音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive

特集『輝く7人の音楽家たち』(全7回)

音楽をやっていくなら、出会い、そして人間関係を大切 | マリンバ奏者・塩浜玲子さん

皆様、明けましておめでとうございます!

昨年の1月に、ネクストステージ・プロジェクトの音楽ディレクターに就任し、ちょうど1年が経過しました。

その間だけでも、普通に個人の音楽家として生活していたら関わらなかった方々とたくさん出会う事が出来(特に若い人たちと)、僕自身も価値観を広げ、成長する事が出来ました。

やはり、人生を豊かなものにするには、良い出会い、人間関係が不可欠だと感じます。

今回で4回目となる、昨年10/29の吹奏楽イベントに参加してくれた7人の輝く音楽家のインタビューは、マリンバ奏者の塩浜玲子さんです。

Vol.4 音楽をやっていくなら、出会い、そして人間関係を大切に

塩浜玲子さん・マリンバ(桐朋学園大学卒業・同大学研究科修了/フリーランス)

ごく自然な音楽との出合い

―― 今回のような吹奏楽での演奏はいかがでしたか?

 実は私、吹奏楽の経験があまりないんです。でも、この編成は打楽器をたくさん使うので、楽しいですね。若い子たちもみんな上手でした。

―― 塩浜さんがマリンバを始めたのはいつですか?

 6歳の時です。幼稚園のお遊戯会で卓上木琴を演奏して、先生に「上手!」と褒められたのがきっかけです。それで親に「この楽器をやりたい!」と言って始めました。自分からやりたいと言った事はあまり覚えていないんですけど(笑)。

―― 音楽の道を選んだきっかけはありましたか?

 母がピアノ教師をしていたので、マリンバを始める前からピアノは弾いていました。姉も一緒にマリンバを始めたんです。当然のように「音楽高校、音楽大学に行こうかな」と思っていましたね。

 特に意識する事なく、そのまま、ごく自然に音楽の道を進んで来ました。固い決意でというわけではなかったですね。

―― 常盤木学園高校の音楽科に進み、その後桐朋学園大学に入ったんですね。そして、そのままプロに? ご苦労などはありましたか?

 桐朋学園大学の打楽器科は、パーカッション専攻とマリンバ専攻に分かれていて、私はマリンバ専攻に進みました。

 私は教えるのがあまり得意ではないのもあるんですが、現在は演奏を中心に活動しています。

 大学時代から先輩方に声をかけていただいて、オーケストラのエキストラや打楽器アンサンブルなどの仕事をしていました。卒業してからちょうど20年くらいになりますが、いただく仕事をコツコツとこなしていくうちに、プロとして自立出来るようになっていったという感じです。

 いつも楽しくお仕事させてもらっていますので、苦労という実感はないですね(笑)。

―― ギャラの交渉はされるんでしょうか?

 「お任せします」という感じです。基本的には、スケジュールが空いていればお引き受けしていますね。

海外公演から学ぶ事

―― ところで、海外公演の多い塩浜さんですが、その際に大変な事はありますか?

 海外には、その年によって違いますが、平均1~2回は行っています。2018年は、南米とヨーロッパのツアーで、年間の3分の1は海外になる予定です。

 力を入れているのは、マリンバ1台でオーケストラの曲を2人で連弾するマリンバ・デュオ「ウィングス」で、主にこのユニットで海外公演をこなしています。

 先輩の吉岡孝悦さんと組んでずっと活動していて、2013年にはCD『マリンバ連弾によるオーケストラの名曲』を制作しました。師匠の安倍圭子先生のサポートもやっています。

 現地の奏者と共演する事もあるのですが、音楽家にとって楽譜、音符は言葉なので、言語の壁はあってもコミュニケーションに問題はありません。

 ただ、困るのは楽器ですね。マリンバは大型楽器のため、現地調達になるのですが、いつも状態の良い楽器があるとは限りません。良くない場合は、自分たちでメンテナンスから始めて調整しなければならないのが大変です。

―― マリンバは重いですよね?

