音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive

NSU教育学部

日本と欧米の教育の違いを知っていますか? | NSU教育学部 Vol.3

シリーズNSU(Next Stage University)教育学部第3弾です。

先日、テニスの大坂なおみ選手が全米オープンで優勝し、一躍時の人となったのは記憶に新しいと思います。日本人アスリートが世界のトップになった事はとても誇らしい事ですよね。

メディアでは、彼女のコーチであるサーシャ・バイン氏についても取り上げられていましたが、最近いろいろな日本のスポーツ界で話題になっている暴力や不祥事、パワハラなどさまざまな問題とは随分差があると感じた人も多いのではないでしょうか。

彼のコーチングはまさに、欧米の良い教育の典型だなあと感じました。
今回はこのサーシャコーチを一部参考にしながら、僕が感じている日本と欧米の教育の違いについて考えてみたいと思います。

日本は絶対的な上下関係があるけど、、、

前回記事『カリキュラム教育のメリット・デメリット | NSU教育学部 Vol.2』でも少し触れましたが、日本は年功序列の意識が強く、「目上の人を敬う事」を子どものころから厳しく教えられます。落語や歌舞伎といった伝統芸能の世界では、たとえ親子であっても厳しい「師匠と弟子」の関係があるのはよく知られていますよね。

つまり、絶対的な上下関係が存在しているのです。

音大で勉強する声楽や器楽はほとんど西洋から入ってきた音楽であるにもかかわらず、日本の習慣や価値観と相まって、師匠と弟子という言葉が普通に使われ、実際「先輩や先生には絶対逆らえない」というような主従関係が存在しているところもまだまだあると感じます。

それに対し、大坂なおみ選手とサーシャコーチの関係は、まるで友達みたいですよね。欧米では「先生も生徒も共に、平等に学ぶ」という感覚が強いのではないかと思います。

よく音楽家のプロフィールに「○○氏に師事」と書いてありますが、これを英語で書くと、

Hiroki learned (studied) “from” Mr. ○○ .

となるような気がしませんか?実際には、

Hiroki learned (studied) “with” ○○ .

となります。”from”は「○○氏から学びました」という一方通行であるのに対して、”with”は「○○と一緒に学びました」という意味になりますよね。さらに”Mr.”などは使わず、ざっくり言えば「先生を呼び捨て」にします。

僕はアメリカ留学中にこのプロフィールの書き方を見た時、日本と欧米の教育の違いを実感しました。このような関係性があるからこそ、生徒や選手は伸び伸びと練習が出来、(大坂なおみ選手のような)結果が出せるのではないかと思います。

冒頭で触れた日本のスポーツ界のパワハラ問題ですが、年下や社会的立場の低い人間が間違いを指摘しても、上にいる立場の人間が、「自分たちが正しい」と言ってもみ消してしまうような事がまかり通っていたからこそ、これまで公にならなかったとも考えられます。

※欧米に全く上下関係がないわけではありません。日本的に言えば「親しき仲にも礼儀あり」だと思います。誤解のないようにお願いします。

日本はやってはいけない事から教えるけど、、、

次に、日本の教育で典型だと思うのは、「○○しなければいけない」や、「○○してはいけない」という「否定形」で教える事が多い点。

皆さんも英語の授業で、文法通り(教科書通り)に回答しないと不正解になり、テストで良い点を取れなかったという経験がありませんか?

文法通りにきちんと喋ろうなどと思っていては、とっさの時に言葉が出てきません。

僕がアメリカで在籍していた語学学校の先生は、「便宜上正しい文法を教えるけど、ネイティブの人がこの通り話しているとは限らないよ。皆さんよりブロークンな英語を話している場合もあります」と言っていました。

実際アメリカの空港でも、「This is your bag?」と語尾を上げただけで質問してくる職員もいました。文法的には「Is this your bag?」が正解ですが、語尾が上がって疑問形になっていれば(ジェスチャーもあれば)、「これはあなたのバッグなの?」という意味は通じますよね。

日本の教育では、「外国人とコミュニケーションを取る」という一番大切な「目的」が忘れられ、「テストで良い点を取るためだけ」の英語教育になり(「手段」が先行し)、結果これだけ膨大な英語教育を行っているにもかかわらず、多くの人が話せないんです。

もう一つは音楽での例ですが、僕は生徒さんに自分で考えさせるために(一方通行にならないために)、「いまの演奏、自分でどう思った?」と尋ねるようにしています。

この質問をした時、ほとんどの生徒さんが自分の悪いところしか言いません。
「良いところもあったでしょ?」と言って、何か言わせようとしますが、出てきません。仕方ないのでこちらから「ここが良かったよ」と伝えても、なんだか納得がいかないような、不機嫌そうな顔をしています。

