音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
音楽業界の現状『音大卒の演奏家が仕事を得る方法 』Vol.1
前々回より
▼音大進学前の中高生へのアドバイス
『“音大に行きたい”と“プロになりたい”は違う』
▼音大在学中の学生さんへのアドバイス
『生き残る人の音大時代、消えゆく人の音大時代』
をお届けしてきました。
さて、いよいよ今回のテーマは
音大卒業後に演奏家が仕事を得て生き残る方法です。
大事なお話なので、全7回に分けて語りたいと思います。
音楽業界(ビジネス)の現状
まずは率直に「音楽業界(ビジネス)の現状」を僕の視点でお話しします。
残念ながら、あまり明るい話ではありません。
ハッキリ言いますが、
仕事は減っています!
特に、器楽や歌で、クラシック、ジャズなどの生演奏を提供する仕事は激減していると言っても過言ではありません。
その理由を幾つか挙げてみたいと思います。
デジタル技術の急速な進歩
ご存じのとおり、昔は生演奏しかありませんでした。
演奏された音楽を保存する技術がなかったからです。
それが、蓄音機に始まり、レコードが開発され、僕が小学生のころにCDになりました。
そのころまでは進歩も比較的ゆるやかで、コンサートやライブにも足を運んでもらえるし、会場やお店でCDも売れていました。
ところが、ここ最近はどうでしょう?
何か参考音源を聴きたいと思えば、たいていはYouTubeにあるし、お金を払ったとしても、月に1000円程度で聴き放題です。
一見とても便利になったように感じますが、これが意味するのは、
「演奏を聴くために高いお金を払う必要がなくなった」
という事です。
テレビの音楽番組でも、アイドルが歌っているけど、バックにバンドはなく、言わばカラオケ状態だったり、ミュージカルや舞台を観に行っても、以前はオーケストラの生音だったのが、オーディオを再生するだけに変わっていたりします。
制作側の一番のメリットは、制作費、人件費がかからない事、そして、レコーディングされた演奏は絶対間違わず、同じ演奏が出来るので、放送事故などが起こりにくいという事です。
制作側にとってはメリットでも、演奏を生業(なりわい)にしている我々には死活問題ですよね。
クラシックだって仕事が減っている
自分はエンタメ業界とは関係ない、クラシックが生演奏である事はこの先も変わりない。そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
ですが、クラシックそのものを聴く人が減れば、当然、提供する側の仕事も減るわけで、もしもコンサートに行って「お客さんの年齢層が高いな」と感じるのであれば、極論かもしれませんが「近い将来、聴く人がいなくなる」事を意味します。
「需要」と「供給」のバランスが崩れている
ざっくり言ってしまえば、
「需要」とは「世の中にどれだけの仕事があるか」です。
「供給」とは「その仕事を欲しがっている人がどれだけいるか」です。
音楽家も広くとらえれば芸能界ですので、お笑い芸人さんを思い浮かべてみると良いでしょう。
テレビなど、報酬の高い仕事が出来ている芸人さんはほんのわずかで、バイトをしながら劇場に出て、芸人さんとしての月収は数千円という人が数えきれないほどいます。
学校もビジネス
その芸人さんたちは、「お笑い芸人としてビッグになる」という夢をもって、まずどこに行くか?
それが「養成所」ですよね。
将来の夢が安定した公務員なんて人が増えている時代ですが、必ず一定数夢をもった人がいます。
そういう人たちが通う「学校」はビジネスになるという事です。
学校は、あなたがその業界で成功する事を保証してくれる場所ではありません。
言葉は悪いですが、才能のあるなしに関係なく、夢のある人を集めてお金を取る場所でもあります。
芸人、声優、俳優、音楽家など、需要に対して、簡単に入れてしまう養成所や学校が多すぎると思いませんか?
こうして学生が増えてしまうため、「供給過多」が起きているのは紛れもない事実です。
待遇の悪化
(予算の)安いデジタル音楽が主流になり、生演奏はお金のかかる高級品となってしまいました。
それによって何が起きるかと言うと、「待遇の悪化」です。
ひと昔前に比べ、同じ仕事でも報酬額が激減している現場も少なくありません。
さらに、「供給過多」により、安くてもやりたい人はいくらでもいるので、結果、どんどん相場が下がっていくという「負のスパイラル」が起きているのです。
僕がこの記事を書いたのは、「音大に行くのはやめなさい、プロを目指すのはやめなさい」という意図ではありません。
むしろ、もっと夢をもって頑張ってほしいと思っています。
まずは現実を知り、受け入れる事から始まります。
多くの学生さんやその親御さんは、業界の華やかな部分ばかりを見ていて、ここに書いたような現実を知らない人がほとんどです。
まずは現実を知り、それを受け入れ、
「それでも自分は音楽家として成功したいんだ!」
という強い信念のある人しか、将来夢をつかめないと言っても過言ではありません。
次回はもう少し具体的に、どうすれば生き残れるのかを書いてみようと思います。
次回記事:『音大卒の演奏家が仕事を得る方法 』 Vol.2 あなたがやるべき事を知るには
前回記事:『生き残る人の音大時代、消えゆく人の音大時代』