 200kgくらいありますよ。分解出来るんですが、それでもパーツが10kgくらいあるので、運搬が大変です。階段で上層階まで運ばないといけない場合もあります。小さい楽器を演奏している人がうらやましいです(笑)。

 私は今、テニス肘や筋断裂、腱鞘炎を起こしていて、少し辛いです。職業病のようなものですね。

若い音楽家へのメッセージ

―― なるほど。音楽家もアスリートのような感じなんですね? ところで、今回の吹奏楽イベントでは、たくさんの若い音楽家と共演されたと思いますが、最後に、後進に対して何かアドバイスがあればお願いします。

 人間関係を大切にする事だと思います。

 私の場合、大学時代もその後も、先輩や友人、先生に恵まれていました。不得意な事は誰かが助けてくれたり、自分の企画ではなくても、周囲がお仕事に誘ってくださったおかげで今があります。

 社会人として最低限のマナーは必要だと思いますが、音楽の中では年齢も関係ないと思っています。

 私自身、今回のように、若い奏者から教えられる事や、刺激を受ける部分も多くて、実際とてもプラスになっていますし。音楽って、そういう関係を築ける事がすごく良いと思うんです。

 良い人間関係を作り、それを大切にしていく事で、プロとして成功してほしいと思いますね。

塩浜玲子

 マリンバ奏者。6歳よりマリンバを始める。常盤木学園高等学校音楽科卒業。桐朋学園大学音楽学部卒業、同大学研究科修了。マリンバを草刈とも子、星律子、安倍圭子、打楽器を、小林美隆、佐野恭一の各氏に師事。安倍圭子マリンバアンサンブルジャパン、吉岡孝悦パーカッションアンサンブル、マリンバアンサンブル・ドロップス、マリンバデュオ・ウィングスのメンバーとしてベルギー、ドイツ、スイス、アメリカ、コロンビア、グアテマラ、メキシコ、ブラジル、トルコ、タイ、台湾、韓国、プエルトリコ、エルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカ、アルゼンチンを公演。また多数の打楽器アンサンブルに所属し学校公演を行う。マリンバ演奏のほか、オーケストラ、吹奏楽、スタジオ録音などで活動している。

塩浜さんのインタビューに同席させていただいて感じたのは、とても「自然体」で音楽に向き合っている事です。

ごく自然に楽器を始め、ごく自然に音大に進み、ごく自然にプロになり、あまり苦労を感じる事なく生活が出来ているというのはうらやましいですね。

前回の円能寺さんは、ギャラの相場が下がらないように、「値下げはなるべくしない」とおっしゃっていましたが、塩浜さんはある意味真逆です。「お任せします」で納得のいく金額がもらえているというのは、それだけ確かな技術や人間関係があり、周囲に評価されているからだと言えるかもわかりません。

自己評価も大切ですが、プロとして評価を受け、それに見合った対価(報酬)を受け取るためには、何より周囲からの評価が大切です。いくら自分は素晴らしいと思っていても、周囲が評価してお金を払ってくれなかったら、それはプロとは言えないでしょう。

技術だけでなく、良好な人間関係を築く事も重要ですね。世間で言う「ブラック企業」のような所は、まず間違いなくまともな人間関係が存在しません。そういう環境では、適切な評価も受けられないし、当然その対価も受け取れないのです。

フリーランスで音楽の仕事をやっていると、特に若いころはブラック企業のようなクライアントや事務所の仕事を経験する機会もあると思います。

自分の能力、今のポジションを過信せず、謙虚さをもちながらも価値を下げすぎない、このバランス感覚がある人が成功していると僕は常々感じていますね。

ネクストステージ・プロジェクトでは、このような音楽家が一人でも多く育つような環境づくりに努めていきたいと考えています。

それでは、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

次回記事:Vol.5 音楽家として自立するには「信念・情熱・感謝」が大切! / 黒田慎一郎さん(ドラム)
前回記事:Vol.3 演奏機会が少ない楽器だから、自分のポジションは自分で作る / 円能寺博行さん(ユーフォニアム)

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記事を書いた人

藤井裕樹
藤井裕樹(フジイヒロキ)

NPO法人ネクストステージ・プランニング音楽ディレクター。中学でトロンボーンを始め、大学には行かず19歳でプロになる。ジャズやポピュラー音楽を中心に、某人気テーマパークでの演奏や、有名ミュージシャンとの共演多数。詳しくは「ネクストステージ」へ羽ばたく若い音楽家の皆さんへ

HP: https://mtfujimusic.com/

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