音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
『あきらめない勇気 or あきらめる勇気』A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道 Vol.6
今回でこのシリーズの最終回となります。
タイトル的にはちょっと重めのテーマと言えるでしょうか……。
「音楽家のサバイバル術」を通してお伝えしていますが、音楽の収入のみで生計を立てられるのは、その道を志した人のほんの数パーセントです。
音楽大学の卒業間近になった人や、卒業後もしばらく頑張ってみた人も、現実はなかなか思うようにいかず、「このまま楽器を続けようか、就職しようか」など、迷っている人はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな方たちにはぜひ読んでいただきたい内容です。何かのヒントになるかもしれません。
あなたは本当に音楽が好きですか? 信念・情熱をもっていますか?
以前の『輝く7人の音楽家たち』のシリーズで、サックスの福井さんは「好きならどんな苦労も乗り越えられる!」という話をしてくれました。
参考:Vol.7 「好きこそものの上手なれ」好きならどんな苦労も乗り越えられる! / 福井健太さん(サックス)
同じくドラムの黒田さんは、「やりぬく信念と情熱」について語ってくれました。
参考:Vol.5 音楽家として自立するには「信念・情熱・感謝」が大切! / 黒田慎一郎さん(ドラム)
僕自身も19歳からプロ活動を始め、今年で20年、何とか音楽のみでやってきましたが、彼らの語ってくれた事の大切さは強く感じています。
当然ですが、仕事としてやるのは、演奏などの対価としてお金をもらう行為であり、常に楽しい事ばかりではありません。もしかしたら日々の練習も時には苦痛になるし、本番へのプレッシャーもアマチュアとは比べ物にならないし、サラリーマンと同じように、人間関係なども含め、苦労は絶えないと思います。
そんな状況で続けていくためには、このブログでお伝えしてきているノウハウだけでなく、「強力なメンタル」も必要なのではないでしょうか。
では、そのメンタルはどこからくるのか?
その要因の一部が「音楽が好きだという事」「信念や情熱がある事」だと思いますが、今回はもう少しそれを掘り下げてみますね。
あなたは音楽に「ハマって」いますか?
音楽が好き、信念や情熱があるという言葉をもっとざっくり言うと、「ハマってる」状態なんだと思います。つまり、どっぷりハマった人がプロとして音楽を続けていると言えるかもしれません。
「ハマる」という状態までいくためには、それなりの「動機」が存在します。
高校生のバンドをやっている男子なんかはわかりやすいのですが、たいてい「女子にモテたい」という浅はか動機があります(笑)。個人差はあると思いますが、若いころ、最初にハマったきっかけというのはこんなもんだと思うんですよね。
そこから音大やプロを目指すようになる人は、演奏を通じて味わった充実感などが忘れられず、どっぷりとハマり、「今度は自分が伝える側になりたい」と感じるようになるのではないでしょうか。
ハマるとやめられない、いい意味での麻薬のようなものですよね。
これから続けていこうか迷っている人は、最初に音楽にハマったきっかけが何だったのかと、そこから音大やプロを目指すようになった動機を思い出してみると良いと思います。
あなたはその時の純粋な感情、情熱を維持出来ていますか?
人生の目的とは?
とは言え、ハマっているだけならアマチュアでもたくさんいますよね。
アイドル、ゲーム、アニメなどにハマっている人は、ほとんどが趣味でお金を使う側の人間です(もらう側ではありません)。
先ほども書いたように、仕事としてやっていると、いろいろな苦労、ストレスがあります。若いころの純粋な気持ちだけでやっている人はほとんどいないと言っても過言ではないと思います。
そこで必要になるのが「信念」のような強いもの。最近僕は、
『信念=人生の目的』
ではないかと感じるようになりました。
この件に限らないのですが、僕はほとんどの行動を「目的」と「手段」で考えています。
「高校で同級生の女の子にモテたい」→目的
「ギターをやろう!」→手段
「大勢の仲間と何かを成し遂げたい、自分たちが創りあげる何かで感動を分かち合いたい」→目的
「音楽家になろう、オーケストラに入ろう!」→手段
こんな感じですね。何が言いたいかと言うと、
「音楽をやろう」という以前に、あなたの中には何か人生で成し遂げたい「目的」があるんじゃないですか?って事です。
つまり、
楽器の演奏なども「手段」でしかないと思うんです。
僕自身の「目的」と「手段」は?
