NSU経済・経営学部 Vol.7『ターゲット』

前回記事の「レッド・オーシャンとブルー・オーシャン」の最後は、

音楽業界のどの部分に身を置いて生きていくかは個人の自由ですが、自分はレッド・オーシャンの中にいる事を自覚し、そのうえで綿密な戦略を立てていくというしたたかさは、サバイバルを勝ち抜くためには必要不可欠な考え方になっていくと思います。

という言葉で締めくくりました。

『夢を実現させるために、最も大切な行動とは?』Vol.1

過去にはこんな記事も書いていますが、サバイバルとは「生存競争」であり、「戦い」なんですよね。

もちろん人が殺し合う戦争は僕も大嫌いで、あってはならない事だと思っていますが、ビジネスの世界は常に「戦い」である事は否定出来ません。

戦いで勝ち抜くためにはほとんどの場合(アメリカの大リーグのチームが日本の草野球チームと試合をするような圧倒的な実力差でもない限り)、綿密な戦略が必要だと言えるでしょう。

ターゲットを絞る

戦略を練るうえで僕がもっとも重要視しているのが「ターゲットを絞る事」です。前述の過去のブログでも説明した通り、ビジネスには戦争用語がたくさん使われています。

「ターゲット」もその一つで、日本語では「標的」や「攻撃目標」と訳されますよね。

戦争でなくても、オリンピックの射撃や、ダーツを思い浮かべてみてください。的の中心の得点が一番高くて、基本的にはそこを狙うシンプルな競技です。上手い下手はともかく、的の中心を狙わない人はいません(狙わないと勝てません)。

当然音楽ビジネスでも同じ事が言えるのですが、ターゲットを絞るという行為を意識していない人がとても多いように思います。

タピオカドリンクのターゲットは?

ターゲットの中で最も重要なのは「客層」ではないでしょうか。

成功しているビジネスは100%、的確な客層(ターゲット層)にアプローチ出来ています。

最近大ブームになっている「タピオカドリンク」のターゲット層はおそらく、10代、20代の女性ですよね。

ターゲット層を明確にすると、どこに出店するか、どんなパッケージにするか、単価はいくらに設定するかなどの戦略を立てやすくなります。

今はブーム後の便乗が増えたので「こんな所にもあるの?」という場所にも出店されていますが、最初は原宿や吉祥寺など、若い女性が多く集まるオシャレなエリアから始まりました。

お店の内装や商品のパッケージはインスタ映えするようになっていて、これはSNSを多く利用している世代とも一致します。

単価は500円程度。ブームやオシャレさでつい買ってしまう金額で、若者でも「その値段なら買わない」とはなりづらく、なおかつ安くもない絶妙な料金設定になっています(原価は10分の1の50円くらいで、実はボロ儲けらしいのですが…)。

もしも出店場所やパッケージや料金が全く同じだったとして、ターゲット層を中年の男性に設定していたとしたら、明らかにターゲット層を間違えているのが分かると思います。

逆に、ターゲット層はちゃんと若い女性を狙っているのに、出店場所がおばあちゃんの原宿と言われる巣鴨や地方の田舎町だったり、お店の内装が千利休の茶室みたいだったり、パッケージが日本茶の湯呑みたいだったり、1杯1000円くらいの高級品だったとしたら、これはターゲットでなく、戦略を間違えていると言えます。

こういう状態はまさに「的外れ」。この例えが射撃やダーツの「的」からきているのも合点がいきますよね。

タピオカドリンクのように、ターゲットの設定と戦略がうまくいけば、このような大ヒットの可能性があるのですが、音楽家の場合はどのように考えたら良いのでしょうか。

音楽家のターゲット戦略

以前うちのスタッフ(管楽器奏者)が作った個人のホームページをチェックした事があります。プロフィールや演奏会情報、レッスン案内、SNSへのリンクなど、必要なコンテンツは揃っていて、パッと見とてもよく出来たサイトでした。

ただ、一つ気になったのが「ターゲットの設定」なんです。その点を訪ねたところ、このスタッフは、

「いろんな人に演奏を聴いてもらいたいし、習いに来てもらいたい」

と答えました。

一見全く間違っていないんですけど、不特定多数の人をターゲットにするのは実は難しいんです。言い換えれば、これは不特定多数の人をターゲットにしているのではなく、単にターゲットを絞れていないだけで、前述の「的外れ」な状態とあまり変わりありません。

老若男女、不特定多数の人に愛されるためには、ディズニーランドやジブリ映画のような絶対的とも言える価値がないといけないと思いますが、それでも最初は「子ども向け」といったターゲットがあり、その子どもと一緒に親も楽しみ、子どもたちが大人になって、それをまた自分の子どもに伝えるようにして、長い年月をかけて幅広く広がっていったと考えられます(ターゲットを絞らないのとは全く意味が違います)。

