音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
音楽家にとって大切なタイムイズマネーの話 | NSU経済・経営学部 Vol.3
前々回から始まった新シリーズ「NSU経済・経営学部」は今回が3回目となります。
「お金を稼ぐ意識の見直し」や「社会との繋がりを意識する」きっかけになりましたでしょうか?
さて、今回のテーマは「タイムイズマネー」です。
日本のことわざでは「時は金なり」とも言いますよね。
よく聞く言葉ではありますが、目に見えない部分も多いサービスを提供している音楽家には、忘れがちな視点と言えるかもしれません。
自分の仕事を時給換算してみよう
『フリーランスで成功するための“10の秘訣”』Vol.5 自分の価値がわかっている/お金の価値がわかっている
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この記事でも触れましたが、プロというのは「自分が提供した何らかの労働、サービスなどを評価してもらい、その対価として、お金(給料や報酬)を受け取る」仕組みです。
レストラン、コンビニ、交通機関の利用も同じですね。
皆さんはアルバイトをしていた時(今もされている方もいらっしゃると思いますが)、時給○○○円といった条件で働いていたと思います。
時給というのはとてもシンプルで分かりやすい評価のされ方ですよね。
「やりがい」も重要な要素ですが、一般的には「そんなにキツそうではないけど、比較的時給の高い仕事」を選ぶ人が多いのではないでしょうか。
これ、言いかえると「その労働に対する評価額が高い」とも言えます。
ちなみに皆さんは、ご自分の住んでいる都道府県の「最低賃金」はご存知ですか?
東京都の場合、このブログを書いている2019年6月現在、時給985円です。
アルバイト、パート、派遣スタッフ、正社員、高校生、外国人など、どんな状況でも雇い主は労働者にこの金額を支払う事が法律で定められています。
僕が高校生の時にやっていたアルバイトは東京都で時給680円だったので、かなり条件は良くなっていると言えます(羨ましい…笑)。
ところが、音楽業界のギャラ(報酬)の相場が同じ比率で上がっているようには思えないんですよね。むしろ悪化している現場もあるんじゃないでしょうか。
僕が経験してきたものでは「ジャズのライブ」。
本番と別日にリハーサルが組まれ、数時間拘束され、交通費も支給されない。報酬は本番の日のチャージバックのみ。
チャージバック制というのは、当日お客さんが払ったテーブルチャージ(入場料みたいなもの)に集客出来た人数をかけ、お店の取り分○%、ミュージシャンの取り分○%というように分けられて支払われるシステムです。
仮にチャージ3,000円- x 集客100人 x 出演者取り分60% ÷ 出演者数15人という計算をすると、1人あたりの報酬は12,000円ですね。
まあ、悪くはないと感じるかもしれませんが、もしもリハーサルで5時間、当日も夕方からサウンドチェックがあり、7時間拘束されたとしましょう。
12,000円を拘束された12時間で割って換算すると、時給は1,000円という事になります。音楽事務所などが絡んでいないジャズのライブでは交通費も支給がされない場合がほとんどなので、ここから2日分の交通費を引いて計算すると、もしかしたら最低賃金を下回っている可能性もあります。
ジャズの現場だけでなく、クラシックでも、友人同士で集まって開催する自主公演などでは、同じような事がよく起きていますよね。
音楽家の場合、個人練習の時間もあるので、それも含めてしまうと、かなり効率の悪い稼ぎ方になっていると言えるかもしれません。
もちろん単純にアルバイトとは比較出来ないのですが、世の中の時給の相場はいくらで、どんな仕事ではいくらくらいの時給が支払われている、それと比べて自分の労働はどれだけの評価をもらえているのか、この考え方は一つの目安にはなるのではないでしょうか。
「やりがいや経験という報酬」は決して否定しません。
僕も今でも、正直計算するのが怖いようなライブもやったりするのですが(笑)、それを生活のあてにはしていません。分かったうえで楽しい、経験になるからやっていて、自立して生活するためのお金は別で稼いでいます。
良くないと思うのは、「自分は好きな事をやっている、経験のためには安くても仕方がない、音楽家は貧乏なのは当たり前」といった意識しかなく、なかなか自分の価値を上げていけない人です。
誤解を恐れずに言うと、どんなに楽器の技術があって、その演奏をお客さんの前で披露しても、それで得たお金を時給に換算して最低賃金を下回っていたとしたら、コンビニなどのアルバイトよりも「社会的」な評価は低いという事なんです。
自分がやっているのは芸術だからそれでも構わないと思っている人はそれで良いと思いますが、職業音楽家として正当な対価を得て生活していきたいのであれば、これは必要不可欠な考え方ではないかと思います。
「費用対効果」、「機会損失」とは?
