音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive

A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道(全6回)

『留学する? or 日本にとどまる?』A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道 Vol.4

音楽大学でクラシックやジャズなど、いわゆる西洋の音楽を学んでいたら、誰もが一度はこのテーマ(欧米への留学)について考えた事があるのではないでしょうか。

サッカーのワールドカップをご覧になった方も多いと思いますが、世界のレベルに触れ、より高いレベルにあこがれたり、目指したいという感情が生まれてくるのは、ごく自然と言えるかもわかりませんね。

僕自身は高校を卒業した後、大学に進学せずにプロとなり、ジャズやテーマパークの仕事などを経験させていただきました。

幸運な事に、高校のころからアメリカのトッププレイヤーとご縁があったので、やはり本場で勉強したいという想いは強く、いったんプロ活動を休止し、エンターテインメントの聖地とも言えるラスベガスの学校に留学する選択をしました。

1年ちょっとアメリカで過ごし、今はまたこうして日本で活動していますが、留学にもいろいろとメリットと(あえて言えば)デメリットがあったなと感じます。

留学するメリット 留学するデメリット
  • 音楽のスキルアップが出来る
  • 言語の習得が出来る
  • その国の文化や価値観を学べる
  • お金がかかる
  • 日本での人脈が途切れる
  • 日本との価値観に差を感じてしまう

こんな「可能性」が考えられますね(必ずこうなるという話ではありません)。

留学のメリット

音楽のスキルアップが出来る

日本にも素晴らしい学校があり、先生もいらっしゃる事を前提にしたうえでの話ですが、やはり海外を経験するというのは「学び」が多いと思います。

実際、日本の素晴らしい先生たちも、海外留学の経験をされた方は多いと思います。

先ほどもサッカーの例を書きましたが、ご存じのとおり、日本にはJリーグという素晴らしいプロリーグがあります。日本代表に選ばれるような優秀な選手たちは、より高いレベルを求め、海外のリーグに拠点を移していますよね。

その中でさらに揉まれる事で、ワールドカップのような大舞台でも輝きを放つ選手が出てきています。また、そこでの悔しい想いを胸に世界のリーグに戻り、さらに自分自身や日本のサッカーのレベルを向上させていきます。

こうやって貪欲にスキルアップを図るというのは決して楽ではないと思いますが、やった人にしかわからない人生の充実感があるのもまた事実ではないでしょうか。

言語の習得が出来る

当然ですが、留学をするという事は、英語のような世界の公用語と言える言語か、その国の母国語で勉強する事になります。

残念ながら、日本語のみで海外留学が出来るほど、我が国の言語は世界で通用しません(先進国と思っていても、アジアの小さな島国なんだという事を実感します)。

もちろん、もう一つ新たな言語を習得するというのは、音楽のスキルを得る事以上に大変で、これが大きなハードルになる人も少なくないですが(僕自身もそうでした)、帰国した際にちょっとした通訳を頼まれたり、ネットで欧米の最先端の情報にアクセスしやすくなったりと、可能性は大きく広がるのではないかと思います。
さらに音楽の場合、それそのものが言語と密接な関係があります。

僕はジャズを勉強していましたが、ジャズそのものが英語です。ジャズらしい発音で演奏をしようと思った場合、ネイティブのような英語の発音が出来たほうが良いと僕は考えています。

(興味のある人は、僕のホームページに細かく書いてあるので、読んでみてください)

https://mtfujimusic.com/2634/
https://mtfujimusic.com/2651/
https://mtfujimusic.com/2667/

声楽やボーカルをやる人は、ドイツ語やイタリア語、英語が正しく発音出来る事や、歌詞の意味を理解出来ている事は必要不可欠ですよね。日本にいるだけでは絶対に出来ないとは断言しませんが、留学など、海外経験があるほうがアドバンテージは大きいと言えるのではないしょうか。

その国の文化や価値観を学べる

僕はこれが一番大事なんじゃないかと考えています。

ここまでに書いてきたように、技術や言語は今の時代、日本にいてもかなり高い水準で学べると思うんですよね。
ただ、文化や価値観は、やはり「肌で感じる」必要があると考えています。

ニューヨークやロサンゼルスの街を歩いていると、本当にたくさんの国の人に出会います。
日本ではほぼ定刻どおりに走っている鉄道ですが、海外では平気で2時間くらい遅れてくる場所もあったし、それが当たり前なのか、誰もクレームをつける人はいません(おおらかな時間の流れを感じました)。

日本にはたくさんのお寺や神社がありますが、それほど信心深い人は多くありませんよね。海外に行くと、自分が信じている宗教を本当に深く信じている、愛している姿を目の当たりにする事もあります。

歴史上、白人と黒人の差別はなくなった事になっていますが、本当かな?と感じた事もあります。

音楽は決して特別なものではなく、このような社会的、文化的な背景のもとに発展し、根付いていると思うんですよね。

これらはやはり、YouTubeやインターネットニュースで学ぶのには限界があります。

「肌で感じた経験」がその人の音になり、より人間らしい、深い音楽を奏でられるようになるのではないでしょうか。

留学のデメリット

(僕にとってはすべてが良い経験で、正直デメリットだとは考えていないのですが、便宜上、こう書かせていただきます)