僕自身は中学校の吹奏楽部でトロンボーンを始め、そこで出会った人たちとの居心地が良かった事や、素晴らしいパフォーマンスが出来た時の成功体験などがあり、プロになりたいと思った気がします。最初はただ単に「好きなトロンボーンで飯が食えるようになりたい」くらいしか考えずにやっていました。
実際20代のころはそれでうまくいってたんですが、海外留学を経験したり、帰国してたくさんの大物アーティストと共演させていただいたり、東日本大震災や発展途上国のボランティアなどを通じて、根本的な「目的」が若いころから変化している事に気付きました。
この年齢になると「トロンボーンが好き」くらいの気持ちではとうてい一生やっていけるものではないと感じています。これから先もずっと続けていく事を考えると、それはもはや「人生の目的とは?」というレベルなのではないかと。
僕にとっての「人生の目的」は、オーバーかもしれませんが
「自分に関わる人たちを、自分の能力(音楽)を使って一人でも多く幸せにする事」
です。
その「人生の目的」を実現させるための「手段」は、現在ではトロンボーンの演奏もその一つにすぎません。レッスンも作編曲も、プロデュースも、こうしてネクストステージ・プロジェクトで行っているディレクター業務も、このブログの執筆も、僕にとっては「手段」でしかないんです。
そう考えると、「トロンボーンの演奏だけで何がなんでも成功しなければいけない」というようなプレッシャーはなくなり、世界が広がったように感じています。
あきらめない勇気
ここまで書いてきた内容をあなた自身に置き換えてみた時に、「どう考えても自分にとっての手段は音楽を職業にするしかない!」と感じるのであれば、本気でそれを貫いてください。
「あなたなんか絶対音楽では稼げないよ!」などと親御さんに反対されても、もしもそれだけの強い信念と情熱があるなら、ちょっと反対されたくらいであきらめてほしくはないですね。
もちろん親御さんだけではありません。仕事にしていくためには厳しい評価を受ける事もあります。先生に叱られる、入試で不合格になるなどもそうですよね。
ネクストステージ・プロジェクトでは、若い音楽家に演奏の機会を作るために登録アーティストの募集を行い、合格者にはお仕事の紹介もしています。
参考:音楽家募集・登録
動画による審査を行い、僕がコメントを書いて返送していますが、不合格になると二度と送ってこなかったり、合格してもAランクではなく、「ここをもう少しこうしたほうがいいよ」とアドバイスしても、アップデートしてくるアーティストはほとんどいません。
参考:フリーランスで成功するための『10の秘訣』Vol.1 謙虚さ、感謝がある、謝罪が出来る
ここに書いたような「向上心」を感じないんですよね。
なぜそんな簡単にあきらめてしまうのでしょうか(もっと貪欲に仕事を取りにこないのでしょうか)。
一般大学で就活をやっていたら、(特に景気の悪い時期は)100社受けてようやく1社から内定がもらえたなんて話もざらにあります。
厳しい意見だとは思いますが、フリーランスで一つひとつの仕事を積み上げて自立するのは就職するよりもはるかに大変なのに、若い音大生、音楽家の意識が一般の就活生と比べて低すぎる人が多いと感じています。
やはりそこに「信念と情熱」が足りないのではないでしょうか。それらがあれば、もっと「あきらめない勇気」がもてるはずです!
あきらめる勇気
これは決してネガティブな意味ではないのですが、信念と情熱をもって職業に出来ないのなら、プロでやっていく事や、専業であり続ける事にそこまでこだわる必要はないんじゃないかと思っています。
音楽自体が「目的」ではない、「手段」だという事に気付けば、もっと柔軟な生き方があるのではないでしょうか。
たとえば、「小さいころからピアノをやっていて、そこそこ上手で、何となく親にその気にさせられて音大に入ってしまった」とか、「学生時代、吹奏楽部での活動しか頑張らず、全然勉強しなかったので音大に進んだ」というような人は、たまたま才能があれば別ですが、どこかで必ず大きな壁にぶち当たりますよね。
親や先生に敷いてもらったレールを歩いているような「消去法」の人生設計の人や、「人よりちょっと楽器が好きです」くらいの人が成功するほど、この業界は甘くありません。
このような状況でやってきた人の話を聞くと、
・親御さんに高い学費を払ってもらったので、申し訳なくてあきらめられない
・小さいころから地元でお世話になっていた先生や、期待してくださった親御さんに申し訳なくて辞められない、実家に顔向け出来ない
こんな話が出てきます。
もちろん親御さんや先生への感謝は大切です。気持ちはわかります。でも、このままズルズルと続けていて幸せになりますか?
あなたの人生はあなた自身のものです!
僕は、自分の子どもが不幸になって良いと思っている親御さんはいないと思うんですよね。
あなた自身が「人生の目的」に気付き、『その「手段」が楽器を続けていく事ではなかった、これからは○○という新しい「手段」で生きていきたい』と、きちんと周囲に説明、プレゼン出来るのであれば、「あんな高い学費を出して音大に行かせてやったのに。この親不孝者!」などと言う親御さんは絶対にいないのではないでしょうか。
一生やりたい事がブレない人なんてほとんどいないですよね。
音大に行った結果、自分の本当の気持ちに気付いて軌道修正して何が悪いんでしょうか。
「あきらめる勇気」もまた大切です。
あきらめるというのは決してネガティブな言葉ではなく、「自分を受け入れ、新しい人生を切り開くための、とてもポジティブな行動」で、まさしく「勇気」と言えるのではないでしょうか。
すべての生き方に価値がある!
もちろんあきらめる、あきらめないの二択だけではありません。
参考:フリーランスで成功するための『10の秘訣』Vol.7 ~ 音楽以外の能力をもち合わせている/音楽が好きである、信念がある
この記事で紹介させていただいた三田さんのように、サックス奏者 x カメラマンという「手段」で自分の人生を生きている人もいます。
現在のネクストステージ・プロジェクトのスタッフたちは、彼女以外もみんな柔軟な「手段」をとって自分探しをしています。
参考:マネージャー募集中!
- 演奏一本でやっていくという信念をもって生きる
- 音楽に関わるいろいろな仕事を両立、並行して生きる
- 音楽以外のスキルを掛け合わせて生きる
- 音楽は仕事にせず、趣味として続けながら生きる
これらすべてが尊重されるべき生き方ではないでしょうか。
ただしその条件は、
「人生の目的をもち、自分自身の人生を、自分の力で歩んでいるかどうか」
だと僕は思います。
最後になりますが、このシリーズのタイトルは「あなたが選択すべき人生の分かれ道」でしたね。
『あなた自身で人生を切り開き、過去でも未来でもない“今”を生きてみませんか?』
おわり
次回記事:ハリーポッターに学ぶ”夢を実現した人”
前回記事:『A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道』Vol.5 仕事を選ぶ? or 選ばない?