなくてはいけません。

これも、前回シリーズで書いた「投資」の考え方の一部です。

「目先の時給1300円で大事なチャンスを犠牲にするのか」

or

「時給は東京都の最低賃金958円だけど、融通が利いて絶対チャンスを逃さないのか」

どちらの選択が将来への投資として正しいのか、よく考えてみてください。

先ほど書いた「お前を働かせてやっているんだ」タイプのブラックな企業、経営者と仕事をしても、社2会の厳しさは多少学べるかもしれませんが、それ以上の学びはありません。

こんな人たちと働くのは無駄に精神、体力をすり減らすだけで、適切な努力ではないので、さっさと縁を切ってしまいましょう。

さらに前回シリーズでは、健康管理の大切さにも触れたと思います。

たとえば、夜勤の仕事は時給が高いというのは世の常ですが、それで体調を崩してしまっては元も子もありません。

若いうちは多少無理も出来るかもわかりませんが、体調が不安定で練習のクオリティーが下がったり、せっかく舞い込んできた仕事で結果を出せなかったりしては意味がないので、無理だと思ったら夜勤は避けるべきです。

自分を高めてくれる人たちと関わろう!

じゃあ結局、どんな仕事をすれば良いんだ?と感じるかもしれませんが、それくらいアルバイトの選択は難しく、一長一短であり、それが人生を左右するという事です。

僕の経験から言えるのは、

「早く音楽で自立しよう、結果的にそれが一番簡単」

だという事。

きちんと自立出来るようになれば(自分の能力を最大限生かして仕事をすれば)、①~④の要素をすべてもった仕事が出来る可能性が高く、僕の周りにも、それを実現出来ている人はたくさんいます。

そのためにも、たとえアルバイトでも、自分を低め合う環境ではなく、高めてくれる人たちと関わるようにしましょう!

次回記事:Vol.3 大手ハンバーガーチェーン店で食事する? or ちょっと高級なお店?
前回記事:Vol.1 実家に住むか? or 一人暮らしをする?

マネージャー募集中!

ネクストステージ・プロジェクトでは、「演奏家としての成功」という狭い視野ではなく、一人ひとりの個性を尊重し、若い音楽家の自立の支援を行っています。

音大では学ばない(学ばなかった)事をたくさん経験し、可能性を広げたいという方は、マネージャーやスタッフも募集していますので、積極的に関わってきてください。

※勤務時間については、フリーランスの音楽活動と両立出来るよう、きわめて柔軟な勤務形態を採っています(都度ご相談ください)。

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記事を書いた人

藤井裕樹
藤井裕樹(フジイヒロキ)

NPO法人ネクストステージ・プランニング音楽ディレクター。中学でトロンボーンを始め、大学には行かず19歳でプロになる。ジャズやポピュラー音楽を中心に、某人気テーマパークでの演奏や、有名ミュージシャンとの共演多数。詳しくは「ネクストステージ」へ羽ばたく若い音楽家の皆さんへ

HP: https://mtfujimusic.com/

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