これは「謙遜が美徳とされる習慣」によるもので、早い話が褒められ慣れてないという事ですよね。

「反省していたほうが良い子に見える」からかもしれません。

※ちなみに謙遜と謙虚は別物です。
参考:謙虚さ、感謝がある、謝罪が出来る『フリーランスで成功するための“10の秘訣”』 Vol.1

僕の質問は「どう思ったか」を聞いているだけで、決して「反省点を述べてください」ではないんです。

これに対して、欧米では「良いところを褒めて伸ばす」やり方が浸透していると思います。

サーシャコーチが日本人の感覚からすると、口説いてるのかと誤解するほど徹底して大坂なおみ選手の良いところを褒めたり、「君なら出来る!」というような「肯定形」の言葉を使っていたりしたのがとても印象的でした。

英会話に限った話ではなく、やってはいけない事ばっかり先に言われてしまうと萎縮して行動出来なくなりますよね。これと同じ事が、教育の場でも、職場でも起きているのではないでしょうか(受け身な人間の大量生産になります)。

日本は一つの正解しか求めないけど、、、

前述の演奏に関する自己採点ですが、あたかも初めから「いまのはミストーンをした、音程が悪かった」など、「反省点を言うべき」と答えが決まっているかのような問いかけをするのが日本の教育のように感じます。

音楽でなくても、「この問題の答えがわかる人?」と聞くのが日本の教育で、欧米はというと、「この問題について、あなたはどう思う?」というような聞き方をします。この違いがわかりますか?

日本の場合、一つしかないその正解を発表出来なければ「良い子」だと評価されないんです。

欧米はそうではなく、自分の考え、意思を発表出来れば、極端な話、どんな答えをしても、何も答えない人よりは評価されます(積極性を買われます)。

日本では先生に導かれた無難な答え方をし、悪目立ちしない子が評価され、欧米では価値観に柔軟性があり、ユニークな人間が評価される、この違いは大人になって社会に出た時、大きな差を生むと考えられます。

せっかく可能性を持ったユニークなアイディアを持ってても「出る杭は打たれる」社会って、僕には生産性がない、つまらない社会だと感じてしまいますね。

多様な価値観を身に付けよう!

ここまで書いてきた内容は、あくまで僕が体験してきた日本と欧米の教育の違いです。

日本でも伸び伸び教育を受けてきた人もいると思うし、逆に、欧米でも厳しくしばりつけられた人もいるかもしれませんので、個人的感覚や傾向のようなものである事はご理解いただきたいと思います。

※実際、ハリウッドなどの映画業界でもパワハラ、セクハラは問題になっています。人種差別の意識が強いところもあるようです。

前回シリーズの「留学する? or 日本にとどまる?」(→『留学する? or 日本にとどまる?』A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道 Vol.4)でも書いたように、あなたがもし海外生活を体験したら、僕とはまた違うものになるでしょう。でも、日本だけでは体験出来ない文化、習慣、価値観に触れ、あなたのキャパシティーが広がる事は間違いないと思います。

もう一つ、決して誤解してほしくないのは、僕は日本がすべて間違っていて、欧米が日本より優れているとは思っていません。逆に世界が日本に一目置いているように、素晴らしいところもたくさんあります。

そもそも「国民性」というものもあるので、例えば上下関係をすべて取っ払ったり、極端なポジティブシンキングを日本に取り入れたりしたとしても、うまく機能するとは断言出来ないと思います。

しかしながら、グローバル化していく社会の中で、欧米から(もっと言えば、発展途上国を含む世界各国から)学ぶ事はたくさんあるし、自分と違う考え方を知り、多様な価値観を受け入れる柔軟性やそれを使って社会を作っていくスキルは、これからいま以上に大切になるのではないでしょうか。

次回記事:欧米の教育の取り入れ方 | NSU教育学部 Vol.4
前回記事:カリキュラム教育のメリット・デメリット | NSU教育学部 Vol.2

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記事を書いた人

藤井裕樹
藤井裕樹(フジイヒロキ)

NPO法人ネクストステージ・プランニング音楽ディレクター。中学でトロンボーンを始め、大学には行かず19歳でプロになる。ジャズやポピュラー音楽を中心に、某人気テーマパークでの演奏や、有名ミュージシャンとの共演多数。詳しくは「ネクストステージ」へ羽ばたく若い音楽家の皆さんへ

HP: https://mtfujimusic.com/

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