音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive
フリーランスの音楽家こそ契約という意識を持とう | NSU経済・経営学部 Vol.4
「NSU経済・経営学部」は今回で4回目になりました。
経済学部はおろか、大学すら出ていない人間が書いているのですが(笑)、もしかしたらその分、音楽業界の実生活に役立つ内容になっているかもしれません。少しでも皆さんが正当な評価を受け、それ相応の報酬を受け取れるお手伝いが出来ていれば嬉しく思います。
さて、今回は何をテーマにしようか思案している中、ニュースでは吉本芸人の闇営業問題が大きく報じられていました。
クラシックやジャズと言っても、音楽業界は芸能界の一部とも言えます。我々にとっても決して他人事ではない内容だと思いますので、この件を参考にしながら、僕の考えを述べてみたいと思います。
今回の芸人さんたちの問題点は?
この件の一番大きな問題は、
・反社会的勢力からの仕事だった
・事務所を通していない仕事だった
この2点だと思います。
反社会的勢力からの仕事でなければ、芸人さんたちは謹慎や番組降板にはならなかったかもしれないし、事務所を通していなかっただけなら厳重注意で済んでいたかもしれません。謹慎させるくらいなら、テレビや営業イベントに出て稼いでもらったほうが良いですからね。
ワイドショーで取り上げている内容を僕がミーハーに掘り下げても仕方ないので、あくまでこのブログシリーズに関係する形で書きたいと思いますが、僕が一番気になったのは、
・吉本興業と芸人さんが契約書を交わしていない
・取り分の比率が、会社9:芸人1と言われている
こちらの2点なんです。
法律的に言うと、契約書は必ずしも書面で結ばないといけないという事はなく、口頭でもOKだそうです。ただ、トラブルになった時に責任の所在が曖昧になってしまうので、やはり形にしておくべきというのが一般的な弁護士さんの見解です。
吉本興業のような大きな会社で、たくさんの芸人さんを抱えているところが「口約束」レベルで仕事をしているのはちょっと驚きでしたね…
契約書に「事務所を通さず仕事をした場合は解雇」と書いてあれば、かなりの抑止力になったはずなので、それに輪をかけて反社会的勢力の仕事を受ける事はなかったと言えます。会社さえ通していれば、反社会的勢力の仕事を受けた場合、責任を追うのは吉本興業側ですからね。
音楽家も他人事ではない!
ここから音楽家が学べる事は、
・個人事業主(フリーランス)は自己責任、事務所に所属していればある程度守ってもらえる可能性はある
・個人事業主(フリーランス)の場合、なるべく契約書に近いものを残しておいたほうが良い
といったところでしょうか。
このブログを読んでくださっている多くの方は個人事業主でしょう。仮に事務所関係の仕事をしていても「専属(雇用)契約」の人はほとんどいらっしゃらないですよね。
僕自身も過去には「個人事業主」の形でディズニーやヤマハ音楽教室の講師などを請け負っていました。
ディズニーの場合はオリエンタルランドではなく、仲介のプロダクションと「契約」をしていましたが、パークの仕事で決められた日、時間帯を優先していれば、それ以外の時間でほかの仕事をするのは自由でした。
ヤマハ音楽教室も、もちろん(ヤマハの生徒さんの)引き抜きはNGですが、ほかで(フリーで)講師をやったり、演奏の仕事を受けるのはOKでした。
「きちんとした大手企業」は普通、このような契約書は交わしていますね。なので、そこに書かれている文言に関してのトラブルはなかったと思います。ただ、いわゆる「専属の雇用契約」でなないので、正社員のように守ってもらえる訳ではありません。ここがいわゆる「事務所に所属している芸能人(タレントさん)」との大きな違いです。
ほかの仕事をしても良いという事は、実質、個人事業主としての一部の仕事をとある会社(例:ディズニーやヤマハ)から請け負っただけなので、結局はほとんど自己責任だと思います。僕が言いたいのは、契約書があれば、責任の所在は曖昧にならないという部分ですね。
契約書に近いものを残そう!
フリーランスでクラシックやジャズを生業(なりわい)にしていると、個人同士のやりとりに近いレベルの単発の仕事をたくさん受けると思います。
その際にいちいち契約書を交わすというのは、まだまだ日本の社会では現実的ではないかもしれませんが、報酬や拘束時間、演奏の内容など(リクエストに答えて編曲など、時間のかかる作業があるかないかなど)、なるべくテキストで残る形にしたほうが良いと思います。幸い、最近では電話よりもEメールやLINE、フェイスブックのMessengerでやり取りをする機会が圧倒的に増えてきました。これはとても良い事で、必ず先方とのやり取りが記録されますよね。
僕は案件の細かい相談で、電話や直接の打ち合わせのほうがスムーズな場合はそうしますが、それ以外の「後で揉めるかも」という内容は必ずテキストに残してもらうようにしています。
前回のブログでは「時給換算」について触れましたが、事前にギャラの話だけしていたけど、当日やってみたら最初に聞いていた拘束時間の2倍になっていたら、つまりそれは時給が半分になっているという事です。もちろんそれを覚悟のうえで、やり甲斐も含め安売りしていないなら良いのですが、そうでなければ、これも前回書いた「機会損失」と言えます。増えた拘束時間分で別の仕事をして収入を得られる可能性があったわけですから…
後で「そんなに長く拘束されるとは聞いていない、ここ(メールなど)に書いてあるでしょ?だからギャラを上げてください」という「交渉」も、いずれは必要になってきます。そのためには必ず書面に残しておくべきだし、それ以前に後で揉めて気持ち良い人は誰もいないので、事前にハッキリさせておくべきだと僕は考えています。
日本の契約社会は、吉本のように、なんとなくユルい状態がまかり通っていて、あまり明確にすると、(このブログのケースでは)音楽家側が「金に汚い人」みたいに思われるところが問題だと思っています。吉本芸人の闇営業問題も、結局こんな曖昧な契約の仕方をしているのが問題で、ここまで大きくなってしまっているんですから、早くこういうユルい契約形態を無くしてほしいですね。
フリーランスの皆さんも、一つひとつの仕事に「契約の意識」を持つ事で、より自分の身を守れるのではないかと思っています。
次回は、「取り分の比率が、会社(吉本)9:芸人1と言われている」点をもう少し掘り下げ、「マージン」とは何なのか、詳しく解説してみたいと思います。
→次回へ続く
次回記事:NSU経済・経営学部 Vol.5『マージン』
前回記事:NSU経済・経営学部 Vol.3『タイムイズマネー』