音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive

A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道(全6回)

『仕事を選ぶ? or 選ばない?』A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道 Vol.5

毎月定額の給料をもらえる一般企業などと違い、フリーランスは自分自身で受ける仕事をコントロールする事が出来ます。音楽家に限らず、この世界はうまくやればサラリーマン、OLよりも実績、成果は伸びますし、失敗すると真逆になります。

「ああ、卒業してさっさと就職しておけば良かった」と後悔しないためには、どんな事を考えておけば良いのでしょうか?

まずは、仕事を選ぶか選ばないかによって、どのようなメリット、デメリットがあるかを比較してみましょう。

  メリット デメリット
仕事を選ぶ
  • 一極集中で成果をあげやすい
  • ブレない印象をもたれる
  • 集中した部分で成果が出ないと終わってしまう(失敗のリスクが高い)
  • 多角的な経験値が不足する
仕事を選ばない
  • 仕事の数、選択肢が増える
  • さまざまな経験をやりたい事に反映出来る
  • 二兎を追うものは一兎をも得ずになる
  • こだわりや信念がない音楽家のように見えてしまう

こんな可能性がありますね(必ずこうなるというわけではありません)。

そもそも音楽という仕事は何なのか?

音楽の仕事(ビジネス)にはどんな側面があるでしょうか?

①娯楽(エンターテインメント)
②教育(エデュケーション)
③芸術(アート)

僕は大きく分けてこの3つだと思います。わかりやすく、ざっくりと例を挙げると、

①の娯楽は、ディズニーランドのパフォーマーや、Jポップのサポートミュージシャンなどでしょうか。
②の教育は、音楽教室の先生や、学校の音楽の先生ですね。
③の芸術は、ジャズやクラシックの奏者、自分で作曲して世の中に評価してもらおうと思っている人などかもしれません。

もちろん、必ずどれか一つに分類されるわけではなく、複数の要素が混在しているものもあります。オーケストラで学校の芸術鑑賞教室などをやったりしますが、これは②と③の両方を兼ねていますよね。内容によっては①のエンターテインメント性も備わっているかもわかりません。

まず大切なのは、自分がやりたい事は何なのか、何でお金を稼いでいこうとしているのか(①~③のどれなのか)を、より明確にしておく事ではないかと思います。

一つに絞るのはリスクが高い

①~③の中で、ビジネスとして一番難しいのはどれでしょう?

僕は③の芸術ではないかと思います。ピカソのような絵が評価されるか、子どもの落書きだとけなされるかは紙一重ですよね。画家にしても、作曲家にしても、死後にようやく評価された人も多いですし、されれば良いほうで、死んでも日の目を見ずに終わる事も珍しくありません。

もしもあなたにとんでもない才能があり、生活の支援をしてくれる方(パトロン)などがいれば、

「一極集中で成果をあげやすい」

これが起きる可能性はあります。才能をかき消すような仕事をせずに、一つに絞ったほうが成功するかもしれません。
「あの人はブレないね、凄いね」くらい思われなければ、パトロンやファンは付きませんよね。

ただ、残念ながら多くの人は凡人です(僕も自分の事をそう思っています)。

参考:「ネクストステージ」へ羽ばたく若い音楽家の皆さんへ

ジャズやクラシックを音大でしっかり勉強した若手を見ると、どうも「芸術家としてのプライド」が高く、それ以外(の選択や価値観)を受け入れないという感覚をもっている人が多いように感じてしまいます。

それでも一つに絞り、「これで食えなくても本望」と思えるくらい打ち込めるなら、もちろんその生き方を否定するつもりはありませんが、ハイリスクハイリターンな人生の選択である事は覚悟のうえでやったほうが良いですね。

若いうちは何より「経験」が大切

意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、僕自身もただの職業音楽家ではなく、芸術家でありたいと今も昔も思っています。