お金がかかる

やはりこの点は一番大きくのしかかる問題ではないかと思います。

たとえば日本で私立の音大に通わせてもらったとして、それ以上の高い学費を出すのはちょっと無理というのもよくあるケースです。

僕自身の経験で言うと、アメリカ留学はけっこうなお金がかかります。

うちは親からの援助がほぼありませんでしたが、テーマパークのレギュラーの仕事の際に貯めたお金と、返納しなくて良い奨学金のおかげで、1年ちょっとのアメリカ滞在と通学が出来ました。

とは言え、生活費などは自腹なので、卒業の夢はとうていかないませんでした。

お金の問題はとてもリアルなので、各自で情報収集し、よく考えてください(奨学金は国によっても違うし、アメリカの場合だと、州立大は州によっても制度が違うと思うので、よく調べたほうが良いです)。

日本での人脈が途切れる

日本でフリーランスとしてやっていくためには、いかに単発の仕事を多くこなし、いろいろな経験を積み重ねていくかが重要になります。

音楽に限った話ではありませんが、いわゆる「売れている人は良い人脈をもっている」と言っても過言ではないのではないでしょうか。

このブログの読者は、音大生、音大卒の方が多いと思いますが、同じ学校の先輩から仕事がくるというのはよくある話ですよね。頼みやすいという意味ではごく自然な事だと思います。

(僕自身は高卒で音大に進学しなかったので、先輩から仕事くるという経験はなく、それなりに苦労しました。ただ、その分、人脈作りのために動いたので、結果的には学校の枠などにとらわれない、幅広い人脈をもっていると思います)

高卒でそのまま海外留学をした人は、日本に帰ってからの人脈が狭く、すでに仕事が回っている各大学ごとや国内のコミュニティに入れなくて、比較的苦労をしている人が多いという印象があります。

大学を卒業してから留学した人も、一定期間日本を離れる事になります。その間に日本で地道に経験を積み重ね、信頼を得ていった同期や後輩たちのほうが、結果的にはうまく仕事を取れているケースはよくありますね。

僕の場合、19歳から日本でプロ活動をし、ある程度人脈があったうえで留学しましたが、たった1年ちょっとで帰国しても「自分のそばにあった仕事が離れた」というリアルな感覚がありました。

クラシックの音楽家で言うところの、「国際コンクール優勝」のような実績を作り、「逆輸入」のような形になれれば良いですが(ソリストで呼ばれるレベルになったり、オーケストラに入団出来れば良いですが)、そうでない人はそれなりに大変かもわかりません。

もちろん留学経験者でも、うまく人脈に乗って仕事をしている人もたくさんいるので、結局はその人しだいですが。

日本との価値観に差を感じてしまう

メリットに書いた「その国の文化や価値観を学べる」事は何より大切で、人生を有意義にするものだと思います。

ただ、あまりに海外の文化や価値観に慣れすぎてしまうと、日本でやっていくための常識、ルールとかけ離れてしまう場合があります。

たとえばタイムマネージメント。
前述した海外の鉄道のように、遅れるのが当たり前という価値観になってしまい、それを日本の音楽業界に当てはめ、入り時間などに遅刻していると、当然日本では通用しません。
先輩後輩関係でも、海外は日本ほど強い年功序列感はないし、自分の意見を主張しても「出る杭は打たれる」感はないのですが、日本には(良くも悪くも)その感覚はあるのではないかと実感します。

良い方向に転べば、海外の大らかな価値観を身に付け、うまくやっていけるのですが、悪い方向に転ぶと、日本の狭い価値観に対応出来ず、自覚症状がないままに周囲とうまく合わせられないという人も見かけます。

実際、海外経験を経て、「私は日本よりこちらが向いている」と気付き、そのまま滞在し続ける人も多いです。選択肢が広がって良いと思うのですが、それくらいカルチャーショックがあり、人生観が変わる可能性があるのを知っておいても良いかもわかりせんね。

僕個人の感覚としては、留学に使ったお金も、一度途切れた人脈も、新たに学んだ文化、価値観の違いも、すべてが「学び」で、デメリットだと感じた事は一度もありません。

つまり、留学した事にはなんのデメリットもないのですが、人によってその感じ方はさまざまではないかと思います。

インターネットで世界が狭くなったのは事実かもわかりませんが、自分の目で見て肌で感じないと体験出来ない世界があるのもまた事実かと思います。

このブログの内容も、あくまで僕が体験した海外で、皆さんはインターネットを通じて得ている情報です。あなたが留学した場合、全然違う体験になるでしょう。

もちろん、日本で地に足をつけて頑張るのも素晴らしい事です。どちらを選ぶかはあなたしだいです。個人的には、チャンスがあるなら、ぜひ海外での経験もしたほうが良いと思ってはいますけどね。

一度しっかりと向き合ってみる事をオススメします!

次回記事:Vol.5 仕事を選ぶ? or 選ばない?
前回記事:Vol.3 大手ハンバーガーチェーン店で食事する? or ちょっと高級なお店?

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記事を書いた人

藤井裕樹
藤井裕樹(フジイヒロキ)

NPO法人ネクストステージ・プランニング音楽ディレクター。中学でトロンボーンを始め、大学には行かず19歳でプロになる。ジャズやポピュラー音楽を中心に、某人気テーマパークでの演奏や、有名ミュージシャンとの共演多数。詳しくは「ネクストステージ」へ羽ばたく若い音楽家の皆さんへ

HP: https://mtfujimusic.com/

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