タピオカドリンクもそうですよね。若い女性がブームの火付け役になった事で、彼氏や男友達も一緒に頼んだり、あまりにもブームなのでターゲット層でない人も試しに買ってみた事で広がっていったはずです。つまり、

漠然と「いろんな人に演奏を聴いてもらいたいし、習いに来てもらいたい」と考えるより、最初はターゲットを絞ったほうが結果的にうまくいく可能性が高いのです。

アーティスト色が前面に出ているページでは、おそらくレッスン募集はかすんで見えるし、逆に、アーティストとして演奏をメインでやっていきたいのであれば、レッスン募集は載せないで、コンサートやライブ動画を1番目立たせたほうが良いかもしれません。

「二兎追うものは一兎も得ず」ということわざもありますが、「この人、何がやりたいんだろう?」とお客様に思われてしまうコンテンツでは、結果集客がうまくいかない可能性が高いです。

僕の場合、演奏の仕事はネット経由でなく、すでに繋がっている人脈で直接電話やメールで入ってくる事が多かったので、ホームページは「音楽教室」という見せ方に特化していました。

教室の特徴 | Mt. Fuji Music
https://mtfujimusic.com/lesson/

最近はまたターゲットや戦略が変わり、リニューアルしているので、以前とはだいぶ違うのですが、現状のものも、少なくとも僕が若い女性や子どもをターゲットにしていないのは分かると思います。

「子どものための音楽教室」であれば、当然写真は子どもが楽しく演奏しているものを使用したり、文章は、実際にお金を払ってくださる親御さんに信頼されやすい内容を意識すると思いますね。

「女性向け」であれば、ページ全体の色合いを、ピンクやパステルカラーを基調にするかもしれません。ターゲットが漠然としていると、このような戦略の立てようがないのです。

ビールメーカーのペルソナマーケティング

もう一つ、これはビールメーカーの例ですが、「ヤッホーブルーイング」さんという会社をご存知でしょうか?ビールと言えばキリンの一番搾りやアサヒのスーパードライなどが有名ですよね。ビール業界もまさにレッド・オーシャンで、キリン、アサヒ、サントリー、サッポロなどの大手が全体のシェアの99%を締めており、残りの1%をその他のクラフトビールで争っているらしいです。

「ヤッホーブルーイング」さんは、あえて大手がターゲット層にしていない、「ビールを飲まない女性」をターゲットにし、そういった方が飲みやすい、一番搾りやスーパードライなどとは全くコンセプトの違うビールを作って成功しました。さらに凄いのは、ターゲットをまるで実在する人物のように具体的に設定した点です。

・30歳前後の女性
・責任ある仕事をしているOL
・住んでいる場所は東横線、日比谷線沿線(駅は中目黒、自由が丘)
・休日は朝からヨガに通う
・独身又は既婚で子どもはいない
・お酒や美味しいものが好き
・ファッションなどのこだわりが強い

こんな感じです(このような具体的な設定をする事を「ペルソナマーケティング」と言います)。

これらを元に、料金や売る場所などを綿密に計算していきます。

商品名も「よなよなエール」、「水曜日のネコ」、「インドの青鬼」、「僕、ビール、君、ビール」など、とてもユニークで、パッケージデザインも明らかに大手の王道とは違います。

ですが、ここまで徹底すると、お客様が付くんですね。この会社がキリンやアサヒと真っ向勝負をしていたら、ここまでうまくいかなかった可能性が高いでしょう。僕はビールが好きで、普段はエビスやサントリープレミアムモルツが多いですが、飽きてきたり、食べる料理によっては「よなよなエール」、「水曜日のネコ」などを買うようになりました(結果ターゲット層でない人も買うようになる例です)。

音楽家の場合でも、有名な大手教室とは違うターゲット層を狙い、それにあった生徒さんの人物像をイメージ(ペルソナマーケティング)出来れば、成功の可能性が上がるかもしれません。

もちろん音楽教室だけではなく、コンサートやライブの集客にも役立つ考え方です。

皆さんも、ホームページやSNSでの集客がうまくいっていないと感じるなら、一度「ターゲット」を明確に出来ているか見直してみましょう。良くないのは「闇雲に何も考えず、的にダーツを投げ続ける行為」。

すぐにうまくいくとは限りませんが「ターゲット→戦略」という順番で物事を考えていれば、うまくいかない場合はターゲットを変えたり、戦略を変えれば良いだけの話なんです。それをひたすら繰り返す。このような「トライアンドエラー」はコンビニなどの大手でも、常にやっている事です。

ビジネス的なマーケティングの視点をもち、より納得、充実した音楽活動が出来るように工夫してみてください!

次回へ続く→

次回記事:NSU経済・経営学部 Vol.8『5W1Hを用いたマーケティング』
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