音楽家のサバイバル術A way for musicians to survive

NSU経済・経営学部

音楽家のマージンについて理解しよう | NSU経済・経営学部 Vol.5

前回のブログ『フリーランスの音楽家こそ契約という意識を持とう 』では、いま話題になっている吉本芸人さんの問題を取り上げ、契約書の重要性について解説しました。皆さんの中でも口約束だけで仕事を受け、危ない経験、理不尽な経験をした方は多いのではないでしょうか。

この2週間でも吉本芸人さんの件は大きな動きがあり、これを書いている2日前には、契約解除になった宮迫博之さんと田村亮さんの記者会見があり、吉本興業のあり方が世間で物議を醸しています。

もちろん芸人さんたちがギャラを貰っていないと嘘をついた事で話が大きくなってしまったので、元はと言えばそれが一番悪いのですが、立場のある方が責任を取らず、トカゲのしっぽ切りで逃げようとするのは、芸能界に限らず、音楽ビジネスの世界や政治の世界、一般企業など、どこにでもあるように感じますね。

僕自身も、自分にはまったく非がないのに、クレーマーのような生徒さんに対し、「収集がつかないので、とりあえず謝って」と上に言われて謝罪させられたり、別件でも同じくこちらには非がないのに、教室との講師契約を一方的に解除させられた経験があります。

実は僕、6月に法人を立ち上げ、個人事業主ではなく株式会社の代表取締役になったのですが、「理不尽な会社に使われて”マージン”を取られるくらいなら、自分で経営してやる!」という想いもあっての事です。

というわけで、今回のテーマである「マージン」という言葉が出てきました。

マージンとは?

マージンとは、ざっくり言うと「(仲介)手数料」という言葉が分かりやすいでしょうか。

依頼主のクライアントさんと直接やり取りをせず、事務所などを介した場合は、ほぼ間違いなくマージンは取られていると思います。

クライアントさんが1万円出していて、あなたが6000円受け取っているとしたら、事務所のマージンは4000円(40%)、事務所:あなたの比率は、4:6という事になります。

計算式としてはとてもシンプルですよね。ただ、

一般的な演奏の仕事の場合、大元の予算がいくらなのかや、クライアントさんがいくら払ってくれているかは分からない事が多いので、自分のギャラが安いと感じても、そもそもクライアントさんが正当な金額を支払っていないのか、それともクライアントさんはきちんと支払っているのに、事務所がマージンを多くとっているのかは分からない場合が多いのです。

逆に音楽教室の場合、通常生徒さんが支払うレッスン料はホームページなどに明記されているので、講師に支払われた金額と照らし合わせれば、教室のマージンが何%なのかは分かりますよね。

自分が真っ当な評価を受けているか、その対価を受け取れているかを知るうえで、分かるものだけでもマージンを計算してみると良いと思います。

僕はこのように、教室だけでなく、演奏の現場の料金体系ももう少しオープンになっても良い、これからの時代は特にそうあるべきだと感じているので、ネクストステージ・プロジェクトでは、クライアント様からいただく料金と、奏者に支払う料金をある程度分かるように公開しています。

生演奏のご依頼・料金 | NPO法人ネクストステージ・プロジェクト

マージンの役割

常々吉本の芸人さんはテレビなどで、会社と芸人さんの取り分の比率が9:1だと言っています。今日の社長の会見では、5:5か、6:4(4:6?)と言っていましたが、真実は分かりません(芸人さんがネタとしてオーバーに言っているかもだし、社長が正直に答えていないかもしれないので)。

このブログは芸能ゴシップ記事ではないので、そこを追求するつもりはないのですが、そもそもマージンとはどういうものなのでしょうか。

音楽教室の仕組みは比較的分かりやすいと思うので、僕が所属していたヤマハの音楽教室を例に解説してみます。

先ほどマージンとは「仲介手数料」だと書きましたが、僕はそれプラス「ブランド料」も入っていると認識しています。

「私はヤマハ音楽教室のピアノ講師です」と名乗れるか、「私は個人でピアノを教えています」となるかの違いは、特に若くて、まだプロフィールに書けるような実績があまりない場合、結構な差があるのではないでしょうか。

単純に「肩書き」としてヤマハを名乗れる事、これだけでも大きなメリットと言えます。これがブランド料です。

次に、ここからがいわゆる「仲介手数料」の部分になりますが、ブランド力のある大手は、広告や営業にかけられる金額が個人よりもはるかに大きいです。ヤマハ音楽教室のテレビCMはほとんどの方が目にした事があると思いますが、地上波であれだけのCMを流すのは個人では不可能ですよね。ヤマハの場合、あなたが宣伝をしなくても、CM、ホームページ、店頭のチラシなど、あらゆる手段で生徒さんを集めてきてくれます。