でも、一極集中という選択はしてきませんでした。
なぜなら、いろいろな経験をする事は、将来芸術家になるために決して無駄ではないからです。

僕は中学校の吹奏楽部でトロンボーンを始め、最初は「クラシックのソリストになりたい」とか、「オケに入りたい」と本気で思っていました。かなり芸術家寄りの発想だったと思います。

高校のころからジャズを聴き始め、ハリウッドの映画音楽などのスタジオミュージシャンにあこがれて、ジャズやポップスの勉強を始めたので、このころから①の娯楽(エンターテインメント)への興味もわいてきました。

中学校の吹奏楽部の先生、トロンボーンのレッスンをしてくださった先生、留学先でお世話になった先生たちのおかげで今があるので、②の教育(エデュケーション)の大切さも実感しました。

僕が経験から得たもの

僕は20代で、ディズニーランドやシーのパフォーマーを経験させていただきましたが、まさに世界トップレベルのエンターテインメントの現場です。

前述のとおり、高校から既にハリウッドのスタジオミュージシャンにあこがれていたんですが、このころはまだ「ジャズトロンボーン奏者」という芸術家寄りの意識はかなり高かったように思います。

「オレのトロンボーン、即興演奏を聴け!」ではなく、「一般のお客様に楽しんでいただくためにはどうしたら良いか」を学んだ一番大きな経験が、ディズニーのパフォーマーだと思っています(演奏技術以外の大切な要素をたくさん学びました)。
また、30代前半では、矢沢永吉さんのような大物アーティストともたくさん共演させていただきました。
彼のパフォーマンスもまたエンターテインメントそのものだし、唯一無二のアーティストです。「僕はジャズトロンボーン奏者を目指しているんだから、地道にライブだけをやっていれば良い」と考えていたら、決してご一緒する事はなかったはずです。
矢沢永吉さんのほか、大物アーティストたちから学んだ事は計り知れません。

中学校、高校、留学先でお世話になった先生方にもとても恵まれていたので、自分も後進のために何かしたいと感じました。
ヤマハ音楽教室の講師なども経験しましたが、人を教えるという事は、自分の楽器の技術にも役立つし、人生、音楽の役にも立ちます。

参考:『音大卒の演奏家が仕事を得る方法』Vol.7 レッスンの仕事に誇りをもとう!

2016年にリリースしたCDは、あえて自主制作で、誰にも干渉されずに、自分のオリジナル曲のみを収録しました。
僕のような凡人が「芸術家」として自分なりに表現が出来たのは、35歳を過ぎてやっとの出来事です。

https://mtfujimusic.com/cd/

まだ通過点にすぎないですが、これまでの経験が大きく反映されていると思います。
一極集中ではなく、いろいろな事をやってきて良かったと思っています。

「ジャズトロンボーンしかやらない」というスタンスでは絶対にこのような音楽にはなっていないし、経済的にもある程度成功出来たので、自主制作という形で100万円近い金額を投資出来ています。

僕自身は、このような経験をしたうえで、矢沢永吉さんのような大物にはなれなくても、将来多少なりとも人の心を動かせるようなアーティストになれれば良いなと思い、今も勉強を続けています。

その年代でしか経験出来ない事をしよう

以前、とある業界の先輩に言われた事があるのですが、

20代はガムシャラに何でもやれ!
30代で方向性を考えろ!
40代で結果を出せ!

これは割と(僕の中では)正解と言うか、このような生き方をしている気がしますね。

日本はやはり年功序列の感覚が強い社会だと言えますし、そうでなくてもある程度は「年相応」というのはあると思います。

「人生いつでもやり直しがきく」とか、「いくつになっても気持ちがあれば何でも出来る」と無責任な事を言う人もいますが、たとえば女性があまりに高齢で出産するのはリスクが高いし、僕は来年40歳ですが、今からサッカーの日本代表選手を目指すのは100%不可能です。

