音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
音楽に没頭出来る環境で4年間やりきる、それが財産になる!| クラリネット奏者・太田友香さん
前回から、10/29のイベントにネクストステージ・ウインドオーケストラのメンバーとして参加してくれた7人をピックアップして紹介させていただいています。
1回目の佐藤秀徳君のインタビューはいかがでしたか?
学生さんも、既にフリーランスで頑張っている方も、参考になる事や励まされる内容が満載だったのではないでしょうか。
さて、今回のインタビューは東京佼成ウインドオーケストラのクラリネット奏者の太田友香さんです。
前回記事の佐藤君の紹介で、今回初めてご一緒させていただいたのですが、演奏も素晴らしく、また、若手奏者のまとめ役としても活躍してくださいました。
東京佼成ウインドオーケストラと言えば、吹奏楽をやっていたら一度は聴いた事がある吹奏楽団ですよね。僕自身も中学、高校の吹奏楽部時代からあこがれの楽団でした。
そんな日本屈指のプロの吹奏楽団のポジションを音大卒業と同時に射止めた太田さんは、いったいどんな学生時代を過ごし、今があるのでしょうか?
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Vol.2 音楽に没頭出来る環境で4年間やりきる、それが財産になる!
太田友香さん・クラリネット(昭和音楽大学卒業/東京佼成ウインドオーケストラ所属)
―― 今日はネクストステージ・ウインドオーケストラのリハーサルでしたが、今回のような所属団体以外の方との共演はいかがですか?
新鮮で楽しいです。声をかけていただき、嬉しい気持ちです。今まで一緒に演奏出来なかった方々との共演は、とても刺激になりますね。
練習に明け暮れていた学生時代
―― 太田さんがクラリネットを始めたのはいつからですか?
中学生のころに吹奏楽部に入った事がきっかけです。部活が気持ちの大半といった感じの生活でしたね。
―― 音大に進もうと決めたのはいつごろですか? 入ってみていかがでしたか?
部活のコーチにいらしていたプロの先生から強く勧められたのと、ソロのコンテストで上位入賞したの機に、高校2年生の冬から3年生の春にかけて音大受験を決めました。
それまで特別なレッスンを受けておらず、実はスケールやエチュードの存在を知ったのもそのころで、部活も高校3年生の秋まであったので、急ピッチで受験に向けて仕上げていった感じでしたね。
中学時代の恩師に無理を言って、学校の教室を夜遅くまで使わせてもらい、練習に明け暮れていました。
大学では、とにかく音楽に没頭出来る環境が嬉しくて、ひたすらクラリネットを吹いていました。こんな実力では無理だろうと4年間常に思っていて、プロになれるというイメージはありませんでしたが、今思うと練習量は人一倍多かったかと思います。
先生からは、「プロになりたかったら楽器を吹いていない時間を12時間以上作らないように」と言われていたので、それを守る事に必死になっていた部分もあります。
先生に言われた課題をこなす事と、上手だった同級生にとにかく食らいついていく事をずっと考えて頑張っていたのですが、卒業試験の演奏を聴いたほかの楽器の先生から、いつかオーケストラに入れるよ、と声をかけてもらえたのは嬉しかったですね。
オーディションを経て、プロの道へ
―― それでオーディションを受けられたんですね?
大学4年生の夏に、とあるオーケストラのオーディションを受けてみました。結果的には受からなかったのですが、そのころから徐々に、プロになろうという気持ちが固まってきたように思います。それで、自分の実力を試すつもりもあって、その冬に、自分の師匠のいた楽団のオーディションを受ける事にしました。幸い合格し、プロの道を歩む事になりました。
―― 現在所属している東京佼成ウインドオーケストラですね?
ええ。恩師の先生方のおかげですが、その時に合格していなかったら、フリーランスとして活動出来ていたかは自信がありません。
もちろん入団してからも大変でした。当然周りは一流プレイヤーなので、まず着いていくのですら必死でした。フリーランスの経験をせずに楽団に入ってしまった事から、苦労する事もたくさんありました。自分の演奏の方向性を見失ってしまい、それまで吹けた曲も伸び伸び吹けなくなってしまって…。
現在、入団10年なのですが、周りを冷静に見られるようになってきたのは、4、5年経ってからでしょうか。最近では海外の同世代の演奏者と触れあう機会があり、プレイヤーとしての自覚も強くなってきました。
良い指揮者、良い共演者、良いお客様の反応などが揃った時は、何事にも変えられない幸せな気持ちになりますね。
―― 東京佼成ウインドオーケストラ以外の活動はいかがですか?