さらに言えば、防音設備の整ったスタジオ、生徒さんが手ぶらでも習いに来られるような備品楽器があり、講師個人個人がカリキュラムを考えなくてもいいようなテキストが用意されています。また、講師としてレベルアップするための研修なども無料で受ける事が出来ます。設備や人材への投資も大きいという事ですね。

・大手の社名を名乗れるブランド料
・お客さんを集めるための広告宣伝費
・営業活動を行うための設備費
・研修などの人材育成費

これだけあなたに投資してくれているのですから、マージンを多く取られるのは当たり前の事なのです。

吉本の芸人さんたちも、ほぼ同じ仕組みである事が理解出来るでしょうか。

多くの芸人さんが、ギャラが安いと分かっていてもそこを目指すのは、明石家さんまさんやダウンタウンさんがいる大手事務所であり、自分が吉本芸人と名乗れる事で必ず恩恵があるからです。

自分ではほぼ不可能な営業活動も会社がやってくれます。「ルミネtheよしもと」のような専用劇場は設備費とも言えるし、舞台に立ち、現場で学ぶという意味では人材育成費とも言えますよね。

よく僕の周りでも「どこどこの事務所の仕事はギャラが安い、事務所が相当マージンをとってるんじゃないの?」みたいな話を憶測でしている人がいます(僕も昔はしていました…笑)。ここに書いているような事を分かったうえでなら良いのですが、あまり理解せずに文句を言っている人も多いと感じます。

誤解を恐れずに言うと、この仕組みを理解して、「自分はフリーになったほうが稼げる、やりたい事が出来る」と思うなら、文句を言わずに辞めれば良いだけの話です。

僕もそうやって、ディズニーリゾート、ヤマハのような大手でたくさん経験を積ませてもらった後、フリーになり、経営者になりました。

事務所と音楽家のあり方

結局のところ、契約というのは、雇う側と雇われる側の双方が、信用、信頼の関係を築けるかどうかという、とてもシンプルな話です。

参考:音楽家として信用される大切さ | NSU教育学部 Vol.8

先ほども書きましたが、演奏の仕事の多くは大元からいくら出ているか分からないので、マージンが何%かを全て明確にするのはかなり難しいと思います。

ですが、僕の経験では、「お前はウチのブランドを名乗れてるんだから(ここで働けているんだから)、お金の文句なんか言わずに黙って働け」と言わんばかりの経営者やマネージャーは、悪態がにじみ出ています(傲慢なおごりを感じます)。

「事務所以前にミュージシャンありき。皆さんの才能のおかげで私たちも生活出来ている、ありがとう」と思ってくださっている方々との態度とは明らかに差が出ますよね。

これも誤解を恐れずにざっくりと言えば、前者のような事務所はギャラが安く、後者では比較的良い場合が多いです。

後者のような事務所関係者に対し、我々ミュージシャン側も「そのブランドを名乗る事が出来、宣伝や設備投資のおかげでお仕事をいただけています。ありがとうございます」と感じる事が出来れば、そこには信用、信頼が生まれ、誰も嫌な想いをする人はいません。

今回の吉本興業と芸人さんの問題は、そもそもこの信頼関係がなかった、もしくは崩れていった典型的な例だと言えますね。

僕はこれまでの音楽生活の中で、いち所属アーティスト、いち講師として雇われる立場、ネクストステージ・プロジェクトのような音楽事務所的な法人で雇われながら管理する立場、そしてこれからは最高責任者として経営する立場と、いろいろな側面からそれぞれを客観視してきました。

この経験を元に、少しでも健全な音楽業界に出来るよう、これからも貢献していければと思っています。

→次回へ続く

次回記事:音楽界のレッド・オーシャンとブルー・オーシャンって? | NSU経済・経営学部 Vol.6
前回記事:フリーランスの音楽家こそ契約という意識を持とう | NSU経済・経営学部 Vol.4

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記事を書いた人

藤井裕樹
藤井裕樹(フジイヒロキ)

NPO法人ネクストステージ・プランニング音楽ディレクター。中学でトロンボーンを始め、大学には行かず19歳でプロになる。ジャズやポピュラー音楽を中心に、某人気テーマパークでの演奏や、有名ミュージシャンとの共演多数。詳しくは「ネクストステージ」へ羽ばたく若い音楽家の皆さんへ

HP: https://mtfujimusic.com/

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