音楽でも40代や50代の新人は、使う側からしても難しい現場もあると思います。

アスリートに比べれば寿命は長いですが、それでもその年代でしか経験出来ない事も多いと思うので、やはり「人生設計」や「計画性」は大切だと感じますね。

その意味でも先ほども書いたように、「自分が何をやりたいのか、どうなりたいのかを明確にする」のはとても大切です。

ガムシャラにと言っても、それは「イエスマンになって何でもやれば良い」という話ではありません。「自分の目的実現のために必要だと感じたら、ガムシャラに食らいついていきましょう」という意味です。

信念をもっていれば、ブレる事はなく、(一時的な失敗も含め)やる事すべてがプラスの経験となり、あなたの音楽や人生そのものになっていくのではないでしょうか。

報酬 = お金ではない

皆さんはこの業界にいると(芸能界もですが)、「ギャラ」という言葉を聞いた事がありますよね?

ギャラ=ギャランティー(guarantee)なんですが、日本語訳が「お金」とか「謝礼」だと思っている人はいませんか?

おそらくこれは和製英語(日本だけの解釈)で、本来の意味は「保証」です。アメリカでは謝礼の意味では使われません。僕の経験で、謝礼はフィー(fee)だったと思います。

日本では「ギャラ=お金・謝礼」という感覚があるように思いますが、確定申告などをする際の区分では「報酬」という言葉を使います。

僕はこちらの「報酬」という言葉のほうがしっくりくるんですよね。

なぜなら、「報酬というのは時に金額に比例しない価値をもつ」からです。

先ほどディズニーランドや矢沢永吉さん、ヤマハ音楽教室の例を書きましたが、報酬が高いのはこれらの仕事だけではありません。

僕はフィリピンの貧困の子どもたちに楽器を届けて音楽を教えるボランティアや、東日本大震災の復興支援活動も行ってきました。これらは1円ももらっていませんし、むしろお金を払っていますが、いわゆるビジネスでは得られない報酬があったと考えています。

実際フィリピンに行くため、後から入った大物アーティストのツアーの仕事を断りましたが、人生をトータルで考えた際に、損はしていないと思っているので、今でも何の後悔もありません。

最近は「ブラック企業」や「働き方改革」などという言葉もあり、労働環境や最低賃金もずいぶん向上しています。この事自体はとても良い事だと思いますが、音楽家を含むフリーランスは、実力や実績が伴って初めて評価されるという事を忘れてはいけません。

若いうちは「経験という報酬」をたくさん得て、演奏の技術だけでなく、社会的にも人間的にも評価され、必要とされてこそお金という対価を得られます。

最近の若い世代は、僕らが20代のころより良くも悪くもお金にシビアな気もしますが、目先の金額しか視野に入っていないのはとても危険な事です。

社会情勢とは反比例し、音楽業界は昔の相場より安くなっている現場も多いわけで、先輩たちのころに当たり前だった金額をもらえるとは限りません。先輩たちからや、音大で教わらないもっと広い視野で社会を見ないとフリーランスの音楽家として生きていくのはとても難しい時代になってきています。

フリーランスそのものも、サラリーマン、OLと比べるとハイリスクハイリターンな選択である事をもう少し自覚しておいても良いのかもしれませんね。

あなたはどうやって仕事を選び(もしくは選ばずに?)、あなたの人生を歩んでいきますか?

次回記事:Vol.6 あきらめない勇気 or あきらめる勇気
前回記事: Vol.4 留学する? or 日本にとどまる?

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記事を書いた人

藤井裕樹
藤井裕樹(フジイヒロキ)

NPO法人ネクストステージ・プランニング音楽ディレクター。中学でトロンボーンを始め、大学には行かず19歳でプロになる。ジャズやポピュラー音楽を中心に、某人気テーマパークでの演奏や、有名ミュージシャンとの共演多数。詳しくは「ネクストステージ」へ羽ばたく若い音楽家の皆さんへ

HP: https://mtfujimusic.com/

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