続いて、ビジネスの世界でよく聞かれる用語を二つ、解説してみましょう。
まずは「費用対効果」。「コストパフォーマンス(コスパ)」という言い方もありますよね。
かけた費用に対して、どれくらい効果があったかという意味です。
音楽家の場合だと、アルトサックスしか持っていなかった人がソプラノ、テナー、バリトン、移動用の車を買ったとして、仕事が広がり、大きな利益を生み出したとしたら、それは費用対効果が高いという話になります。
楽譜作成ソフトやパソコンを購入し、演奏だけでなくアレンジの仕事が広がるというのも同じですね。以前書いた「投資」の考え方も同じです。
参考
自己投資が出来る『フリーランスで成功するための“10の秘訣”』 Vol.6
逆に、あなたにお金を払ってくれるお客さんは、無意識だったとしても、この「費用対効果」を考えています。
レッスンのお仕事は分かりやすいかもしれませんね。レッスン料が1時間5,000円だったとして、受講した結果、上手くなったのかどうか。この先生(あなた)に習っていれば5,000円の価値はあると思ってもらえれば、生徒さんは継続してくれるでしょう。
教室までの移動の時間や交通費もあるので、実際はもう少し安くなりますが、時給は5,000円ですよね。生徒さんも納得してくださり、自分も時給換算で5,000円の評価を受けたとしたら、なかなか良い仕事だと思いませんか。
皆さんの中には演奏の仕事のほうが上、レッスンは下のような考え方をしている人がいるかもしれませんが、ビジネス感覚で言うと、僕はそうは思えないのです。音楽で自立して生活していくためには、結構重要な仕事だと思いますね。
参考
レッスンの仕事に誇りを持とう!『音大卒の演奏家が仕事を得る方法』Vol.7
続いて「機会損失」のお話。
ざっくり言うと「稼ぎ損ない」の事なんですが、意思決定を誤り、より多く稼ぐ「機会」を逃して発生する「損失」の事です。
ちょっと分かりにくくなってきましたか(笑)。
最近うちの事務所であったのは、吹奏楽部の指導の依頼をしてくる学校の顧問の先生が全然連絡の取れない方で、何度も何度も連絡しないといけない。留守電を入れてもコールバックがないので、メールで書面にするんですけど、当然電話でパッと話して用件を伝えるより時間がかかります。そのメールにも返信がないので、また「お返事ください」のメールをする。やっと返信が来たと思ったら、必要な事が書かれていない(希望の楽器や日程,etc.)。またそれを問い合わせる…
ものすごい無駄な作業ですよね。最近は「ブラック部活」なんて言葉も聞かれますが、恐らく先生は忙しくて大変なんでしょう。でも、だからと言って依頼をしている先のスタッフの時間を奪って良いという話にはなりません(世の中には、他人の時間を奪って平気な人が結構います)。
とは言え、公立学校だと予算もないので、支払えるレッスン料も安いわけです。
こういう仕事に多くの時間を割く事になると、目には見えないかもしれませんが、そこで奪われた時間のために練習時間や睡眠時間が減り、結果として自分が持っているパフォーマンスを発揮出来ず、スキルアップに繋がっていかない、つまり「機会損失」しているという話になります。
ちなみにこの学校の対応はあまりに酷かったので、警告をしたうえで指導者の提供は打ち切らせていただきました。
最初のライブやコンサートの例えに戻ると、友人同士で結成したバンドやユニットで、演奏以外にも事務的な作業で膨大な時間を取られているのに、「時給」も「費用対効果」も低く、結果としてそこで費やしてしまった時間のためにほかの仕事に影響が出て、スキルアップや条件の良い仕事を取れる「機会を損失」している人、結構多いように思います。
怖いのは、自分が意思決定した事により、見えないところで起きている影響なので、気付かない人もいるという事。
今、自分が取っている行動、選択している意思や友人との付き合いを評価、判断するうえで、今回紹介したビジネス的な考え方の一面を持っておく事はとても大切だと思います。
1日24時間というのは、全ての地球上の生物に与えられた最も平等な権利ですよね。ただ、それをどう使うかは一人ひとりに委ねられています。
「タイムイズマネー = 時は金なり」
費用対効果(コスパ)の高い人生を歩むために、時間とお金をなるべく「見える化」して、音楽家として生きていくための指針にしてみましょう!
次回へ続く→
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