音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
音楽家は今すぐお金を稼ぐ意識を見直そう | NSU経済・経営学部 Vol.1
10連休の大型ゴールデンウィークが明けて1ヶ月弱ですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
5月、6月は会社を辞める人が1年の中でも最も多いそうですね。
4月に新生活が始まり、1ヶ月ほど頑張ったけど、疲れやストレスを溜めたまま連休に入り、憂鬱な時間を過ごし、そのまま行けなくなってしまう状態でしょうか。気持ちはなんとなく分かる気がします。
最近では、自分で直接会社に辞めると言いに行かなくても良い「退社代行サービス」というビジネスが結構はやっているそうです。本来なら「立つ鳥跡を濁さず」で、自分でけじめを付けるべきだとは思いますが、それくらい辛い方もいらっしゃるんでしょうね…
そこまで自分を追い込む必要のない、有意義な人生を送りたいものです。
そのためには、前回の『将来を考える際に目的と手段を区別できていますか?』でお伝えしてきた内容はとても大切だと思いますので、まだお読みでない方はぜひご一読ください。
さて、今回の新シリーズは、「NSU経済・経営学部」と題し、「お金を稼ぐ」事について触れていきたいと思います!
日本人のお金への意識
学生さんはまだないかもしれませんが、先輩や知らない事務所から演奏の仕事が来て、ギャラ(報酬)も提示されずに日程だけおさえられた経験はありませんか?
日本は「お金の話はタブー」という風潮があります。
これに輪をかけて、「年功序列」や、立場が上の人には絶対服従といった習慣が残っているため、「ギャラはいくらですか?」と聞く事も出来ず、でも、日程でOKを出してしまったので断る事も出来ない。こんな状況に陥ります。
やってみたら経験としての価値もなかったり、異常な拘束時間のうえに、ほとんどギャラが出なかったなんて場合もあります。あえてメリットと言えば、こんなブラックな世界もあるという社会勉強になった点くらいでしょう。
最近は「働き方改革」も進み、社員やアルバイトの雇用形態は改善の兆しが見え始めましたが、音楽業界を含む、芸能、エンタメ業界では、まだまだブラックなところも多いと思います。
ネクストステージ・プロジェクトでは、こういった事を助長しないのはもちろん、より良い環境になるよう、依頼者が若い音大生であっても、必ず事前に拘束時間や報酬を提示し、納得してから請けてもらうようにしています。
経験のために無報酬、またはそれに近い金額で働く事を否定はしませんが(僕も今でもやりますが)、依頼する側が条件を提示し、請ける側が(やるかやらないか)選べるのは当然の権利だと思うので、そういった「ごく当たり前の環境」になるよう、このブログを通しても呼びかけていきたいと思っています。
日本のお金の教育の問題点は?
なぜこのような「雇う側のほうが有利な状態」がまかり通ってしまうのか。それは、前シリーズでもお伝えした「教育」の問題かもしれません。
日本ってお金の「使い方」は小学校でも教わるんですけど、「稼ぎ方」は習わないんですよね。
皆さんも小学生のころ、「遠足のおやつは300円まで」というようなルールがあり、「予算内でいかに自分の満足するおやつを揃えるか」みたいな経験をしたと思います。これはある意味、小学生でも理解出来る素晴らしく実践的な「お金の使い方」の教育だと思いますが、「その300円をいかにして自力で稼ぎ出すか」までは教わった記憶がありません。
音楽家にとって大切なお金の教育(上) | NSU教育学部 Vol.7にも書いたように、アメリカや発展途上国などでは、子どものころから実践でお金を稼ぐ事をもっと学んでいると思います。日本は良くも悪くも恵まれている国なので、そういった教育が欠落していると言えるかもしれませんね(300円は親御さんが用意してくれるので)。
「稼ぎ方を知る」というのは、「社会で自立して生きていく手段を知る」とも言えます。
正しい知識がなければ、当然ブラックな事務所などにもだまされやすくなります。
プロの音楽家として生きていくためにも当然必要な教育であり、本来はもっと早い段階で学ぶべき内容ではないでしょうか。
「三方よし」って?
僕がお金を稼ぐ時に(ビジネスにおいて)大切にしている考え方に「三方よし」というのがあります。
これは、江戸、明治時代の近江商人という人たちの考え方で「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「3方向」を指します。もう少し詳しく説明すると、
「商売において売り手と買い手(需要と供給)が満足するのは当然の事で、それに加えて社会に貢献出来てこそ良い商売」
という考え方です。
サッカー日本代表の試合で「キリンチャレンジカップ」というのを耳にした事があると思いますが、見ての通り、スポンサーは「キリン」ですよね。「一番搾り」などを作っているキリンビール株式会社や、「午後の紅茶」などを作っているキリンビバレッジ株式会社などです。
例えば僕が「一番搾り」というビールが好きでよく買うのは、「売り手よし、買い手よし」の状態ですよね。会社が購買意欲を誘う商品を作り、消費者が納得して購入しているという状態。
さて、ここに「世間よし」が入ってくるとどうなるのでしょう。
それが「サッカー事業への応援、投資」だったりするわけです。「キリン」のような大きな会社が資金を投じてくれるおかげで、サッカーが多くの人に注目され、選手たちのプレーに感動し、(スタジアムやテレビで)観客として勇気をもらったり、世界で活躍出来るようなスター選手が生まれてきたりするんですよね。
ホームページを見ると、サッカー応援だけでなく、環境や健康への取り組みなどもたくさんしているようです(ページ下部にリンクがあります)。
実は多くの企業が、このような形で「社会貢献」を行っているんですね。
そして、それが出来ているのは大企業、すなわち「儲かっている企業」とも言えます。裏を返せば、稼げるようになりたければ「売り手よし、買い手よし」だけでなく、「世間よし」を意識するのがポイントと言えるのではないでしょうか。
音楽家は少し「浮世離れ」しているというか、どうもこの考え方が弱く、下手すると「売り手よし、買い手よし」どころか、売り手(自分)の事ばっかり考えている人も多いように思います。
「私の演奏は素晴らしいから聴いて!」だけではビジネスにはなりません。
もちろんアーティスト(ピカソのような芸術家)を目指すのであればそれでも構いませんが、「職業音楽家、フリーランス、個人事業主」に当てはまる人は、やはりこの考え方は大切になってくると思います。
前述のサッカー選手や野球選手などのアスリートは多くのスポンサーが付いていますが、音楽家ではとても少ないです。この考え方がもっと浸透すれば、「スポンサーを探す」という「資金調達」の方法も増えるかもしれませんよね。
最近では「クラウドファンディング」という言葉もだいぶ一般的になってきました。音大の先生たちが若かったころにはまだ存在もしなかった「稼ぎ方」が、あなたの音楽生活を助けてくれるかもしれません(きっと音大では教わりません)。
今回は「序章」というイメージで書かせていただきましたが、次回からより詳しく、皆さんがあまり注目してこなかったであろう視点で、経済や経営について分かりやすく解説していこうと思います。
→次回へ続く
次回記事:音楽家は社会との繋がりを意識しよう | NSU経済・経営学部 Vol.2
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