プレイヤーとして、自分の実力で楽団外での活動を広げていけるのか不安がありました。そのため、コンクールなどにチャレンジをして、より名前を知ってもらうようにとモチベーションを高めていました。
20代のうちに協奏曲などをいろいろな所でたくさん演奏させてもらえたのは貴重な経験だったと思います。
―― ご苦労などはありますか?
どうしても仕事が重なってしまい、引き受けたい仕事が受けられない時は悔しい思いをします。また、大変な本番が集中してしまうと、練習時間を確保する事にも苦労しますね。
音大講師の立場から思う事
―― 太田さんは音大でも教えていますね。プロを目指す若い人たちにアドバイスするとしたら?
2015年度から、母校の昭和音大で非常勤講師をしています。自分の学生時代は、先生が50代で、しかも恐くて厳しい先生でした。私はまだ30代なので、そういう意味では学生との距離感について迷う時があります。ですので必要以上に厳しくするつもりはないのですが、学生自身の本気度という点では、物足りなさを感じる時が多々あります。音楽に没頭出来る環境で4年間やりきる、そういう心構えが必要だと思います。
一生楽器を続けていく以上、練習は妥協する事なく、しっかりとしてほしいと思います。音楽と向きあう時間をつくる事が何よりも大切です。私の場合は、大学時代の4年間で練習量を確保出来たのが大きな財産となっています。師事していた先生が厳しかった事も、それが出来た理由の一つですが。あとは、出来る限り多く、コンサートで生の演奏に触れる事です。生で演奏を観たり聴いたりする事も、プロとしての財産になります。
この人と仕事をしたいと思われる音楽家になる!
―― 太田さんの今後の目標は?
私は、この人と仕事をしたいと思われる音楽家になるために、聴きに来ている人の気持ちを考える事、周りの人から刺激を受け、それを自分の演奏に還元する事を常に心掛けています。
先ほども触れましたが、最近、海外の演奏家との違いを感じる機会が個人的にありました。その差を少しでも縮められるように、演奏家としても、教育者としても、さらに経験を積んでいきたいと思っています。
昭和音楽大学卒業。大学卒業時に優等賞受賞。これまでにクラリネットを笠倉里夏、関口仁、堀川豊彦、野田祐介、室内楽を太田茂の各氏に師事。 第77回読売新人演奏会出演。 第3回クラリネットアンサンブルコンクールデュオ部門第1位受賞。 第78回日本音楽コンクールクラリネット部門第3位入賞。 第81回日本音楽コンクールクラリネット部門第3位入賞、岩谷賞(聴衆賞)受賞。 第8回日本クラリネットコンクール第3位入賞。 第30回日本管打楽器コンクールクラリネット部門第2位入賞。 2007年、大学卒業と同時に東京佼成ウインドオーケストラ入団。2015年6月12日に行われた東京佼成ウインドオーケストラの定期演奏会にてF.ティケリ作曲「クラリネット協奏曲」を演奏し、好評を博す。吹奏楽はもとより、オーケストラへの客演、ソロ・室内楽公演などでも幅広く活動。 現在、東京佼成ウインドオーケストラクラリネット奏者。昭和音楽大学非常勤講師。
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僕も中学1年生の時、吹奏楽部でトロンボーンを始めたのですが、2年生のころには既にプロになりたいと思い、レッスンに通い始めました。太田さんの場合は高校2年生のころだそうで、決して早いという印象ではないですね。
音大でも、4年生ころまではそれほど強くプロになる事をイメージしていなかった点も、僕とは真逆かもしれません。
そんな状況で、一流のコンクールに入賞出来たり、卒業のタイミングでオーケストラのオーディションで結果を出せるというのは、僕のような雑草タイプにはない才能があるのだと思いますが、それに加え、良い先生に恵まれ、その方を信じ、ブレずに誰よりも練習、努力をした事が結果に繋がっているのだと感じました。
太田さんもおっしゃっていますが、卒業すると(プロになると)本当に練習時間の確保が大変になります。
学生さんのころは仕送りがあるけど、卒業したらアルバイトで生活費を稼がないといけなくなる人もいるでしょうし、僕の場合はレッスン、アレンジ、プロデュース、ライターなど、演奏以外にも時間を費やしているので、なかなか満足に練習が出来ません。
何が言いたいかと言うと、
本当にプロになりたいなら、学生という身分に感謝し、時間があるうちにとにかく練習しましょう!
という事です。
もちろん時間だけ費やせば良いというものではありませんが、太田さんのようにひたむきに頑張れば、夢の実現に一歩近付くかもしれませんね!
次回記事:Vol.3 演奏機会が少ない楽器だから、自分のポジションは自分で作る / 円能寺博行さん(ユーフォニアム)
前回記事:Vol.1 可能性が無限大の “フリーランス” という生き方 / 佐藤秀徳さん(トランペット)